多くの「性犯罪」が処罰されない。先進国と比べて、こんなにも遅れている日本の現状

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10月11日は、「国際ガールズ・デー」。「女の子の権利」や「女の子のエンパワーメント」の促進を広く国際社会に呼びかける日として、国際連合によって定められ、2021年で10回目となる。

近年の日本では、大企業を中心に「女性活躍推進」や「ダイバーシティ」が促進され、時代を変えようとする動きが確実に見られる。しかしその一方で、先進国と比較すると対策が遅れている面も見逃せない。

本記事では、改正が叫ばれている「性犯罪」にまつわる刑法、及び遅れが指摘される「性教育」を取り上げ、先進国との違いを紹介したい。

多くの性暴力が「性犯罪」として処罰されない日本の現状

日本では、2017年に性犯罪に関する改正刑法が施行され、厳罰化が進んだ。明治40年の制定以来、改正は実に約110年ぶりのことだ。大きな変更点だけを拾うと、以下の3点があげられる。

1. 「強姦罪」から「強制性交等罪」への名称変更

名称の変更に伴い、その内容も以下のように変更された。以前は、被害者は「女性のみ」とされていたが、男性も含まれるようになった。男性への性行為のほか、オーラルセックス(口腔性交)も対象となる。加えて、もっとも短い刑の期間を3年から5年に引き上げるという厳罰化も実施された。

2.「監護者わいせつ罪」と「監護者性交等罪」を新設

これらは、家庭内での性的虐待を念頭に置いた刑法だ。親などの監護者が、その立場を利用して18歳未満の子どもに性的な行為をした場合に、暴力や脅迫がなくても処罰できる。ただし、産経ニュースの報道によれば、教員やスポーツ教室の指導者は原則対象ではないとのこと。

3.「親告罪」の規定を削除

以前の「強姦罪」では、加害者への処罰を求めて起訴する場合に、被害者の告訴が必要とされていた。しかし、改訂によって告訴がなくても起訴できるように。改正刑法が施行される以前の事件にも、原則適用される。この改正により、被害者の心理負担により性犯罪が裁かれない、といった従来の課題の解消が期待される。

これらの改正は確実に前進ではあったが、次項で紹介する先進国と比較すると、その内容は十分とはいえない。それは、日本で多くの性犯罪が処罰されていない現状にも現れている。

刑法性犯罪の改正を目指す一般社団法人Springが2020年に実施したアンケートによれば、5899件の回答のうち、被害者の83.8%(4944件)が被害を警察に相談していない。警察に相談した被害者(894件)も、約半数が被害届を受理されなかったと回答した。

この数を見ると、明るみに出ていない性犯罪が世の中にあふれていることは明らかだ。

その一つの要因として、強制性交等罪の成立にあたり「抵抗できないほどの暴行、あるいは脅迫があったこと」を証明しなければならない点がある。例えば、被害者側が「同意がなかった」と主張しても、性的な行為を罪に問えないのだ。

「同意がなければレイプ罪」先進国スウェーデンの法改正

そうした背景があり、話題を集めたのが、スウェーデンで施行された2018年7月の刑法改正だ。その内容は、暴行・脅迫要件を削除し、同意のない性行為を罪に問えるというもの。政府は「性行為は自発的でなければならない」と話し、「イエス」という明確な同意が示されない限り、「ノー」と解釈されるという。

同国の以前の法律では「加害者が暴力を使用したこと」、または「被害者がアルコールの影響下などの脆弱な状態で被害にあったこと」を証明する必要があったが、その必要がなくなった。この改正では、過失レイプ罪と過失性的虐待罪を導入し、最長4年の懲役を科している。

さらに、たとえ同じベッドで眠ることに同意し、女性が下着しか着用していなかったとしても、自発的な性行為の参加の証明にはならないと判断し、過失レイプ罪に当たるという最高裁の判例も示されている。

BBC Newsの報道によれば、スウェーデンのほかに、イギリス、アイルランド、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、キプロスでも、同意なしの性行為が「レイプ罪」とみなされるそうだ。

「性交同意年齢引き上げ」も視野に、法改正を検討

こういった先進国の動きなども見据え、日本でも法改正が進みつつある。2021年5月には、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」が、刑法などについて議論した報告書を上川陽子法相に提出。法務省は法改正に向けた検討に入ると報道された。

