好調な欧州ベンチャー投資、注目はフィンテック

銀行の法外な海外送金手数料を避けたい人が利用するフィンテックの1つがワイズ(旧名トランスファーワイズ)だろう。

2017年創設のワイズ、2021年7月にロンドン証券取引所への上場を果たした。

このワイズのロンドン証券取引所上場の動きは、英国や欧州におけるフィンテックの盛り上がりを物語る事例の1つといえるだろう。

英国・欧州ではベンチャー投資が大いに盛り上がっている。CNBCが伝えたDealroomのデータによると、2021年上半期のベンチャー投資額は、438億ユーロ(約5兆7000億円)に達し、2020年通年の投資額385億ユーロ(約5兆142億円)を越えた

このベンチャー投資の多くが流れ込んだのがフィンテックセクターだ。

DealroomとLondon&Partnersの調べでは、特にロンドンのフィンテックスタートアップへの資金流入が顕著だったという。たとえば、英国を含めた欧州全体のフィンテックベンチャー投資額は、139億ドル(1兆5224億円)、このうちロンドンのスタートアップへは、3分の1以上となる53億ドル(約5800億円)が投じられたという

この盛り上がるロンドンや欧州の金融・フィンテック市場では今、「グリーン投資」や「グリーンフィンテック」という言葉に注目が集まり始めている。

ワイズが上場したロンドン証券取引所も投資家のサステナブル投資/グリーン投資需要に応え、2019年に環境配慮型企業の分類「グリーン・エコノミー・マーク」を導入したところだ。

以下では、グリーン投資やグリーンフィンテックというキーワードを切り口に、ロンドンや欧州で起こる金融市場の変化を追ってみたい。

ロンドン証券取引所の「グリーン・エコノミー・マーク」

金融グローバルハブの1つロンドン証券取引所によるグリーン・エコノミー・マークの導入は、今後の金融市場の方向性を示唆するものといえるだろう。

このグリーン・エコノミー・マークとは、ロンドン証券取引所に上場する企業の中で、売上の50%以上がグリーンエコノミーに寄与するプロダクトやサービスから発生している企業に付与されるマークだ。

ロンドン証券取引所

グリーン投資/サステナブル投資需要が高まる中、投資家の注目と信頼を得る手段としてロンドン上場企業の間で関心が高まっているようだ。

ロンドン証券取引所の「Green Economy Report2021」によると、このマークが発行される企業の数は年々増えており、このレポートの発表時点では計101社/ファンドがグリーン・エコノミー・マークを獲得したという

2021年のグリーン・エコノミー・マークを持つ上場企業の時価総額合計は1485億ポンド(約22兆7489億円)に上り、2020年比では120%増加。またグリーン・エコノミー・マーク企業の株式パフォーマンスは16%と、FTSE平均(日経平均に相当)よりも5%高い値であるという。

グリーン・エコノミー・マークを株式セクターとして見た場合、その規模は同証券取引所で4番目の大きさになるとのこと。

世界の投資家におけるサステナブル/グリーン投資需要を鑑みると、グリーン・エコノミー・マークセクターは今後さらに拡大する見込みがある。

同レポートによると、2050年までの二酸化炭素排出ネットゼロを目指す機関投資家らによるサステナブル投資イニシアチブ「Net Zero Asset Managers Initiative」では、参加機関投資家らの合計運用資産額が37兆ドル(約4052兆円)に上り、また国連が支援するサステナブル投資イニシアチブ「責任投資原則(UN PRI)」でも署名機関の合計運用資産額が急増し、現時点で103兆ドル(1京1128兆円)に達しているという。

OECDでは、二酸化炭素排出を削減し気候変動の影響を緩和するには、2030年まで毎年7兆ドル(約766兆円)の投資が必要との推計を出している。直近のG7サミットでもこの推計値が引用されており、世界の資金の流れは大きく変わることが予想される。

サステナブル企業に特価した投資プラットフォームClim8

機関投資家の投資対象は主に上場企業となる。一方、個人投資家の間でもサステナブル/グリーン投資への需要が高まっている。

この個人投資家の需要に応えているのが、グリーンフィンテック企業だ。

たとえば、ロンドンを拠点とするClim8は、主に個人投資家を対象にサステナブル投資サービスを提供している。

日本でも広く利用されているロボアドバイザー投資サービスのようなものだが、投資対象がサステナブル/グリーンエコノミーに関連する企業である点が異なる。既存のESG投資指標だけでなく、独自の評価基準により「グリーンウォッシング企業」を排除し、実際にサステナブルインパクトを持つ企業のみに投資することに注力している。

グリーンウォッシングとは、実体がないにも関わらず、事業がサステナブルであるという虚偽の報告をすることによって、自社が環境に優しいというイメージを植え付けるもので、近年注目されることが多くなっている問題だ。

Clim8では、リスク許容度により「慎重型」「バランス型」「冒険型」の3つのポートフォリオタイプを選ぶことができる。たとえば、バランス型では、エクイティ59%、債券36%、キャッシュ5%というポートフォリオとなり、パフォーマンスは15%ほど。

スウェーデン発のグリーンフィンテック企業Trineも注目株の1つ。太陽光発電プロジェクトに投資を行い、金利によるリターンを得ることができるプラットフォームだ。個人の場合、ミニマム25ユーロから投資が可能となっている。

英国や欧州だけでなく、米国でもRaise Greenなどグリーンフィンテックに分類されるスタートアップが登場。勢いを増すフィンテックベンチャー投資の波に乗って、今後大型の資金調達に成功するスタートアップが出てきても不思議ではない状況となっている。

金融市場のサステナブルシフトは、ビジネスのあり方をどう変化させるのか。今後のロンドンや欧州での動きから目が離せない。

文:細谷元(Livit