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急速に進行する企業のDXの中でも、金融機関の動きが活発化している。キーワードは「Embedded Finance(組込型金融)」。今年に入り注目を集める金融業界のトレンドワードであり、企業の成長を実現する新たな概念で、単純な企業の業務効率化のみならず、あらゆる業界の事業者が、自社サービスに銀行機能を組み込むことで、全く新しいユーザー体験を提供・享受することが可能になる。
こうした大きな流れの中で強い存在感を放っているのが、“テックファーストNo.1”を目指す気鋭のネット銀行、GMOあおぞらネット銀行である。同社は、2021年、「組込型金融サービスNo.1」を掲げ、銀行APIをはじめ、銀行サービス機能パーツのラインアップのさらなる充実化に向けて踏み出した。
従来の銀行サービスの常識を塗り替える、GMOあおぞらネット銀行の連載第二回となる本記事では、「組込型金融」が生み出す利便性について、代表取締役会長の金子岳人氏に話を聞いた。
転換期を迎える金融機関のDX推進と、テクノロジーバンクの台頭
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、急速に加速するDX。あらゆる業界が転換を迫られる中、金融業界で先進的に事業展開を進めているのが、あおぞら銀行とGMOインターネットグループの融合によって生まれた、GMOあおぞらネット銀行だ。2018年のネット銀行事業開始当時から推進してきたBtoB領域におけるDX支援を、金子氏はこう振り返る。
金子氏「ネット銀行である当社は、コロナ以前からDX支援に取り組んできましたが、2020年以降、DXに対する気運が社会全体で高まったことで、我われの事業が脚光を浴びるようになったように思います。金融におけるDXというと、ペーパーレスの手続きやオンライン決済などが分かりやすいですが、BtoB領域における代表的な事例は、“銀行API”でしょう」
ソフトウェアにおける一部の機能やデータを、他のシステムに連携させることで、外部からの利用を可能にする「API(Application Programming Interface)」。YouTubeやGoogleマップなどで、アプリ開発者向けに公開されている機能をイメージする方も多いのではないだろうか。
「銀行API」は、銀行システムと外部事業者とをシステム連携させ、銀行が提供する機能やデータにアクセスすることができるものであり、これにより、入金や振込といった機能をアプリケーションや自社システムに組み込むことができる。日本では2017年の銀行法改正によって、銀行にAPI体制整備の努力義務が課せられたことをきっかけに活発化。しかしコストや技術における障壁が多く、完成形に達していないという見方もある。
そうした中でも、GMOあおぞらネット銀行はAPIを無償提供するなど、先進的な取り組みを進めてきた。2019年末に18社であったAPI 契約先数を137社(2021年6月時点)へと伸ばし、銀行APIのトップランナーに躍り出ている。契約先は通常、電子決済等代行業者であることが多いが、GMOあおぞらネット銀行の場合はFinTech企業のみならず多様な業種の一般企業の比率が高いことも特長だ。
金子氏「当社は『No.1テクノロジーバンク』を掲げるネット銀行として、金融とITを融合したソリューションを提供しています。つまり、“銀行のデジタル化”ではなく、“デジタル企業による銀行サービス”を開発できることが強みなのです。インターネットの世界では、APIを公開・無償提供したり、顧客ニーズに合ったAPIを新たに開発したりするのはごく当たり前のこと。当社は、そうした常識のもとでサービスを提供しているので、他の金融機関とは基本スタンスが違うのだと思います」
現在、GMOあおぞらネット銀行の社員の約40%がエンジニアということを知れば、銀行業界の中でも特異な存在であることが分かるだろう。新たなソリューションを自社開発できるという強みを生かし、顧客となる事業者に向けて、銀行機能をAPIなどで提供しているのだ。オーダーメイドを含む多様なニーズに応える体制が、テクノロジーバンクとしてのGMOあおぞらネット銀行の本質だといえるが、銀行APIはその手段の一つに過ぎない。同社は次なる一手として、「組込型金融サービスNo.1」を戦略に掲げている。
CX向上の新たなキーワードとなった“Embedded Finance”
