感染抑制優秀国ニュージーランド
オーストラリア、シンガポール、台湾など、コロナ感染の抑制に成功している国は世界に少数ながら存在している。
ニュージーランドもその1つ。一部では「世界で最も安全」と認識される国でもあり、コロナ禍でもその安全神話の健在ぶりを示す格好となっている。
ジョン・ホプキンズ大学のまとめによると、人口約510万人のニュージーランドのコロナ感染者数は7月28日時点で2865人、死者数は26人となっている。
安全性が高く、住みやすい国であるニュージーランド、今後多くのテック起業家や富裕層が拠点を移す可能性があり、投資先としての魅力が高まる公算が大きくなっている。
日本ではニュージーランドといえば、牧場や観光などのどかなイメージを思い浮かべる人が多いかもしれないが、欧米ではテクノロジーや投資という観点で注目する人が少なくない。
以下では、なぜニュージーランドがテック起業家や富裕層に注目されるのか、その理由を紹介していきたい。
シリコンバレーのテック起業家らがこぞって注目するニュージーランド
テック起業家がニュージーランドに注目する理由の1つが安全性と安定性だ。
起業や投資において、政治・経済・社会が不安定な国に資金を投じるのは非常にリスクが高い。かつて「BRICS」の一角として注目された南アフリカでの最近の暴動を見れば、ビジネスを行う上で国の安定性が如何に重要かが分かるだろう。
南アフリカには多くのインド企業が進出しているといわれている。一部報道では、この暴動でインド人が襲われるケースが多数あったとのことだ。
他国と国境を接していない島国であり、敵対する隣国が存在せず、国内の政治・経済・社会が安定していることを鑑みれば、ニュージーランドは他国に比べ安全性/安定性が格段に高い国であるといえる。
このニュージーランドの安定性/安定性への注目が一気に高まったのが2017年頃だ。トランプ政権の誕生などで、米国の安全性/安定性に不安を持った米国の裕福なテック起業家らの間で、ニュージーランド移住を検討する人が増加。いくつかのメディアで話題となり、最悪の事態に備える者という意味の「Prepper」という名で呼ばれるになった。
米国のテック起業家らのこの動きに大きな影響を及ぼしたとみられるのがピーター・ティール氏だ。フェイスブックの初期投資家の1人であり、ペイパルの共同創業者として広く知られるティール氏は2011年にニュージーランド市民権を獲得、これまでにクイーンズタウンなどの主要都市にいくつかの不動産を購入したと報じられている。
これらは2017年頃に報じられたものだが、現在でもニュージーランドに対する認識は変わっていないようだ。ブルームバーグによると、2020年パンデミックの発生により、危機プランの一環としてニュージーランドに移住する米富裕層が増えたという。
コロナ禍でもテック投資は増加、強みは信頼と農業テック
ニュージーランドの売りは安全性や安定性だけではない。テックハブになるポテンシャルもシリコンバレー起業家らが注目する理由の1つになっているようだ。
サーバーを置くオンラインやデジタル関連のビジネスでは、国の信頼が不可欠。世界的にも信頼度が高いニュージーランドは、サイバーセキュリティ分野の起業家なども注目しているという。
また、ニュージーランドはすでに農業テック分野で一目置かれる存在になっており、今後拡大するとみられるクリーンテック市場とも親和性が高く、投資家らの関心も高い。
ニュージーランドのテックメディアTINの調査によると、2020年同国のテック企業トップ200のうち、22社が農業テック企業で占められていることが分かった。これら農業テック企業による輸出額は、7億9040万ドル(約868億円)。最大の輸出先は北米で農業テック輸出全体の24.9%を占めたという。北米に次ぐのがオーストラリアで、その輸出割合は11.2%だった。
同国農業テック企業による研究開発投資も増加。TIN200に含まれる農業テック企業においては、2019年の9730万ドルから2020年には1億410万ドルに増加。イノベーションに向けたコミットメントが高まっていることが示されている。
農業テックを含めたテックセクター全体でもベンチャー投資が増加傾向にある。同国におけるベンチャーキャピタルによる投資は、2020年には1億2700万ドルとなり、2019年の1億1200万ドルを上回る結果となった。
ドイツ銀行による生活水準の高い都市ランキング(2019年版)で、ニュージーランドの首都ウェリントンは、スイス・チューリッヒに次ぐ2位にランクイン。コロナ前から評判が高いことに加え、感染抑制に成功している事実、コロナ禍でもテック投資が拡大したことなどを踏まえると、今後もテック起業家や富裕層・投資家の流入は増えていくことになるのだろう。
文:細谷元(Livit)