いま起こっている気候変動。これは、主に先進国の経済発展に伴う温室効果ガスの排出がきっかけだと考えられている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートによれば、2004年の世界のCO2排出量のうち、中国とインドを除いた途上国の排出量は2割に満たないという(※1)。
気候変動における大きな問題の一つは、地域やコミュニティの不公平性だ。簡単にいうと、温室効果ガスの排出が多い国より、少ない国の方が気候変動の影響を受けやすいのである。
特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国は、海面上昇や洪水、干ばつの危険性が高く、農林水産業や観光への依存度が高いことから、最も脆弱であるとされる。「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」の第4条8,9においても、これらの国々を特に考慮する必要性が示されている。2020年、日本は世界で5番目に多くCO2を排出している(※2)ことから、この問題は他人事ではないだろう。
そんな「気候変動の不公平さ」に光を当て、より多くの人に知らせていくために作られたのが、今回ご紹介する世界地図である。米カリフォルニア州にあるモントレーベイ水族館が研究し、2021年7月に米国の科学ジャーナルScience Advances誌に掲載された。
この地図は、4種類の温室効果ガスの排出源と、地球の表面温度とを比較して作成されている。北アメリカや西ヨーロッパ、東アジアなどが明るい青色で、多くの温室効果ガスを排出していることがわかる。一方で、東ヨーロッパやアフリカ、北極圏は明るい赤色で、ガスの排出量が少ないにも関わらず、気温が大きく上昇している。
この地図で明らかとなったのは、地球上の限られた地域で排出される温室効果ガスによって、世界全体が気候変動の影響を受けるいうことだ。今回の研究によれば、地球上の8%の地域が、人間由来の温室効果ガスの90%を排出しており、さらに地球上の99%の地域は、その地域内で排出する温室効果ガス以上の気候変動の影響を受けているという。
また、気候変動による熱の93%を海が吸収し、気候変動の人類への影響を抑制していることもわかった。研究を行ったヴァン・ホウタン博士は、「地球上のすべての人々のために、海を守りその重要な働きを持続させなければなりません。」と話す。この研究を行ったモントレーベイ水族館は、海を守るため、プラスチック汚染を減らす活動などにも取り組んでいる。
水族館がジャーナル誌に掲載されるような研究を行うのは意外かもしれない。しかしヴァン・ホウタン博士はこう説明する。「科学に基づいた公共の組織として、私たちの地球で起こっていることを、正しいメッセージとして届けることは使命だと考えています。」気候変動の原因と結果を地図に表すことで、それを見た人たちが、自分たちの地域が気候変動にどう影響しているのか、影響を受けているのかを知って欲しいという。
自国のCO2排出量が気候変動に責任があると聞いても、日常生活を送るなかで世界への影響までは感じづらい。しかしこの地図を見ると、日本を含む地球上のわずかな面積の国々が、世界全体に影響を及ぼしていることがわかる。特に、北極圏の海氷が溶けている現状は、真っ赤に染まった地図の上部を見ると納得がいくだろう。
気候変動は、国境で区切られる問題ではなく、世界全体が繋がる問題だからこそ、その責任や被害がわかりづらい。これは問題への当事者意識を持ちにくい原因の一つだと筆者は考える。だからこそ、このような世界の現状を一目で分かりやすくする試みは、気候変動への取り組みを推進する上で大きな役割を果たすのではないだろうか。
※1 三菱UFJリサーチ&コンサルティング “地球温暖化に関する途上国の現状と課題”
※2 外務省HP:二酸化炭素排出量の多い国
【参照サイト】Monterey Bay Aquarium – Act for the ocean
【参照サイト】New study from Monterey Bay Aquarium puts disparities of climate change on the map
【参照サイト】The geographic disparity of historical greenhouse emissions and projected climate change
(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:水族館が、気候変動の「不平等さ」を可視化するマップを作ったワケ