現時点ワクチン接種率は60%前後で鈍化する傾向

グーグルのまとめによると、2021年7月25日時点の日本におけるコロナワクチン接種完了割合は、1回接種が36.6%(約4600万人)、必要回数接種が24.9%(約3100万人)という状況だ。

日本のワクチン接種状況(7月25日)

遅れているといわれながらも、オーストラリア(1回接種割合30%)や韓国(約32%)などより早いペースでワクチン接種が進んでいる。

オーストラリアのワクチン接種状況

一方、2021年7月末時点、ワクチン接種が進んでいる国では、1回目接種割合が60〜70%に達しており、こうした国々に追いつくにはしばらく時間を要するかもしれない。

こうしたワクチン接種が進んだ国を見ていると、1回目接種割合が50〜60%を越えたあたりから、接種率の増加カーブが緩やかになる傾向が見受けられる。これは多くの国において国民の30〜40%ほどが何らかの理由でワクチンを接種する意思を持たないことを示唆するもの。

たとえば、米国のワクチン接種割合(1回目)は2021年2〜4月にかけて40%台まで急速に伸びたが、それ以降はスピードが鈍化し、7月末時点では57%、必要回数接種割合も49.7%にとどまっている。バイデン大統領は、独立記念日にあたる7月4日までに1回目接種割合を70%台にのせる目標を掲げていたが、その目標値を下回った格好だ

米国のワクチン接種状況

アジア圏で最もワクチン接種が進んでいるシンガポールでも、1回目接種割合が70%を超えたあたりから増加カーブの鈍化が見受けられる。7月24日時点、1回目接種割合は74.2%、必要回数接種割合は53%。

シンガポールのワクチン接種状況

同僚のワクチン接種有無を知りたい人多数

こうした状況下、リモートワークからオフィスワークに戻る企業の増加に伴い起きているのが、ワクチン接種済みの社員とそうではない社員が相互に安心して働ける新しいオフィスルールづくりに関する議論だ。

米国の人材サービス業界団体American Stuffing Association(ASA)が2021年6月に公開した米労働者意識調査によると、ワクチン接種済みであってもオフィスでマスク着用を義務付けるべきとの回答は57%と、半数以上が感染に懸念している状況が浮き彫りとなった

米国などではワクチン接種の普及に伴い、一部でマスク着用ルールを緩和する動きがあったが、それに反し労働者の多くはオフィスでの感染リスクを懸念している。上記でも触れたが、米国では概ね半数がワクチン接種済みで、もう半数がワクチンを接種していない。ワクチン接種済みの労働者による懸念が多いものと思われる。

オフィスでのマスクルールの有無は各企業に委ねられるが、着用ルールに関しては、安全性向上のメリットが大きく、社員の理解は得られやすいはずだ。

よりセンシティブな問題となっているのが、同僚のワクチン接種の有無を知る権利についてだ。ASAの調査では、どの世代でも半数以上が同僚のワクチン接種の有無を知る権利があると回答。この割合が最も大きかったのは団塊の世代で70%に上った。このほか、ミレニアル世代(1980〜90年代生まれ)では66%、X世代(60〜70年代生まれ)で60%となった。

大半の労働者が同僚のワクチン接種状況を知りたいと考える一方で、自分のワクチン接種の有無については明らかにしたくないと回答。ワクチン接種に関するプライバシー情報を保護すべきとの回答は、X世代で68%、ミレニアル世代で67%、団塊の世代で52%だった。

ASAはこのような「プライバシー・パラドックス」問題が各企業で頭を悩ます問題になっていると指摘。その上で、このような複雑な状況に対応するためには、社員の安全性を最優先にしたルールづくりが必要だと述べている。

組織論の研究では、パンデミックなどの緊急事態において企業は安全性を最優先に掲げるが、生産性の優先度合いも依然高く、結果的に安全性は二の次になるケースが多いと指摘されている

ワクチン接種の義務化は雇用差別につながるのか?

企業としては、社員にワクチン接種を促し、オフィス内の安全性を高めたいのが本音であろう。しかし、米国では雇用差別を禁止する雇用機会均等法に抵触する懸念から、ワクチン接種の義務付けなど強気の施策に出られない企業が多いようだ。

米法律事務所Fisher Phillipsが5月に実施した調査によると、ワクチン接種を義務化しない方針という企業の割合は83%と、1月に実施した前回調査の67%から16ポイント上昇していることが判明。ワクチン接種を義務化していない企業のうち32%が雇用機会均等法違反リスクを避けるためと回答している

一方、雇用機会均等委員会(EEOC)は2021年5月28日に、雇用機会均等法におけるワクチン接種の位置づけを発表。それによると、一部の例外を除いて企業が社員にワクチン接種を義務付けることは法律違反にはならないとのこと

EEOCの発表はFisher Phillipsの調査が実施された後になされたもの。この発表で、企業にどのような変化があったのか気になるところだ。

ワクチン接種を促したいシンガポール企業のインセンティブ

冒頭ではシンガポールのワクチン接種率が高いことをお伝えした。

シンガポールのワクチン接種率は、米国だけでなく欧州の国々を上回るもの。なぜ、これほどまでに接種率が高いのか。

様々な要因が考えれるが、企業によるワクチン接種インセンティブが充実していることが理由の1つかもしれない。

シンガポールの多くの企業では、ワクチン接種日に休みを取ることを許可しているだけでなく、ワクチン接種日の週をリモートワークにしたり、ワクチン接種後の体調不良にかかる医療費を負担するなどの施策を実施。また、ワクチン接種センターまでの往復タクシー代を負担する企業もある。さらに、副反応で体調不良となった社員に無料のメディカルコンサルテーションを提供する企業まで存在する

ワクチン接種率の高まりで変化した働き方を欧米メディアでは「ニューノーマル」ではなく「ネクストノーマル」と呼んでいる。日本ではどのようなネクストノーマルが出現するのか気になるところだ。

文:細谷元(Livit