朝日新聞の報道では、法改正の検討について以下の内容が示された。

「報告書は、『性犯罪の処罰規定の本質は同意のない性行為にある』としつつ、被害者の不同意のみを要件とする性交罪の新設には処罰の範囲に『課題が残る』と指摘した。そのうえで、強制性交罪と準強制性交罪が成立する要件に、『威迫』を用いたり『睡眠』や『酩酊(めいてい)』につけ込んだりする行為を追加して例示する意見を盛り込んだ」

ここに書かれた「威迫」とは、人をおどしたり、威圧して不安を感じさせたりして、従わせようとすること。また、「酩酊」とは、ひどく酒に酔うことを表す。つまり、スウェーデンのように「積極的に同意していない」という条件だけでは、強制性交等罪に問われないということだ。この点は、まだ議論の余地が残り、日本の課題といえる。

また、現在の刑法では13歳と定められている「性交同意年齢」の引き上げと、処罰規定のあり方も検討されるとのこと。現状では、13歳に満たない年齢の子どもと性行為を行った場合、同意や暴行脅迫の有無を問わず、加害者は処罰の対象になる。

他国の「性交同意年齢」は、アメリカが16〜18歳(州によって異なる)、イギリス・カナダ・フィンランド・韓国などが16歳、フランスが15歳、ドイツ・イタリアが14歳となっており、日本の13歳は低年齢となっている。日本の「性交同意年齢」は、明治時代に制定され、そこから一切変わっていないのだ。

「真摯な恋愛は保護されなければならない」「13歳や14歳でも真の同意はあり得る」といった「性交同意年齢」の引き下げを反対する意見も理解できなくはない。しかし、性教育の遅れも指摘される日本において、現在の刑法は犯罪を野放しにしてしまう懸念は大きすぎるのではないか。

「性教育」もこんなに違う。先進国デンマークの事例

筆者が留学していたデンマークの成人教育機関「フォルケホイスコーレ」の授業の様子(筆者撮影)

日本では「性教育」が長らくタブー視されてきた歴史があり、小中学生が学校や家庭で「性」について幅広く教えられることは多くないはずだ。実際、文部科学省が定める教育課程の基準である「学習指導要領」では、理科や保健体育では「受精や妊娠に至る過程は取り扱わない」という、「はどめ規制」がある。

関西テレビが京都市立の小中学校を対象に行ったアンケートでは、回答があった学校のうち約65%が、「今の性教育を不十分、もしくは不十分だが仕方ない」と回答したそうだ。「教えてはいけないことが多すぎる」ともどかしさを感じる教師もおり、性教育が不十分である背景に、「学習指導要領」の取り決めが影響していることは明白だ。

一方、1967年に世界で初めてポルノを解禁したデンマークは、「性教育」の先進国として知られる。1970年には、義務教育課程に学校での性教育を導入。その多くは未就学期から始まり、小学生になると本格的なカリキュラムに沿った性教育となる。未就学期は、「プライベートゾーンについて」「ノーという意思表明をする」「子どもが生まれる仕組みを話す」の3点を教えることが一般的だという。

性教育に積極的であることが表れている事例として、デンマークでは1971年に子どもがどのようにして生まれるのかを描いた絵本「あかちゃんはこうしてできる」を出版。今では35カ国で翻訳・発売され、世界中で読まれている。

さらに、中学生向けの教材ポータルサイトで「#MeToo」を学習テーマとして取り上げ、性差別や性暴力を学ぶほか、高校ではAVを鑑賞してディスカッションをする授業を行う学校まであるという。

筆者は、2020年1月から6月まで、デンマークの成人教育機関「フォルケホイスコーレ」(17歳以上の生徒が在籍)に留学していたが、学校内では「性」に関してかなりオープンだった。学校のトイレには常時コンドームが置かれていて、生徒全員を対象にした「コンドームの使い方」講座の実施も。バナナを使ったユーモラスな実演を交えて、分かりやすく教えていた。

学校内のトイレに置かれていたコンドーム(筆者撮影)

「性差別」や「性犯罪」を減らすには、「性」にまつわる正しい知識を持ち、だれもが「自身の権利は守られなければならない」と知る必要がある。日本では、小中学校で「受精や妊娠に至る過程」を教えてはいけない規制があるのに、なぜ「性交同意年齢」は13歳なのか。「性犯罪」に関する法改正のみならず、「性教育」も見直されるべきではないだろうか。

文:小林香織
編集:岡徳之(Livit

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