電気代高騰、欧州で深刻化するエネルギー危機。冬の電力需要増でさらに悪化も

電気代高騰で、政府は国民に支援も、欧州のエネルギー危機

このところ中国における電力不足が深刻化し、停電で工場が停止するなどの問題が頻発している。

しかし、電力不足に陥っているのは中国だけではない。日本ではあまり報じられていないが、欧州でも深刻な電力供給不足と電力価格の高騰が発生しており、危機的状況となっている。

たとえば、フランスでは高騰する電力価格に対応できない580万世帯に対し、政府が100ユーロ(約1万2800円)を支給する計画を発表。また、イタリア政府も国民支援に45億ユーロ(約5789億円)を拠出する考えだ。ドイツでは電力卸売価格が50%上昇したと報じられている

今後欧州は寒い冬期に突入し、暖房利用増に伴い電力需要が増加する見込みで、ますます供給は逼迫するのではとの懸念の声が広がっている。

欧州における電力不足問題は複合的な要因が絡み合うもので、解決には時間がかかるとみられる。

要因の1つは、ガス不足だ。昨年の冬季は気温が低い状態が続いたことで、電力需要は高止まりし、各国に貯蔵されているガスの量は大幅に減少。現在、冬の本格到来を前にガスを貯蔵する動きが活発化し、ガス価格が高騰しているのだ。

また、アジア地域などでロックダウン後の経済復興の動きに合わせガス需要が増加していることも、ガス価格の高騰要因になっている。

アルジャジーラが伝えたところでは、欧州のガス貯蔵量は現在最低水準となっており、予想通り今冬も低い気温が続く場合、来年3月の欧州のガス貯蔵量は25億立方メートルとなり、最大貯蔵量の3.8%まで低下する可能性がある。

ロイター通信が伝えたところでは、欧州のガス価格のベンチマークとなっているDutch TTFのガス価格は、79ユーロ(約1万円)と、1月から250%以上も上昇。これに伴い、各国の電力価格は過去最高水準を記録している。

S&P欧州エネルギーアナリストのグレン・リックソン氏は米CNBCの取材で、欧州電力危機の最大要因はガス価格だと指摘。ガス価格の高騰が、石炭価格や排出権取引価格の高騰も招いているという。さらに、風力発電量が大幅に下がったこと、原子力発電からの電力供給が少ないことなども、域内の電力不足問題を悪化させていると分析している。

天然ガスと風力頼みの英国、ガス高騰、風吹かずで状況悪化

域内で特に電力価格が高騰しているのが英国だ。英国では発電の大半をガスと風力でまかなっており、ガス不足と風力不足が国内経済に大きな影響を与えている。

2020年のデータを見ると、英国の発電量全体に占める割合はガスがトップで34.5%、次いで風力が24.8%。ガスと風力で60%近くを占めている。

英ガーディアン紙2021年9月18日の報道では、すでに英国内ではいくつかの鉄鋼会社が電力需要ピーク時に工場の稼働を停止する措置を実施。ピーク時の電力価格は、1メガワットアワー1750ポンド(約26万円)と、2010年代の平均価格の2900%に達したという。

また、ガス価格の高騰で、ノースイングランド地方にある2カ所の肥料工場が閉鎖を余儀なくされたとのこと。この他にも多数の化学メーカーが影響を受けている。

この状況に食品・飲料メーカーも懸念を募らせている。化学メーカーは、ガスを使い硝酸アンモニウムを生産するが、この過程で二酸化炭素が生じる。二酸化炭素は、炭酸飲料やビール、生鮮食品用のドライアイスの製造に必要だからだ。

エネルギー危機、背後にはロシアも

この欧州のエネルギー危機は、欧州のエネルギー安全保障の脆弱性を示すものでもあり、エネルギー安全保障の課題を抱える日本にとっても無視できない問題といえる。

ガーディアン紙によると、欧州の天然ガスは41%がロシアから供給されている。この数カ月間、欧州からロシアに対しガス供給を増やすように働きかけが行われたが、ロシア側はそれを拒否。欧州内ではこの動きが市場操作になるのではと非難の声があがっている。

ロシアがガス供給量の増加を拒否したのは、懸案のガスパイプラインプロジェクト「Nord Stream 2」の欧州側の認可を急がせるための圧力だったいう見方もある。Nord Stream 2は、欧州におけるロシアの影響力が増大するきっかけになるとして、米国やウクライナから強い反対の声があがっている。

冬の時期が差し迫る中、欧州のエネルギー危機はどのような展開をみせるのか、注視が必要だ。

[文] 細谷元(Livit

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