米国で今年2月頃からメディアを賑わせている「NFT」。今夏から日本のソーシャルメディアでも「NFT」に関する発信が増えている印象だ。
NFTとは「Non Fungible Token」の略。ブロックチェーンによってユニークなIDが付与された写真・動画・アニメ・アートなどのデジタルファイルのことを指す。デジタルファイルは無限にコピーすることができるが、ブロックチェーンによるユニークIDを付与することで、それを唯一無二のものとすることができる。
現在NFT市場は米国を中心に多くのユーザーと資金が流入し、急速に拡大、大手企業も続々参入しており、経済社会トレンドとなりつつある。
今回はDappRadarの市場レポートをもとに、NFT市場の全体像を俯瞰してみたい。
シャキール・オニール氏など著名人の参入で盛り上がるNFT市場
米テックメディアで「NFT」というワードが頻繁に登場するようになったのは2021年2〜3月頃。この頃、ネコのピクセルアート「Nyan Cat」のNFTに60万ドル(約6600万円)相当の値段がついたことで大きな話題となった。
一方、データを見ると、NFT市場の拡大期は少し後となる7月からだ。
DappRadarの最新市場レポートによると、7〜9月期のNFT取引高は、106億7000万ドル(約1兆1945億円)と前期(4〜6月)比で704%増と脅威的な伸びを見せた。Nyan Catがメディアで注目された1〜3月期の取引高は4〜6月期とほとんど変わらない。
また7〜9月期の取引高を前年同期と比べると3万8060%増となる。
DappRadarは、7〜9月期にNFT市場が急拡大した理由はいくつかあると指摘。1つは、音楽界やスポーツ界の著名人によるNFT市場参入だ。直近では、音楽界からスティーブ・アオキ氏、スヌープ・ドッグなど、スポーツ界からは元NBAプレーヤーのシャキール・オニール氏などがNFT参入を明らかにしている。
著名人の参入にともない、アーリーアダプターだけでなく一般消費者層にもNFT認知が広がったとみられる。
こうしたトレンドを背景に、8月にはクレジットカード大手VisaがNFTの人気ピクセルアート集「クリプト・パンク」の1つを15万ドル(約1679万円)で購入。このことは、テックメディアだけでなく一般的なニュースメディアでも多数報道されており、一般消費者の認知向上に一役買ったと思われる。
NFTの推定時価総額
DappRadarのレポートでは、NFTの個別アセットの現在の価格を総合した「時価総額」を算出しており、全体像を把握する上で大きな助けとなる。
DappRadarの推計によると、9月時点のNFT市場の合計時価総額は141億9000万ドル(約1兆5885億円)。この額は、各マーケットプレイスで取り引きされているNFTのうち、価格が高いトップ100の合計値だ。
市場シェアは「クリプト・パンク」が43.4%で1位。これに「Bored Ape Yatch Club」が14.5%、「NBA Top Shots」が6.5%、「Meebits」が3.4%と続く。
クリプト・パンクはもともとカナダのソフトウェア開発エンジニア2人のチーム「Larva Labs」がロンドンのパンクシーンなどからインスピレーションを受け、制作したピクセルアートだ。その種類は1万点に上る。
Larva Labsウェブサイトによると、これまでの取り引き額最高は「#3100」のピクセルアートで、今年3月に4200ETHという額で購入された。当時のレートで米ドル換算すると、約758万ドル(約8億4700万円)。この「#3100」を持つ現在の所有者は、1億1116万ドル(約124億円)という額を提示し、次の購入者を募っているところだ。
スポーツ業界のNFT利用、NBAの取り組み
DappRadarが推計するNFT市場合計時価総額で3位に位置するNBA Top Shotは、他のスポーツ業界にとっても有益な先行事例となるかもしれない。
NBA Top Shotとは、NBAの試合におけるハイライト動画をNFT化し販売するマーケットプレイスだ。
2020年12月の売上高は150万ドル(約1億6780万円)だったが、2021年2月に2億3200万ドル(約259億円)、続く3月にも2億3000万ドル(約257億円)と急騰。その後、4月に9250万ドル、5月に6230万ドル、6月に5310万ドルと下落傾向にはあるが、NBA Top Shotのプラットフォームを所有するブロックチェーンスタートアップ「Dapper Labs」は9月末に2億5000万ドル(約279億円)を調達しており、再び売上を高める何らかのアクションがあるのではとの期待が高まっている。
現在NFT市場では、NFTマーケットプレイスを通じた取り引きだけでなく、ゲームプレイ中にNFTを取得できる「Play to Earn」という仕組みが広がり、NFTユーザーの裾のを広げている。市場はどこまで拡大するのか、今後の動向を注視していきたい。
文:細谷元(Livit)