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最近日本でも、さまざまなメディアで取り上げられ、耳にするようになったのが、「生理の貧困」という言葉だ。内閣府男女共同参画局は「経済的な理由などから、生理用品を入手することが困難な状態にあること」としている。
15~24歳の日本女性2000人に対し、国際NGOプラン・インターナショナルが今年3月に行った調査では、「生理用品の購入ができなかった・ためらった」という回答を寄せたのは36%に上った。
一方世界では、約5億人の女性が生理の貧困に陥っているという。ユニセフをはじめとする国際的組織やNGO、研究者の多くは、生理の貧困とは、経済的な理由で生理用品が入手できないことのみでないとする。
「水が使え、生理の際に安心して利用できる衛生管理が行き届いた施設」や「生理に関する教育」の欠如、「スティグマからの解放」がなされず、「女性が必要とする生理衛生管理を享受する権利、特に尊厳の権利」が無視されていることが、生理の貧困だとしている。
途上国に限られた問題と受け取られがちだが、日本のような先進国でも見受けられる。国によっては、地元NGOだけでなく、政府が対処に乗り出したところもある。
米国では5人に1人が生理用品を買えない
生理用品を買えないという経験をしているのは、生理用下着のブランド、シンクス+ピリオドの2019年の調べでは、米国の10代女性の5人に1人、プラン・インターナショナルの2017年の調べでは、英国14~21歳の女性の10人に1人だという。
生理用品が購入できないのは値段の高さが原因だといわれる。避妊薬提供を通して女性の健康を見守る米国の組織パンディア・ヘルスが、女性1人が生涯に月経衛生管理に費やすコストを計算している。
月経が13歳に始まり、51歳に閉経したとしよう。この38年の間に月経は456回訪れる。つまり2280日間分、もしくは6.25年間分、生理用品に頼らなくてはならないということだ。
生理用品といっても、タンポン、生理用パッド、月経カップなどとチョイスがあるが、パッドを使用したケースを紹介すると、パッド代は4752USドル(約53万円)で、生理の前後の軽い日にパンティライナーを使って、443.33USドル(約5万円)。女性は生涯に、計5195.33USドル(約58万円)を月経のために使っているのだ。さらに生理痛がひどいときに飲む痛み止め、下着の買い替えなど、月経に関連する出費は決して少なくない。
値段が高い生理用品に、さらに税金がかけられている国や地域がある。「タンポン税」や「ピンク税」と呼ばれるものだ。タンポン税は生理用品を基本的生活必需品と見なさないために課されている付加価値税。ピンク税は男女同じような商品でも、女性用のものだけに課されている税だ。
パッドやタンポンの代わりに、新聞紙や布

生理の貧困に陥っている女性たちは、生理用品が手に入らないとき、月経にどのように対応しているのだろうか。これはどの国でも似たり寄ったり。パッドやタンポンの代わりに、トイレットペーパーや、新聞紙、布、カーペットの切れ端などを使用しているという。
不適切な代用品を使用したり、生理用品があり、使ったとしても、交換する頻度を減らしたりすれば、衛生管理が行き届かなくなる。最終的には生殖器感染症や尿路感染症など、身体的な健康を損ねることになる。
生理用品ブランド、ユー・バイ・コテックスと、生理の貧困の解決を目指す米国の組織アライアンス・フォー・ピリオド・サプライズの2019年の調査によれば、生理用品を使えないことは、女性の精神的健康にも影響を及ぼしているそうだ。生理用品を入手できないこと、そのためにいつも通りの行動をとれないことで、困惑・落胆し、うつ病につながる可能性もある。生理の貧困は、自己認識やメンタルヘルスに直接的関係しているという。
生理用品がないことで不登校に
学生の場合、学校や大学を欠席することが多くなる。適切な生理用品を使えないことで、漏れを気にしたり、ひどい生理痛なのに、痛み止めがなかったりというのが理由だ。ニュージーランドで貧困家庭の子どもを支援するキッズキャンは2019年の調査で、生理用品が入手できないために、学校を欠席するという学生が約30%に上ることに触れている。
米国でも同様の傾向だ。同年のシンクス+ピリオドによる報告書では、84%の10代女子学生が生理用品がないために授業を欠席した・そうした人を知っていると伝えている。
生理の貧困は、女性から教育を受ける権利を奪っている。毎月約1週間授業を欠席すれば、徐々に勉強に追いつけなくなる。それが積み重なれば、学校を中退する学生も出てくる。無資格での就職は難しいのは言うまでもなく、生活保護に頼らざるを得ない女性も出てくる。生理用品の有無が、人1人の人生を左右するケースもあるのだ。
職場の女性にも、生理の貧困は影響している。学生と違い、本格的な調査・研究はまだ不十分だ。そんな中、非軍事の海外援助を行う政府組織、米国国際開発庁が2019年に再調査を行い、推論を展開している。それによれば、生理の貧困は、賃金損失、常習欠勤、欠勤すれば仕事を失うかもしれないと出勤するために、非勤務態度の悪化、尊厳や自信の喪失などに通じているという。
生理の貧困は、女性からチャンスを遠ざけている。女学生にとっては教育の、仕事に就く女性にとっては昇格や転職の機会が遠のく。時には、そのチャンスを永遠になくしてしまうこともある。
英スコットランドで、全女性が無料で入手できるように

