欧州のユニコーン企業、半年で70社以上誕生、中国は22社
その希少性から評価額10億ドル(約1100億円)以上の未上場スタートアップは「ユニコーン」と呼ばれている。
しかし、現在この条件を満たすスタートアップは数多く存在しており、希少性はなくなっているといえるだろう。かつては1年の間で登場するユニコーンの数は数社といったところだったが、今では1年で数十社のユニコーンが登場するようになっている。
直近で最もベンチャー市場が活気づいているのが欧州だ。Siftedが伝えたDealroomのデータによると、2021年上半期だけで、欧州地域では72社のユニコーンが誕生。中国の22社を大きく引き離す状況となっている。1990年からの累計でも欧州のユニコーン企業数は296社となり、中国の276社を上回った。
欧州でこれほど多くのユニコーン企業が登場する背景には、ベンチャー投資会社の旺盛な投資意欲がある。Dealroomのレポートによると、2021年1〜6月期のベンチャー投資額は、欧州で490億ユーロ(約6兆3900億円)と前年同期比2.9倍増、米国や中国を超える成長率を見せたのだ。米国では1540億ドル(約16兆9320億円)と前年同期比2.3倍増、一方中国では300億ドル(約3兆2984億円)で成長率は1.6倍にとどまるものとなった。
2021年1〜6月期の欧州地域におけるベンチャー投資を国別に見ると、1位は英国で171億ドル、これに2位ドイツ84億ドル、3位スウェーデン68億ドル、4位フランス52億ドル、5位オランダ36億ドル、6位スペイン19億ドル、7位スイス17億ドル、8位フィンランド13億ドル、9位デンマーク11億ドル、10位ノルウェー10億ドルが続く。
ベンチャー投資の成長率を国別で見ても、欧州の活況ぶりがうかがえる。
上記でも示したように、2021年1~6月期のベンチャー投資成長率は、米国で2.3倍増、中国で1.6倍増だった。一方、欧州ではノルウェーで12.4倍増となったほか、オランダ7倍増、スウェーデン6.9倍増、デンマーク5.2倍増、スペイン4.2倍増、オーストリア3.9倍増、フィンランド3.2倍増、ドイツ2.8倍増などと軒並み高い成長率となっているのだ。
現在イスラエルが「世界一の起業国家」といわれている。イスラエル(人口約900万人)における人口あたりのスタートアップ数やベンチャー投資額が非常に多いためだ。
しかし、欧州におけるベンチャー投資の急拡大で、この視点にもアップデートが必要となる。人口1人あたりのベンチャー投資額で、スウェーデンがイスラエルを超える可能性があるためだ。Dealroomの推計では、2021年の人口1人あたりのベンチャー投資額は、イスラエルが1011ドル、スウェーデンが1329ドルとなる見込みだ。
2016年比13倍増、驚異の伸びを見せるベンチャー投資分野
欧州のベンチャー投資はいったいどの分野で活況しているのか気になるところだろう。
活況分野の1つは、保険とテクノロジーの統合分野である「インステック(Insurtech)」だ。
Dealroomが2021年6月に発表したデータによると、世界のインステック分野への年間投資額は2016年に18億ドルにとどまるものだった。同時期のヘルステック(242億ドル)、モビリティテック(222億円)、フィンテック(239億ドル)へのベンチャー投資と比べると投資額の差は明らかだ。
しかし、2020年にはインステック分野へのベンチャー投資額は世界全体で73億ドルと約4.1倍増加し、ヘルステックの2.6倍増、モビリティテックの1.9倍増、フィンテックの1.4倍増を大きく上回る成長率を見せた。
この世界的なインステックベンチャー投資をけん引しているのが欧州だ。
欧州のインステック投資は、2021年1〜5月の5カ月間だけで18億ユーロに達し、2016年通年の投資額の13倍増という驚異的な成長率となっているのだ。現在の欧州インステックスタートアップの累計評価額も230億ユーロ(約3兆円)となり、2016年の40億ユーロ(約5217億円)から5倍以上拡大した。
700億円以上の大型資金調達を達成するインステック企業
欧州インステック分野で注目されるユニコーン企業の1つがドイツのWefoxだ。
2021年6月には、ラウンドCで6億5000万ドル(約714億円)の大型資金調達に成功したとして話題となった。この調達で評価額は30億ドル(約3300億円)に拡大したという。
Crunchbaseによると、Wefoxの累計調達額は、9億1850万ドル(約1000億円)に上る。
同社は、保険提供者/代理店と消費者を結ぶデジタルプラットフォームを提供。同プラットフォームでは、保険エージェントらは作業を簡素化するツールを活用し生産性を高めることができる。一方、消費者側はニーズに合った保険を探し出し煩雑な書類作業なしに購入できるなどの利点があり、ドイツ、スイス、ポーランドを中心にユーザーベースを急拡大している。
このほか欧州地域では2021年だけで、保険企業向けのコンピュータビジョンソリューションを提供するTractable、フランスのインステック企業Alan、英国のBought By Manyなど複数のインステックスタートアップが評価額10億ドルを越えユニコーンとなっている。
Dealroomの分析によると、米国でもユニコーン数で見ると、ベイエリア(シリコンバレー)の存在感は相対的に希薄化、ニューヨークやボストンの存在感が増し、分散化とも呼べる現象が起きていることが示されている。また、世界的にも欧州や中南米などシリコンバレー以外の都市でのユニコーン企業の増加が見受けられる。
シリコンバレー一極集中から世界に分散するベンチャー投資。どこでどのようなユニコーン企業が誕生するのか、シリコンバレーだけでなく世界中にアンテナを張る必要性は年々増しているといえるだろう。
文:細谷元(Livit)