国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)、竹中工務店、キリンホールディングス(以下、キリン)、国立大学法人千葉大学(以下、千葉大)、東京理科大学(以下、東京理科大)は、将来の月探査等での長期宇宙滞在時における食料生産に向けた技術実証を目的として、世界初となる宇宙での袋型培養槽技術の実証実験を、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟内で実施した。

密閉した袋内で栽培されたレタス(左:収穫前の様子 右:地上に回収する前の様子)

■実験の背景

近年、月や火星などの天体へ人類の活動領域の拡大を目指す機運が高まっている。そのための技術の一つとして、JAXAは、地球からの補給に頼らず、月面に農場を設営し長期滞在のための食料を生産するという構想を立てて研究を行っているとのことだ。

将来的に月面に農場を設置することになれば、作物を安定して生産するために病害虫防止と緊急時食料のバックアップの対応が必要となる。また、地球からの輸送にあたっては栽培システムの積載重量低減も求められるという。

そこで、JAXA、竹中工務店、キリン、千葉大、東京理科大は、JAXA宇宙探査イノベーションハブの共同研究提案公募の枠組みの下、2017年から宇宙での適用も想定した袋型培養槽技術の共同研究を行ってきた。

袋型培養槽技術は、小型の袋の内部で植物を増殖させる点が特長的で、この技術を用いた栽培方式は、密閉した袋内で植物を栽培するため、雑菌の混入を防ぎ、臭気発生がないコンパクトなシステムとなっている。

また、設備も簡易でメンテナンスしやすく、省エネルギー性があり、人数に合わせた数量調整も容易。

これまでの共同研究の結果を踏まえ、さらに宇宙空間の微小重力環境下や閉鎖環境下における同栽培方式の有効性や、水耕栽培や土耕栽培と比較した際の優位性を確認するため、「きぼう」船内での袋型培養槽技術によるレタス生育の実証実験を実施したという。

■実証実験の概要

今回の実験は、2021年8月27日から10月13日までの48日間とし、期間中に培養液の供給および空気交換を行い、生育の促進を図った。9月10日にはレタスの本葉を確認し、その後も順調な生育を続け、収穫に至ったとのことだ。

実証実験用に開発した栽培装置は、打ち上げ時の積載重量低減のため、大きさ(幅44㎝×奥行35㎝×高さ20㎝)と重量(5kg)を抑えながらも、3袋の栽培が可能。

内部にはISSの飲料水から培養液を作成し無菌化して各培養袋へ供給できる給液システムおよび生育状況を定期的に自動撮影できるシステムを備えているという。

今後は、生育したレタスと培養液、生育の様子を撮影した記録を回収し、宇宙での適用可能性や同栽培方式の優位性を評価。

また、育ったレタスに食品衛生上の問題がないかの確認や栽培後の培養液を分析し環境制御・生命維持システムで再利用処理が可能かについての確認も実施する予定であるとしている。

地上での袋型培養槽による栽培状況

■期待される今後の活用

将来的には、この袋型培養槽技術を用いることで、一度に大量の葉菜類の栽培だけでなく、ウイルスフリーな苗の育成にもつながるなど、惑星探査時の長期の宇宙船内滞在時や滞在施設での大規模栽培への活用が期待されるとのことだ。

月面農場モデルイメージ

袋型培養槽技術が持続的な宇宙活動へ貢献するよう、今後も研究を進めていくとしている。