「組込型金融」とは、近年海外の金融業界で注目されている概念である「Embedded Finance」の和訳である。API活用などにより、非金融業者が金融機能をシームレスに自社サービスに導入し、エンドユーザーに提供することで、決済などの利便性を向上させるサービス形態だ。アメリカやイギリスでサービス化が進む一方、日本では目立った動きは見られなかったが、今年3月に開催されたフィンテックに関する国際シンポジウム「FIN/SUM 2021」では日本銀行・黒田東彦総裁が言及するなど、新たなスタンダードとなる可能性を秘める。
「組込型金融」自体はまだ馴染みのない言葉だが、これまでも企業の業務プロセス改善などに貢献してきた。銀行が持つ振込機能を、勤怠管理システムとAPIを通じて連携させることで、給与支払いなどの経理処理を自動化するといった活用例が分かりやすいだろう。これが組込型金融の一つの大きな価値だ。この仕組みをエンドユーザー向けサービスにも適用することが、組込型金融のもう一つの価値にあたる。電子決済アプリに自分の銀行口座からワンクリックで入金できるシステムもその一例であり、実は既に身近なところにあるともいえるが、今後は活用方法の可能性がさらに広がると金子氏は考えている。
金子氏「銀行APIも組込型金融の一つですので、当社にとっては、これまで取り組んできた事業にあたります。しかしコロナ禍によりDXが加速し、お客さまからのニーズが大きく変わりました。これまでのAPIのような、銀行がプロダクトアウトで提供するサービスだけでは、事業者さまの期待に応えられなくなっていくでしょう。もっとシームレスに活用でき、多様なニーズに応えられる組込型金融サービスへと進化させる必要があると考えました。
そこで当社は、銀行に関連するあらゆるサービスを揃え、それを“パーツ”のように提供する、『かんたん組込型金融サービス』を展開していきます。パーツは、単体で利用することも、組み合わせることも、すべて導入することも自由。事業者さまが新たなユーザー体験を実現するために、銀行サービスを最大限活用できるプラットフォームこそ、私たちの目指す組込型金融です。当社は事業開始より、事業者の皆様のビジネス成長を黒子の銀行として支援してまいりましたが、「かんたん組込型金融サービス」は、それをより具現化したソリューションと位置づけています。
スピーディーなサービス拡張を実現する、かんたん組込型金融サービス
GMOあおぞらネット銀行の組込型金融サービスの特長の一つが、スモールビジネス・スタートアップ企業における契約社数が多いことだ。例えば、インターネットビジネスを手がける事業者は、ユーザーが離脱しないよう、サービス内で申込~利用~支払いと完結するサービスフローを目指している。フロー内に”決済”という事業者に不可欠な要素を加える場合、多様な支払い手段を設けたり、エンドユーザーの操作ステップを削減させたいと考える。その際、GMOあおぞらネット銀行であれば、APIが用意されているため、自社サービスの中にスピーディーに決済を組み込みやすいのだ。
事業者はサービス拡張やUX向上が可能となり、ユーザーのリテンション率向上、新規顧客の獲得につなげることができる。低コストで提供される同社の組込型金融サービスは、開発コスト削減にも貢献するため、スモールビジネス・スタートアップ企業の成長における強い味方になるのだ。
金子氏「ユーザーに新たな体験を届けようとすれば、組込型金融のような新しいソリューションが必要になるのは当然だと思います。当社の『かんたん組込型金融サービス』には、『安心』『速さ』『安さ』『便利さ』『新体験』という5つの特長を持たせているため、スモールビジネス・スタートアップ企業のお客さまから高評価をいただいているのでしょう」
かつての銀行システムは、接続させるだけで膨大なコストと作業を要していた。その結果、スモールビジネス・スタートアップ企業は手を出しづらく、中規模以上の事業者であっても決裁が下りにくいという課題があった。APIの登場で障壁が下がったとはいえ、まだまだ気軽に銀行と連携するまでには至っていなかった。それらを解消すべく、GMOあおぞらネット銀行は、前述した5つの特長をもって多くの顧客ニーズに応えるサービスの提供に踏み切った。
金子氏「すべて重要なポイントではあるのですが、特に注力したのは『便利さ』です。組込型金融に関わるパーツを豊富に揃えるためには、当社だけでなく、他社を含むさまざまな人の力が必要です。そこで現在、誰もが自由に参加でき、アイデアを試作・検証・流通できるエコシステムを構築しようとしています。エコシステムの参加者は、事業者さまはもちろんのこと、同業者である金融機関、エンドユーザー、個人のエンジニア、学生まで幅広く想定しておりますし、もちろんここには当社も含まれています」
銀行サービスの “パーツ”が集結される、マーケットプレイス
金子氏の語る「エコシステム」は、既に実装が進んでいる。その一つが、銀行APIの実験場として2020年にスタートした「sunabar(スナバー)-GMOあおぞらネット銀行API実験場-」だ。GMOあおぞらネット銀行の法人口座を持っていれば、誰でも接続可能であり、新サービスのプロトタイプをつくることができるサンドボックス環境になっている。
