Z世代を中心とする若者30名で海洋プラスチックごみ問題に取り組むNPO法人・UMINARI。同団体の代表・伊達敬信(だて・たかのぶ)さんは、さまざまなステークホルダーをつないで問題解決を目指している。世界で「脱プラ」の動きが進む中、日本が抱えるプラスチックごみ問題の現状と解決方法、ご自身の活動などについてお聞きした。
意識を持たないと、プラスチックごみの存在に気づかない
――まずは、伊達さんがプラスチックごみ問題に取り組まれたきっかけを教えてください。
大学2年時にアディダスでインターンをしたとき、海洋プラスチックごみをアップサイクルした「ADIDAS×PARLEY COLLECTION」のシューズと出合ったことがきっかけです。初めはデザインのかっこよさに惹かれたのですが、どのように作られているのかストーリーを知りたくなりました。調べていくうちに、海洋プラスチックごみの問題に興味を持ち、問題を解決するために、「何かやらなくては」と思いました。そこで、地元の千葉の海岸でごみ拾いを始めたのです。
サーフィンをするなど、それまで海と親しむ機会は多かったのですが、海岸がごみだらけという印象なんてなかった。ところが、「ごみを拾う」という目的を持って海岸を見てみると、本当にたくさんのプラスチックごみが落ちているんです。ペットボトルのような比較的大きめのごみだけでなく、砂浜をよく見てみると、プラスチックの破片や、「レジンペレット」と呼ばれる直径数ミリのプラスチックの粒などが砂に交じっている……。これまで何度も海に来ていたのに、全く気づかなかったことはショックでした。プラスチックごみのことを意識して初めて、身近にあるごみの存在に気付くのだと痛感しました。
──海洋プラスチックごみ問題に興味を持ち、最初に行ったことが海岸でのごみ拾い。とてもストレートなアクションに感じます。問題に取り組むにあたり、他のアプローチは考えなかったのでしょうか?
僕は、大きなアイデアやビジョンをすぐに体系化できないこともあると思います。それでも、自分がすぐできる小さなところからアクションを起こしていくことで、学びに必要な導線が作られたり、アイデアが後から浮かんだりすることがある。たとえそういうことがなかったとしても、何もしないよりはいい。そのようなモチベーションでスタートすればいいと考えています。
──伊達さんの場合は、ごみ拾いが次のアクションへどのようにつながっていったのですか?
ごみ拾いの活動をInstagramなどで伝えると同時に、大学の学部の仲間や後輩に話すなど、オンラインとオフラインの両面から発信していきました。その中で、一緒にやりたいという仲間が増えていきました。
そして一緒に活動していた同世代のメンバー9名で、2017年にNPO法人・UMINARIをスタートしました。現在、メンバーは30名で、ほぼ全員がZ世代。学生も社会人も所属しています。海洋プラスチックごみ問題の解決を目指して活動していますが、問題の捉え方は、メンバー一人一人違います。
たとえば、プラスチックごみ自体への関心というより 、動物が大好きだから守りたいという人もいれば、現代の大量生産大量消費や資本主義の在り方に違和感を持ち、産業構造を変えたいと考えている人もいる。僕は、どんな考え方でもOKで、「こういうモチベーションで取り組まないといけない」ということはないと思っています。最初は、海の生物に興味があったけど、活動するうちに、消費行動や経済に目が向いていくという変化もあるし、その逆もある。活動を通して意識変容が起こり、多角的に海洋プラスチックごみ問題を捉える姿勢が養われていくことも大切です。
消費者も企業も個では問題解決はできない。いまこそステークホルダーの連携が必要
――最近は、「脱プラ」というワードをよく見聞きするようになり、以前より生活者の関心が高まっているように感じます。伊達さんは、プラスチックごみ問題について日本の現状をどう捉えていますか。
日本は世界第3位のプラスチック生産国で、1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量は世界で2番目に多い国です。一方で、プラスチックの分別回収は世界でもトップレベルで進んでいて、ペットボトルの回収率は90%を超えています。また、プラスチックごみのリサイクル率が85%と高いのも特徴です。
