ニューヨーク、ホテルでの使い捨てプラスチック禁止法施行
ワクチンの普及に伴い、世界各地では観光再開に向けた動きが活発化しつつある。
日本でも広がりを見せる「サステナブル」という言葉がコロナ後の観光でもキーワードになりそうだ。
サステナブル観光は、過剰観光やそれに付随するごみ問題などの深刻化でパンデミック前にもすでにその重要性が叫ばれていたが、コロナをきっかけに多くの消費者に浸透し、2021年以降の観光では無視できないものになると見られている。
サステナブル観光が注目される理由の1つは、業界リーダーによるサステナブルシフトだ。大手ホテルがプラスチック削減などに本腰を入れ始めており、その流れが他のプレーヤーに波及することが考えられる。
ホリデーインやキンプトンブランドを運営するホテル大手IHGは、2019年7月、2021年までに小型ボトルシャンプーの提供を廃止する計画を発表。これにより年間2億本の小型プラスチックボトルを削減できるという。
翌月にはシェラトンやリッツカールトンなどを運営する米マリオット・インターナショナルが2020年末までに、小型ボトルシャンプーの提供を廃止することを発表。大型ボトルや壁掛け型のシャンプーディスペンサーを導入し、プラスチック利用の削減を進める。
こうした取り組みは任意のものであるが、ホテルでのプラスチック利用を強制的に禁止する都市も増えてくることが見込まれる。
ニューヨークでは、ホテルに対し使い捨てプラスチック容器の利用を禁止する法案が可決。ホテルの規模に関係なく、ニューヨーク市内すべてのホテルが対象となり、容量12オンス(約340グラム)以下のプラスチック容器の利用は完全禁止となる。
Euronewsによると、市内のホテルには2024年まで猶予が与えられており、それまでに現在の在庫をすべて使い切り、詰め替え式や環境に優しい容器にシフトすることが求められる。
消費者のサステナブル観光需要
観光産業のサステナブルシフトは、大手企業による任意の取り組みや当局による規制強化など様々なプレーヤーの動きが相互に影響しあって進行しているものだ。
消費者の影響力も無視できない。パンデミックをきっかけに、消費者の環境意識は高まったといわれており、旅行においても環境負担などを考慮した意思決定がなされるケースが増加することが見込まれている。
米CNBCが伝えたVirtuosoの調査によると、旅行において環境負荷を考慮するよう(responsible)になったとの回答割合は82%に上ったことが判明。また、観光は、地元コミュニティや経済に寄与し、文化や自然を守るべきものとの回答割合も72%と高い値であった。
また、The Vacationerが実施した意識調査でも、サステナブル観光が重要だとの回答割合は83%、二酸化炭素排出を削減するために多めに旅行費用を払ってもよいとの回答割合は71%に上り、こちらも消費者が旅行においてサステナブルを強く意識していることが浮き彫りになった。
旅行をサステナブルにするために払ってもよい費用に関しても、50ドル未満が27%、50〜250ドルが33%、250〜500ドルが9%、500ドル以上は2.6%という結果だった。
一方、旅行の意思決定要因として最も重要なのはなにかという質問では、費用が61.7%、時間・利便性が33.9%、サステナブルが4.4%となり、消費者は依然コストセンシティブであることも判明。サステナブル観光を推進するには、コストを抑える施策が重要であることが示唆されている。
サステナブル観光を支援するスタートアップ
サステナブル観光を促進するプレーヤーとして、スタートアップの存在も忘れてはならない。需要の拡大とともに、テクノロジーを活用しサステナブル観光をシームレスにするスタートアップがいくつか登場しているのだ。
Murmurationは衛星データなどを活用した観光アナリティクスプラットフォームを開発するフランスのスタートアップだ。
衛星データや統計から、観光地区の人混み具合や人の流れを分析し、旅行代理店、政府当局、観光客にそのインサイトを共有している。この情報を活用すれば、旅行客は人混みが発生する場所を避け、観光地はオーバーツーリズム問題を回避することができる。
オーバーツーリズムは、SDGsのいくつの目標を妨げるものであり、政府当局や企業にとって、このインサイトは非常に重要なものだ。オーバーツーリズムがかつて問題となった場所では、水の過剰利用による枯渇や汚水問題、騒音問題、ごみ問題などが深刻化したことが報告されている。
Murmurationによると、すでにインドネシア・バリなどで同プラットフォームを使ったオーバーツーリズム回避策の試みが実施されているとのこと。
一方、ブルガリアのスタートアップCO2 Cardsは、APIを通じて旅行代理店などにカーボンオフセットソリューションの提供を行っている。旅程から二酸化炭素排出量を算出し、それを相殺するカーボンオフセットのオプションを同時に提示できるソリューションだ。
このほか、米国のスタートアップJet-Set Offsetも法人向けに二酸化炭素排出量の算出とそれを相殺する選択肢を提示するソリューションを提供。マイレージをベースとする相殺ソリューションという。
このほど、マスターカードが買い物に伴う二酸化炭素排出を計算できるアプリをリリースするなど、消費者のサステナブル需要の高まりを示す事例は枚挙にいとまがない。コストセンシティブでありつつも消費者のサステナブル意識は着実に高まっているといえるだろう。
今後の日本における海外観光客誘致では、コロナ対策だけでなく、サステナブル取り組みに本腰を入れ、その効果を発信することが求められるだろう。
文:細谷元(Livit)