北米では記録的な熱波が発生、東アジアでは数十年に一度といわれる大雨が毎年発生するなど、気候変動が要因と思われる異常気象が世界各地で頻発している。
一般消費者の環境意識や危機意識は急速に高まっており、企業に向けられる目も年々厳しいものになってきている。
そのような圧力の高まりを示すかのように、欧米の大企業の間では「最高サステナビリティ責任者(CSO)」という役職を新設する動きが相次いでいる。
最高サステナビリティ責任者という役職をいち早く導入したのは環境取り組みに定評のあるスウェーデン家具大手IKEAだ。同社では、ピア・ハイデンマーク・クック氏が2017年にCSOに就任し、それ以降IKEAのサステナビリティ取り組みをけん引している。
以前もお伝えしたが、IKEAのほかには、マスターカード、クレディ・スイス、シティバンクも最高サステナビリティ責任者が存在する。
そして2021年7月現在、CSOを新設・任命する動きはグローバル企業の間でますます活発になっている。
以下では、「最高サステナビリティ責任者」人事に関する最新動向をまとめてお伝えしたい。
EY、PwC、HSBCなどコンサルティング・金融業界の動き
日本でも人気が高まっているといわれるコンサルティング業界で、CSOを含めサステナビリティ関連の人事が増えてくる可能性が高まっている。
「ビッグ4」と呼ばれる4大会計事務所の一角、EYは2021年6月3日、EYカナダでケント・カウフィールド氏をESGマーケットリーダー兼CSOに任命したと発表。これに続く6月14日には、EYオセアニアでマシュー・ネルソン氏をCSOに任命したことを発表した。EYによると、ビッグ4では初の試みだという。
これに先立つ5月には、本拠地の米国でもサステナビリティ関連の大型人事が発表されたばかりだ。
5月のEY米国の人事では、ベリスラバ・イヴァノヴァ氏がCSOに抜擢されたほか、オーラン・ボストン氏がESGマーケットリーダーに、ミーガン・ホブソン氏がコーポレート・サステナビリティ・リーダーに任命された。
ビッグ4の他の企業でも、CSO任命ではないが、サステナビリティ関連の人事や取り組みが加速中だ。
PwCは2021年6月、ESG関連の取り組みを強化するグローバル戦略を発表。今後5年で、120億ドル(約1兆3200億円)を投じ、10万人を新規雇用する計画という。顧客企業のサステナビリティやダイバシティレポート制作の支援などを実施するとのこと。
PwCのサステナビリティに関する取り組みは、同社パートナー兼グローバル・サステナビリティ&イノベーションリーダーであったセリーヌ・ハーヴァイエル氏が率いていたようだが、このほど銀行大手のHSBCがハーヴァイエル氏を引き抜き、同行のグローバル最高サステナビリティ責任者に任命。サステナビリティ人材の引き抜き合戦も始まりつつあるようだ。
GE、ネスレ、ダノン、セールスフォースでも大型サステナビリティ人事
コンサルティングや金融以外でも、サステナビリティ人事が増加中だ。
GreenBizのまとめによると、GEではロジャー・マーテラ氏が同社初となるCSOに就任したほか、ネスレUSAでは米商工会議所基金でサステナビリティ部門を担当していたステファニー・ポッター氏が同社サステナビリティ戦略責任者に就任、一方ダノンではキャサリン・ムスリン氏がサステナビリティ部門の責任者に抜擢されている。
サステナビリティの中でも海に特化した役職を設ける大企業もある。
セールスフォースは2021年6月、同社初となる「海洋サステナビリティ責任者」の役職を新設し、米議員の海洋保全政策アドバイザーを務めていた海洋学者ホイットニー・ジョンストン氏を抜擢したことを発表。
セールスフォースでは、同社創業者のマーク・ベニオフ氏の名を冠した海洋保全イニシアチブ「ベニオフ・オーシャン・イニシアチブ」を通じて、主に海洋プラスチック問題に取り組んでいる。今回の人事で、この活動は拡大・加速することが見込まれる。
CSOを含め企業の上級役職にサステナビリティ関連のポジションを設ける施策はシンガポールなどアジア圏でも広がりを見せている。今後日本でも外資企業を中心にそのような動きが活発化してくるのかもしれない。
文:細谷元(Livit)