これにより、
・アイデアレベルだが、実装に向けてアジャイル開発をしていきたい
・検討段階のサービスを試作し、経営層を納得させたい
・プロトタイプを制作して、顧客提案したい
といった事業者側のニーズに対応。さらに事業者は、銀行側の技術者と直接コミュニケーションをすることができ、自社リソースの枠を超えて開発を進められる。
エコシステムのもう一つの柱が、2021年8月にリリースされるデジタルビジネスガレージ「ichibar(イチバー)」だ。
sunabarの開発機能に、流通機能が加わることになる。アイデア、ビジネスモデル、ソフトウェアモジュール、プロダクトなどを、AWS Marketplaceを通じて世に出すことができる仕組みだ。
金子氏「AWS Marketplaceをプラットフォームに選んだのは、グローバル展開を見越してのこと。利用者、流通量が多い環境で、世界中の誰もが参入できる。そこに魅力を感じました。銀行がグローバルプラットフォームでマーケットプレイスを展開するのは、世界でも初めてのことでしょう。今後、イベントを開催したり、ビジネスコミュニティを構築したりして、一連のエコシステムを活性化していきたいと考えています」
「銀行サービスをパーツ化し、オープンソースとして世界中に展開する」壮大なビジョンではあるが、GMOあおぞらネット銀行にとって、どこにメリットがあるのだろうか。
金子氏「そもそも組込型金融というのは、分散型のアーキテクチャがベースになっています。オープンな世界でいろいろなパーツが提供され、さまざまなアプリケーションに組み込まれることで、初めて意義あるものになります。従来の金融業界のような統制的でクローズドな世界とは、根底にある設計が異なります。インターネットやブロックチェーンと同じように、誰が管理しているわけでもないのに、いつの間にか巨大なプラットフォームになっている。私たちがつくりたいのは、そうした世界です」
イノベーティブな成長企業のプラットフォームを目指して
革新的なサービス展開により、日本企業のDXを牽引するGMOあおぞらネット銀行だが、今後どのように事業を展開していくのだろうか。
金子氏「かんたん組込型金融サービスのゴールは、ユーザーが本当に欲しい金融サービスが、最も心地よい形でデザインされている状態です。そのために私たちにはやるべきことは2つあります。
1つは、ラインアップを拡充していくこと。パーツが豊富に揃うほど、事業者さまによるサービスの可能性が広がり、CXを向上させることができるからです。もう1つは、付加価値を高めること。つまり私たち銀行にしか提供できない、信用力や汎用性といった価値を最大限生かすことです。例えば、銀行だけが取り扱える銀行口座というサービスを進化させて、銀行サービス以外のあらゆる機能もシームレスに使える“金融ハブサービス”のようなものを開発できれば、ユーザーに対し独自性の高いサービスを展開できます。この二軸で事業を展開することで、人々のより便利で豊かな生活に貢献できると考えています」
金子氏は自社のみならず、技術革新によりルールが変わる世界と、それに向かい新たなビジネスに挑む事業者の未来を見据えているようだ。
金子氏「オープンに提供されるパーツを自由に利用し、新たなソリューションをつくり出すことができる世界は、すぐそこまで来ています。銀行は、サービス形態そのものが変わることを前提に、戦略を考え直す運命にあるのです。私たちは、既存のサービスだけを提供するのではなく、どこまでも新たな領域へ踏み込んでいく覚悟があります。そして、賛同いただける事業者のみなさんと一緒に、デジタル化する世界で挑戦し続けたいと考えています」
組込型金融の主役は、デジタルサービスを展開する事業者と、それを利用するユーザーだ。この考えを徹底させることでたどり着いたのが、GMOあおぞらネット銀行の「かんたん組込型金融サービス」なのだろう。「『銀行らしくない』が最高の褒め言葉」と金子氏は語るが、パートナー企業とのオープンイノベーションを試みながら、そのための環境構築に注力する姿勢は画期的であり、他の金融機関との最も大きな違いだといえる。
近い将来、Embedded Financeが定着し、人々の生活が大きく変わることは間違いない。組込型金融サービスをいかに活用するかが、DXを推進するすべての企業の成長におけるカギとなるのだろう。
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※AWS Marketplaceは、米国および/またはその他の諸国における、Amazon.com,Inc.またはその関連会社の商標です。
文:相澤 優太
写真:西村 克也