全日本空輸(以下、ANA)および日本航空(以下、JAL)は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて普及が期待される持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel 以下、SAF)の活用促進に関する市場調査を行い、考察をまとめたレポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」を策定したと発表した。
今回のレポートでは、SAFの有用性や必要量等について調査を行うことで、日本の航空業界において主に課題となる燃料の生産体制、流通・活用、そして諸外国および次世代へのインパクトに関する現状などについて読み解き、2050年CO2排出実質ゼロの実現に向けてカギとなる活動を明らかにしたという。
【レポートの主なポイント】
・SAFはバイオマスなど、収集・生産から燃焼までのライフサイクルでCO2排出量を従来の燃料より約80%削減することができるため、2050年に航空輸送によるCO2排出実質ゼロを実現するうえで不可欠な代替燃料。
また、空港等で給油する際、既存のインフラをそのまま活用できる点においても評価できるとのことだ。
・現在の世界のSAF生産量は需要の0.03%未満に留まっており、量産と普及が急務となっている。
2050年の環境目標を実現させるには、航空輸送に関わる産業が横断的に協力してSAFの技術開発、生産および利用を加速させ、2030年には最低でも使用燃料の10%をSAFへ移行するマイルストーンが必要であるとのことだ。
・航空輸送事業の成長率予測をもとに、2050年におけるCO2排出削減手法としてSAFを積極活用した場合に本邦航空会社の国内線と国際線および日本に就航する外国航空会社が日本の各空港で給油するために必要なSAFの量を算出したところ、2050年にCO2排出量実質ゼロを実現するためには日本で最大約2, 300万KLのSAFが必要という結果が分かったとしている。
・欧米諸国に比べ、アジア圏におけるSAFの生産・商用化は現状発展途上の状況ではあるが、今後航空需要が大きく拡大すると見込まれるアジア圏におけるSAF市場は2050年には約22兆円におよぶ巨大な市場になると見込まれているという。
また、今回の共同調査の過程において、環境目標達成に向けたコミットメントを新たにした両社は、世界経済フォーラムのクリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー・コアリション(Clean Skies for Tomorrow Coalition)に参画し、世界の航空業界で使用される燃料に占めるSAFの割合を2030年までに10%に増加させることを目指す「2030 Ambition Statement」宣言に共同で署名。
ANA・平子裕志代表取締役社長は以下の通り述べている。
急速に進む気候変動への対策は待ったなしの状況であり、今、私たちの世代が行動を変える必要があります。航空輸送を取り巻く関係者の皆様とともに、産業全体でSAFの普及を着実に進めることで、青い空を子供世代へ継承していきたい。そのような思いで、この共同レポートを作成しました。
また、JAL・赤坂祐二代表取締役社長は以下の通りコメント。
人と人をつなぎ、国と国との橋渡しを担うエアラインの役割は将来にわたっても変わることはありません。航空の将来を持続していくためには、SAFという新たなエネルギー、そしてさまざまな知見を有する多くの人々の協力が不可欠です。協力の輪を拡げていくために、ANAとJALは手を携えながら、日本の産業界に働きかけてまいります。
これまで航空輸送は、人とモノの両面で世界をつなぎ、国際交流、経済成長を支えてきた。
新型コロナウイルス感染症の収束後に航空需要が回復し、経済成長を支える公共交通インフラとしての役割を再び担っていくうえで、SAFの活用は持続可能な航空輸送の実現に向けて有効なソリューションであるとしている。
また、日本の成長し続けるアジア圏のメインハブとしての機能や、日本発着の航空ネットワークおよびグローバル社会における日本の競争力を維持するためにも必要不可欠。
そのためにはSAFの技術開発、量産、普及にかかるインフラ投資への政府支援とあらゆる産業セクターで横断的に取り組むことが重要であるとのことだ。
ANAとJALは二社共同で持続可能な航空輸送を未来に継承することを目指し、さまざまな関係者と連携してSAFの普及に努め、次世代に課題を先送りすることなく、今後も持続可能な航空ネットワークで日本の産業全体に貢献していくとしている。