早稲田大学と日産自動車は、電動車用のモーター磁石からレアアース化合物を高純度で効率良く回収するリサイクル技術を共同開発し、2020年代中頃の実用化を目指した実証実験を開始したと発表した。
現在、自動車業界では、グローバルな気候変動に対応し、カーボンニュートラル社会を実現するため、車両の電動化が積極的に推進されている。
これら電動車のモーターの多くに使用されるネオジム磁石には、ネオジム、ジスプロシウムなどのレアアースと呼ばれる希少元素が使用されており、レアアースは資源の偏在や需給バランスによる価格変動が懸念される上、採掘・製錬時に生態系への負荷も伴うことから、その使用量削減が課題となっているとのことだ。
こうした中、日産は、限りある貴重な資源を有効に使用するため、2010年以降、設計段階でモーター用磁石のヘビーレアアース(重希土類)の使用量削減に取り組んでいる。
また、レアアースの再生利用にも取り組み、出荷基準を満たさず、クルマに搭載しなかったモーターから磁石を取り出して分解し、磁石サプライヤーに還元してきたという。
しかし、現在、モーターの磁石からレアアースを取り出す工程では、手作業による磁石の分解、取り出しが必要であるため、今後さらなるリサイクルを推進するには、プロセスの簡便化とリサイクルコストの低減が課題となっていたとのことだ。
そこで2017年より、日産は非鉄金属のリサイクルと製錬に関する研究で高い実績のある早稲田大学創造理工学部の山口勉功研究室と共同で、同校の大型炉設備を使用し、電動車用のモーターの磁石からレアアース化合物を回収する研究を開始。
そして、2019年度には、高温で融体を取り扱う「乾式製錬法」により、モーターを解体することなく、高純度なレアアース化合物を効率よく回収する技術を確立したという。
両者が開発したリサイクル技術のプロセスは、以下の通り。
① 加熱溶融を促進する銑鉄(せんてつ)、鉄の融点を下げる加炭材を加え、1,400℃以上に加熱した炉でモーターを溶融
② 酸化鉄の添加により溶融液中のレアアースを酸化
③ レアアース酸化物を溶かすため、ホウ酸塩系のフラックス*4を少量添加
④ 「レアアースを含んだ酸化物層」と、より密度が大きい「レアアースを含まない鉄-炭素合金層」を分離
⑤ 上層に分離された酸化物層から、レアアース化合物を回収
同リサイクル技術では、レアアース酸化物を少量、低温で溶融することができ、高い割合で回収できる安価なホウ酸塩系のフラックスを採用。
実験では、この方法によりモーターに使用されたレアアースの98%を回収できることが確認されているという。また、磁力を取り除く作業や磁石を分解して取り出す作業が不要となるため、プロセスを簡略化することができ、従来の方法と比べ作業時間を約50%削減することができるとのことだ。
今後は、実用化を目指した実験を続けると同時に、使用済み電動車に搭載されたモーターを回収し、リサイクルするスキームの構築を進めていくとしている。
日産は、ニッサン・グリーンプログラム2022において、「気候変動」「資源依存」「大気品質」「水資源」の4つの重点課題に取り組んでいる。
今後もカーボンニュートラルや新規採掘資源依存ゼロを目指し、電動車両の普及と同時に、レアアースの使用量削減とリサイクルを推進していき、そして、持続可能な社会の発展を目指す一員として、「よりクリーンな社会」、「より安全な社会」、「よりインクルーシブな社会」の実現を目指していくとのことだ。