生理の貧困の解決に少しでも近づくために努めているのは、NGOや慈善団体が多い。しかし近年、その動きは地方自治体や政府にも広がってきている。
英スコットランドは昨年11月から、世界に先駆けて、国内の全女性が無料で生理用品を入手できるようになった。納税者の負担は年間2400万ポンド(約36億円)と推定されている。同国は2018年から、学校・大学の女学生のために生理用品を無料で提供している。これも世界初だそう。英イングランドでは昨年、すべての公立校で生理用品の無料提供制度が導入された。
ニュージーランドは今年6月から、国内の公立校が教育省を通じ、政府から260万NZドル(約2億円)の資金を得て、女子学生に生理用品を提供するようになった。資金は2024年6月分まで調達済み。この取り組みを発展させ、学生とその周辺の大人に向けた、月経に関する教育を充実する方法を模索していくことにしている。
フランスでは、高等教育担当首省が学生団体などと協力し、すでに大学生に対して、また昨年10月には、実験的にイル・ド・フランス地方の31の高校に通う学生に対し、オーガニックの生理用品を配布する取り組みが行われている。
オーストラリアのビクトリア州では、国内の州・準州として初めて、2,070万AUドル(約17億円)を投じ、州内の公立校で2019年から生理用品を無料で提供している。少なくとも2023年6月までは継続される予定だ。同州のメルボルン市のブログラムはこの9月から1年間、必要な人はだれでも生理用品を無料で提供してもらえる。1年に1万AUドル(約80万円)の資金で運営。市は他の組織とも提携して、より広範囲で恒久的なプログラムを展開しようとしている。
南オーストラリア州もこれに続き、2021年2月に、日本でいう小学校5年生以上のすべての女子学生に生理用品の無料提供を始めた。このプログラムには、3年間で約45万AUドル(約3600万円)の費用が充てられる。
また生理の貧困を緩和するために、タンポン税・ピンク税を引き下げたり、廃止したりする国が出ている。例えば、ドイツは昨年から課税率を19%から7%に引き下げた。フランス、スペイン、ポルトガル、オランダなどのEU諸国に続く動きだ。そのほかカナダ、オーストラリア、ケニア、インド、米国全50州のうちの21州などが、税の廃止・引き下げを行っている。
月経についての正しい知識を当事者以外にも

世界経済フォーラムのウェブサイトには、同組織のグローバルアジェンダが掲載されている。その1つ、「教育と技能」のページには、「生理の貧困をなくすためには、無料の生理用パッド以上のものが必要とされている」という記事が載せられている。
それによれば、生理用品を無料提供したり、入手しやすいように税を下げたり、廃止したりというだけでは、生理の貧困は解決しないと指摘する。これはプラン・インターナショナル本部(英国)が2018年に発表した報告書、「障壁を乗り越えよう:英国での少女たちの月経経験」に掲載された意見と同じだ。
必要なのは教育だ。月経がある少女・女性だけでなく、少年・男性も一緒になって継続的に学ぶことが重要だという。生物学的に月経とは何なのか、生理の身体的、感情的、社会的、実用的な側面をカバーする。
生理で経験することは人によって違うことを明確にし、生理がもたらす身体的・感情的症状のうち、助けを求めるべきなのは何なのかを判断できるようにする。そして、生理時の少女・女性にとって、どのようなことが障害になって、登校できなかったり、自由に行動できなかったりするのかも明らかにする。
学校側は、全教師にトレーニングを施し、月経の正確な情報を提供。女子学生が生理について、躊躇することなく話せるよう準備をしなくてはいけない。間違った社会通念を打破して、月経を否定したり、卑下したりするようなことは言わないよう注意を払う。
保護者への教育も忘れてはいけない。保護者が正しい知識を身につけ、羞恥心を持たずに、子どもと月経の話ができるようにする。どれだけ学校で教育を徹底しても、自宅で同様の姿勢・情報をもって子どもに接することができなければ、月経についての教育は身を結ばない。
世界経済フォーラムの先の記事には、リーズ大学を卒業したエリザベス・グールデンさんが、修士論文のために2018年に行ったリサーチが紹介されている。国際開発学を専攻していたエリザベスさんは、月経にまつわるタブーについて途上国のウガンダと、先進国の英国両国の女性にインタビューした。
リサーチをしている最中に、自らの経験を話せば、相手の女性もざっくばらんに月経の経験を話してくれることに気づき、勇気づけられたという。またある男性へのインタビューを通し、男性でも月経について真剣に考えている人がいることを知り、エンパワーされたことが記されている。
生理の貧困に対応するための教育には、途上国も発展国も関係なさそうだ。正しい知識を身につけるだけでなく、知識をベースに、周囲の人びとがどれだけ月経と、月経になる少女・女性を理解してくれているかで、個々の経験は大きく変わってくる。生理用品の提供は、生理の貧困を解決するための第一歩に過ぎない。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)