プラスチックごみのリサイクルの中身を見てみると、「サーマルリサイクル」と呼ばれる熱回収が、60%を占めています。サーマルリサイクルは、プラスチックを燃やして、その熱を利用するものです。たとえば、ごみ焼却施設の隣に温水プール場を設けて、焼却した熱でプールの水を温めるなどの利用がされています。しかし、この方法はプラスチックが再生されるわけではないので、これをリサイクルと呼べるのかという議論があります。欧米でもプラスチックの熱回収は行われていますが、通常、リサイクルには含めていません。
では、他にどんなリサイクル方法があるかというと、一つはマテリアルリサイクルです。これは回収したプラスチックを、トレーや洋服など他の製品に作り替えるものです。このリサイクルは完全循環型ではなく、違う製品に作り替えたプラスチックを半永久的にリサイクルことはできません。
二つ目は、プラスチックを分子レベルに戻して循環させるケミカルリサイクル。これなら、ペットボトルからペットボトルが作れますし、何度リサイクルしても製品が劣化しません。日本にはこのケミカルリサイクルを行う高い技術力があります。しかし、いまのところケミカルリサイクルの需要は少なく、コストが高いという難点があります。
リサイクルでは、もうひとつ、日本や他の先進国は、長年にわたってプラスチックごみを資源としてアジアの国などにかなり輸出しています。輸出した国でリサイクルをするという前提ですが、実際に適切なリサイクルがされているかどうか、不透明な部分もあります。
このようなことを踏まえると、日本のリサイクル率は高いものの、半永久的に循環されているものは少ないというのが現状です。
──世界では毎年800万トンものプラスチックごみが海に流出し、このままだと、2050年には、海洋ごみの量が魚の総量を上回るという予測もあります。プラスチックごみは喫緊の課題ですが、どのような解決方法があるのでしょうか?
残念ながら、消費者個人や企業単体でできることは限られています。ですから、さまざまなステークホルダーが一丸となり、問題解決のためのシステムをつくるしかないと考えています。
包装材一つとっても、消費者がいらないと思っても、売られている商品に入っているなら、それを変えることはできません。消費者ができることと言えばごみを出すときに分別することぐらいです。一方で、企業側は、個包装をやめたい、もしくは他の素材に変えたくても、消費者がどう反応するかわからないし、他社に価格競争で負けるかもしれないから、やめられない。これでは問題が解決しません。しかし、幅広いコミュニケーションをとることで、こうしたジレンマの突破口を見出せると思います。
プラスチックごみ問題を解決する方法としては、他に政府からのトップダウンで、政策によってマーケット全体に規制をかけるやり方があります。メリットは即効性があり、拘束力があるところです。しかし副作用も強く、マーケットに負荷がかかります。プラスチックごみに対してEUでは税金をかける動きもありますが、なんでも税金をかけていくと消費者や企業に急な負荷がかかります。また、プラスチックの使用制限などをいきなり設けると、もちろんイノベーションの機会が創出されるともいえますが、既存の企業やシステムにとっては生産現場もサプライチェーンも混乱するため、税金の額面以上のコストが発生します。
僕がいつも思うのは、最終手段として政策から変える方法もあるけれど、そうなる前にマーケットの中から主体的に変わる方が実はコストが低いのではないかということ。企業もプラスチック使用について0か1かの判断ではなく、例えば、消費者の声を聴きながら、まずは一部を変えて検証してみることで急激な変化によるコストを回避するという考え方もあるはずです。
さらに、問題解決には、環境負荷の面での分析も必要です。プラスチックを紙や他の素材に変えたら本当に環境にいいのか。それを判断するにはサイエンスサイドとのコミュニケーションも大事です。テクノロジーの面においても、コストがいまは高いけど、将来どれくらい下がるのかを考える必要もある。ここ数十年で大幅に価格が下がったテクノロジーは数多くあります。ですからテックサイドとの連携も必要です。
──なるほど。ステークホルダーや企業同士の連携が大事なのですね。すでに動き始めている具体的なアクションはありますか?
