北欧スウェーデンのスタートアップが進める陸海空モビリティの電動化

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国内外のビジネスメディアで「EV」という言葉を目にしない日はないのではないだろうか。そこまで電気自動車は認知され、広がりを見せる存在となっている。

一方で、自動車以外の交通手段の電動化も水面下で開発が進んでおり、今後数年以内にEVと同水準の認知度となる可能性がある。

環境先進国と呼ばれるスウェーデンでは、スタートアップによるモビリティの電動化が陸海空の領域で進展を見せ、投資家の注目を集めている。

以下では、陸海空の電動化を担うスウェーデンの注目スタートアップの動向をお伝えしたい。

電動バイクや電動モペッドでもない新しいラストマイルモビリティ

モビリティ領域での重要課題といわれるラストマイルモビリティ。Vässlaは、独自に開発したスクーターのような乗り物「Vässla Bike」で、この課題に挑むスウェーデンのスタートアップだ。

Vässla Bikeは、一見モペッド(ペダル付きオートバイ)のようにも見えるが、よく見るとペダルはついていない。その姿は電動スクーターとも電動自転車とも異なる独特の形をしている。

Vässla Bike(Vässlaウェブサイトより)

販売価格は2000ユーロ(約26万円)。最高速度は時速20〜25キロ、一回のフル充電で40キロの走行が可能だ

重さはバッテリーが3.5キロ、本体が21.5キロ。バッテリー込みの総重量は25キロとなる。一般的な電動アシスト自転車の重さは30キロ前後あるといわれているので、それより少し軽い重量となる。

バッテリーは最大2000回利用でき、取り外すことができる。バッテリーの充電時間は、0〜100%が4時間、20〜80%が約1時間。

現時点では、欧州の中でもスウェーデン、ドイツ、スペインで入手・利用できるようだ。法定速度やバッテリー容量など各国の法規制に合わせて調整することもでき、今後は欧州以外にも展開する計画という。

Crunchbaseのデータによると、同社はこれまでに1380万ドル(約18億円)を調達。これにより電動バイク販売だけでなく、レンタルプラットフォームの開発を進め、シェアサービスの拡大も狙う

ボート界のテスラ目指すスタートアップX Shore

電動ボートの開発を進め「ボート界のテスラ」を目指すスタートアップX Shoreも注目を集める存在だ。

X Shoreの創業者は連続起業家のコンラッド・バーグストロム氏。オーディオ企業Zound Industriesの共同創業者の1人であるバーグストロム氏は、ビジネスで得た資金でスピードボートを購入。しかし、その騒音や環境への影響が大きいことを知り幻滅したという。

この体験とテスラからのインスピレーションでX Shoreを創業、既存の化石燃料を使うボートのパフォーマンスを超える電動ボートの開発に乗り出した。

「The Eelex 8000」(X Shoreウェブサイトより)

2018年に同社初となる商業モデル「The Eelex 8000」を公開。全長26.2フィート(約8メートル)、全幅8.2フィート(約2.5メートル)、重さ2.6トン、完全電動で巡航速度24ノット(約44キロ)、最高速度35ノット(約65キロ)を誇る小型のレジャーボートだ。

一度の充電で100海里(約182キロ)ほどの航行が可能。バッテリーの充電時間は、32アンペアで6時間ほどだが、スーパーチャージで1時間に短縮できる。

価格は32万9000ドル(約4280万円)。同等の大きさのレジャーボートの新艇価格と比べるとかなり高い設定だ。たとえば、ヤマハの27フィートのフィッシングボート「YFR-27EX」は1200万円ほどで購入できる。

X Shoreは2021年4月にシリーズAラウンドで1500万ユーロ(約19億5000万円)を調達。この資金で、スウェーデンに2カ所目の工場、米国に1カ所目の工場を開設する計画だが、当面の生産量は年間400艇ほどにとどまるとのこと。

完全電動の飛行機を開発するスウェーデンのスタートアップ、2026年の商業利用目指す

スウェーデンには、電動飛行機の開発を通じて空のモビリティの電動化を目指すスタートアップも存在する。

スウェーデン第2の都市と呼ばれるヨーテボリを拠点とするHeart Aerospaceだ。

Crunchbaseのデータによると、同社は2018年創業で、2021年7月13日にはシリーズAラウンドで3500万ドル(約45億円)を調達している。

同社が現在開発しているのは、19人乗りの完全電動中型飛行機「ES−19」だ。

電動飛行機「ES−19」(Heart Aerospaceウェブサイトより)

同モデルは、400キロ以内の範囲を飛行する国内線での利用が想定されたもの。現在、エンジンのデザイン・開発を進めており、2024年までに初飛行、2026年第4四半期以降の商業フライトを目指している。

スウェーデンのほか、カナダやニュージーランドでの国内利用、さらにはインドネシアなどの多くの島々からなる国で関心が寄せられているという。

スウェーデン第2の都市ヨーテボリが注目される理由

スウェーデンでは、モビリティ系スタートアップと大企業とのパートナーシップを促進する「MobilityXlab」などのアクセラレータプログラムが活発で、今後もモビリティ領域を中心にサステイナブルスタートアップが登場してくるものと思われる。

MobilityXlabの拠点は、上記Heart Aerospaceと同じヨーテボリ。近年は、特にモビリティ系のスタートアップや企業が集積し、イノベーション都市に変貌している地域だ。同アクセラレータプログラムでは、エリクソンやボルボがパートナーとなっており、スタートアップは大手企業との連携で迅速なグローバル展開も可能だ。これまでにスタートアップ40社以上が参加している

上記で紹介したほかにも、スウェーデンでは電動スクーターのCakeや電動サーフボードを開発するRadinnなどのスタートアップが立ち上がっている。これらスタートアップの展開や今後どのようなモビリティスタートアップが登場するのかに注目したい。

文:細谷元(Livit

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