BMWのメタバースマーケティング、コールドプレイを起用
国内外メディアでバズワードとなっている「メタバース」。VRやAR技術を活用し構築される仮想共有空間のことを意味する言葉だ。
今、このメタバースをマーケティングに活用しようという試みが大手企業の間で始まっており、その取り組み内容や効果に関心が寄せられつつある。
直近で実施された取り組みの1つがドイツ自動車大手BMWによる「Joytopia」だ。
2021年9月7〜12日にかけてドイツ・ミュンヘンでIAAモビリティ・インターナショナルモーターショーが開催された。Joytopiaはこのモーターショーの先行イベントとして9月5日に実施された。
実際どのようなことが行われたのか。
BMWが「独自メタバース」を銘打つこの取り組みでは、特設ウェブサイトから仮想世界Joytopiaを訪れ、その世界を探検したりライブ音楽を楽しんだりすることができる。9月5日には、コールドプレイによるバーチャルライブが実施されたという。
一方、一番の目的はIAAモビリティ・インターナショナルモーターショーのBMWブースに直接参加できない人々を、Joytopia内に設置された仮想ブースに招き、モーターショーのハイライトを体験してもらい、BMWのブランド価値・認知を高めることにあったと思われる。
Joytopiaの認知を高め、アクセスを増やすために、コールドプレイの起用だけでなく、仮想世界の案内役であるキツネの声にアカデミー賞俳優であるクリストフ・ヴァルツ氏を起用するなどしている。
BMWメタバースマーケティングの効果
実際プロモーションとしてどれほどの効果があったのか気になるところだ。
YouTubeのBMWチャンネルで9が月7日に公開されたJoytopia動画にその効果の一端を見ることができるだろう。
本記事執筆時点の9月15日、約1週間経過した状況で、動画の再生回数は2万5175回となっている。動画の評価はGoodが762、Badが22という具合だ。BMWチャンネルの登録者数は123万人。2万5000人は、その2%ほどとなる。
これをどう評価するのかということだが、この動画の前日に公開された「Vision Circular」の動画の視聴回数が7万5000回である点などを考慮すると、認知度は低くインパクトが弱い印象を受ける。
Joytopia動画では、実際Joytopia内でどのようなイベントが実施されていたのかを見ることができる。その内容を観察していると、インパクトが薄い理由が見えてくる。
理由の1つは、人気オンラインゲーム「フォートナイト」で開催された音楽ライブとの差別化ができていない点が挙げられる。さらにいうと、Joytopiaでの音楽ライブでは、コールドプレイのメンバーが2次元投影されているのに対し、フォートナイトでは3Dキャラクターが立体投影されており、後出しなのにクオリティが下がってしまった感がある点などが影響していると思われる。
ちなみに、フォートナイトで2020年にトラビス・スコット氏のライブコンサートが実施されたときは同時接続数(参加数)は1230万人を記録、また2020年4月7日にその様子がYouTubeで公開されたが、再生回数は3カ月で8500万人、2021年9月15日時点で1億6933万回に達している。
コールドプレイもYouTubeのミュージックビデオは再生回数が10億回を超えるものがいくつかある。コールドプレイを起用したのなら、Joytopia動画のYouTube再生回数にそのインパクトが反映されてもよいはずだ。
コールドプレイを前面に押し出し、コールドプレイファンを魅了、その導線でメタバースを知ってもらうという流れであれば、もう少しインパクトを残せたと思われる。
一方で、フォートナイトのようにゲーム機に依存するのではなく、ウェブベースで様々な人々が参加できる可能性を示したという点では評価できるのかもしれない。
大手ビールメーカーもメタバースマーケティング?
BMWのほかにも、ブランド企業によるメタバースマーケティングはいくつか報告されている。
世界最大級の酒類メーカー、アンハイザー・ブッシュ・インベブの子会社ステラ・アルトワは、仮想競馬プラットフォームZed Runと提携し、メタバース/NFTとの関連で、ブランド認知を高める施策を実施している。
オーストラリア発のZed Runが提供するのは、NFTで購入した仮想競争馬を競争させ楽しむ仮想競馬プラットフォームだ。
プラットフォームがリリースされた直後は、仮想競走馬は30ドル(約3200円)ほどで販売されていたが、NFT市場の盛り上がりで取引額は現在16万5000ドル(約1800万円)に跳ね上がっているという。
ステラ・アルトワは今回の提携で、同社ブランドを冠したオリジナル競走馬やデジタルスキンの提供、さらにはオリジナルレーストラックの設立などを通じて、ブランディングを行っていく計画だ。
ステラ・アルトワとZed Runの提携に関しては、いくつかの大手メディアもメタバース関連の動きとして報道しており、この動きに触発された他企業による施策が増えてくるものと思われる。
ただし多くのメディアでは「メタバース」という言葉の定義が曖昧なまま利用されている場合が見受けられる。
ポケモンゴー開発企業であるナイアンティックのCEOジョン・ハンケ氏の指摘にもあるように、現在メタバースと呼ばれるものの最終イメージは映画「レディプレイヤーワン」に登場するVRをベースとする仮想共有世界だ。また同氏の指摘からは、メタバースにはVRメタバースだけでなく、ARメタバースが登場する可能性も見えてくる。
バズワードに惑わされないように、関連する取り組みからその可能性や課題を吟味することが重要だ。
文:細谷元(Livit)