今年行われた、「サステナブル・ブランド国際会議2021 横浜」で、僕は、環境省の環境事務次官・中井徳太郎さん、アサヒ飲料の社長で、全国清涼飲料連合会会長も務める米女(よねめ)太一さん、ケミカルリサイクル技術を持つ日本環境設計社長の高尾正樹さんと、ペットボトルについて、飲料メーカー全体としてどう変えていくかを議論しました。アライアンスも徐々にできつつあります。ペットボトルのケミカルリサイクルの割合はいま12%程度ですが、この比率を高めていかないといけない。これを業界全体でやっていこうと動き始めています。他の業界では、アパレル産業も機運は高まっていて、メーカーは自社でリサイクルシステムを持つべきではという話も出てきています。
UMINARIを、プラスチックごみ問題を解決するためのプラットフォームにしたい
──日本のプラスチックごみ問題の現状を踏まえて、UMINARIではどんな活動をしているか教えてください。
いまは4つの事業を柱に活動しています。一つ目は、海の清掃活動「Beach Clean」です。実際にごみを拾いながら、問題を肌で感じることはすごく大事です。そこから価値観が生まれることで、解決策を考えるときの厚みが違ってきます。UMINARIは全国に5つの支部があり、北海道から沖縄まで各地で月1、2回実施し、全体で年間100回ほどの年間計画で行っています。
二つ目は「Education」。小学校から大学まで、授業に参加させていただき、プラスチックごみ問題の現状を知ってもらったり、学生とディスカッションしたりしています。
三つ目は「Lifestyle Design」です。若い世代に対して、消費の在り方を実際に変えていこうと、YouTubeやワークショップで発信しています。
四つ目は、「Blue Impact」で、これは今年からスタートしました。「Blue Impact」は、ビジネスサイドに対して変化を起こすためのコンサルティング事業です。プラスチックを今後どう扱っていけばよいか、どんなシステムを組めば自社にとっても社会にとってもプラスの価値を生み出せるかを考え、企業に提案します。いまは1社ずつですが、もっと業界全体できればいい。そして最終的には消費者、企業、政府、調査研究機関、サイエンス、テック関連など全体が協働できるようなプラットフォームを先導できるような立場になるのが目標です。
結論をいうと、プラスチック問題について、まだ僕らはスタートラインにも立てていません。もともと僕がサードセクターのNPOを立ち上げたのは、中立性を生かしたかったからです。日本のNPOは、ボランティアという枠にとどまるものが圧倒的に多い。海外ではNPOはプラットフォームとして、いろいろな企業の間に立ち、ネットワークを作るなどの活動を行っています。コレクティブ・インパクトを業界レベルで生み出そうとしたときに、一企業がメインになるのでは角が立つ。それならば、NPOのような存在が業界全体や業界を超えた多用なセクターまでをもつないでいく。そのような存在が日本にはまだまだ足りていません。
──UMINARIの活動を通して出会う若い世代は、プラスチックごみやSDGsへの意識をどう感じているのでしょうか?
今は、SDGsやサステナビリティについて小中学校の授業で学ぶので、僕らの世代と比べると認知も意識も高いですね。小学校高学年の児童の中には、自分の意見をしっかり持って、自分なりの活動をしていこうとする動きもあり、希望を感じます。
このままでは自分たちの未来がなくなると危機感を持つ子もいるし、グローバルな視点も持っている。SNSが普及して、中高生も海外の状況や世界規模の問題を目にすることが多いので、僕らの世代よりも大きなビジョンを描いて、プラスチックごみ問題に対してアクションを起こそうという機運も感じます。
──最後に、伊達さんが今後取り組んでいきたいことを教えてください。
UMINARIの活動とは別に、さらに包括的な未来のビジョンを持つために例えば未来の都市の在り方を考える活動などもしています。未来の都市をつくるのに、未来の世代のインサイトがないとどうにもならない。それはデータだけで判断できません。それなら実際に作って検証してみようという、やや強引な僕のアイデアですが。大手企業やデザイン事務所との共同のもと、次世代が自由に活動や共創ができる空間を作って提供し、働き方や空間・時間の使い方、コミュニケーションやコラボレーションの生まれ方などを検証するなどの取り組みを進めています。
プラスチックごみ問題は、ごみ拾いや分別など、自分一人で始められることはたくさんあります。しかし同時に、自分一人で解決できることはほぼありません。自分ができることから始めつつ、みんなで連携して解決していく姿勢が何より大切です。
文:水溜 兼一(Playce)
写真:西村 克也