25万円からタイ発アメリカ行きなど高まる「ワクチンツーリズム」への関心、Airbnbではなく「AirVnV」

1回目のワクチン接種を終えた人の割合が50%を超える国が増えるに伴い、観光客の受け入れを開始する国も増加傾向にある。

欧州では、圏内の旅行を中心に回復基調となり、今夏には概ね復調する兆しがあると報告されている。

European Travel Commissionがこのほど発表したレポートによると、2021年下半期には、「ワクチンパスポート」の施行で域内の観光需要は増加することが見込まれるという。

欧州では2021年7月1日からコロナワクチン接種を証明するデジタルパスポートの利用がEU全域で開始されたばかり。スマホアプリで使えるこのワクチンパスポートには、ワクチン接種証明や直近のコロナ検査の陰性証明などが記載されており、EU域内の旅行先で提示することで、隔離や陰性証明提示を行う必要がなくなる。

EU人口4億5000万人のうち、すでに2億人がワクチンパスポートを入手したとのことだ。

タイ発アメリカ行きのワクチンツーリズム、25万円から

コロナワクチンと観光を巡っては「ワクチンツーリズム」という言葉も頻繁に聞かれるようになってきている。

これはその名が示す通りワクチンを接種するために海外旅行に行くというツーリズムの一形態。ワクチンが不足する国からワクチンを十分に持つ国に旅行する形が多い。

たとえば、タイ発米国行きや台湾発グアム行きのワクチン接種ツアーがある。

チャンネル・ニュース・アジア(CNA)5月19日の記事によると、タイでは米ロサンゼルス、サンフランシスコ、ラスベガスなどでワクチンを接種するツアーに関心が集まっているという。このツアーは、10日間のツアーで、1回で完了するジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)のワクチンを接種する。

費用は8人グループで1人あたり2300ドル(約25万円)、2人の場合1人あたり3700ドル(約40万円)。ホテル宿泊費、交通、観光アトラクション、タイ帰国手続き費用など諸々が含まれる。

CNAによると、タイでは米国のほかにセルビア行きワクチンツアーなども提供されていた。ただし本記事執筆時点の7月15日時点では、セルビアはすでにワクチンツアーの受け入れを停止している。

2021年7月11日時点、タイの1回目のワクチン摂取率は13%、必要回数完了率は4.7%。1回目接種率56%、必要回数完了率48%の米国と比べるとワクチン普及に時間がかかっていることがうかがえる。

タイ国内ではワクチン接種まで待てないという人が多く、ワクチンツアーへの関心が高まっているが、タイに帰国する際に課せられる2週間の隔離があることが障壁となるケースも少なくないとのこと。

ただし、隔離ありでも海外でワクチンを接種したいと考える層は一定数存在するのも事実。接種ペースが遅いままであれば、ワクチンツアーへの関心は今後も高まる可能性が見込まれる。

グアム観光当局が推進するワクチンツーリズム「エアビー」

一方、台湾ではグアム行きのワクチンツアーへの関心が高まっている。

CNA7月2日の報道によると、グアムの隔離規制緩和とワクチン観光プログラムの開始を受け、台湾ではグアムへのワクチンツアーの販売が開始された。ツアーを販売しているのは、台湾観光大手Lion Travel。7月6日からの4つのパッケージ、計439人分の枠は一瞬で売り切れたという。

価格は、1530ドル(約16万7000円)から。フライトと宿泊費が含まれているが、ワクチン費用は含まれていない。ワクチンは、ファイザー、モデルナ、ジョンソン・アンド・ジョンソンの3種類から選択可能。Taiwan Newsによると、価格はジョンソン・アンド・ジョンソンが100ドル、モデルナとファイザーはそれぞれ200ドルほどとのこと。

このグアムのワクチン観光プログラムは「Air V&V(Vacation and Vaccination)」と呼ばれ、グアム観光当局が実施しているもの。台湾だけではなく、他国の住民も参加できるため、今後は台湾以外からのインバウンドも増えてくる見込みがある。

注意が必要なワクチンツーリズムの動向

他にもワクチン観光客を受け入れている国はあるが、プログラムの一貫性や持続性が乏しいのものが多く、今後の動向には注意が必要だ。

たとえば、セルビアでは2021年4月にワクチンツアー客の受け入れを開始。上記でも触れたように台湾でもワクチンツーリズムの旅行先として関心が高まった。しかし、隣国ボスニアからのワクチン観光客が大量流入したため、セルビア当局はワクチン観光の当面の停止を発表した

セルビアのワクチン接種会場(2021年3月)

また、アラブ首長国連邦アブダビではワクチン観光関連の情報が錯綜した。欧州メディアShengenVisaInfoによると、アブダビは6月11日から、観光ビザを取得した観光客にワクチン提供を開始したという。しかし、6月24日、アブダビ当局はツイッターで、住民の安全を優先し観光ビザ旅行者へワクチンを提供しないことを決定したと発表している。

ワクチンツーリズムを推進するグアムなどで、どのような観光促進効果があらわれるのか。今後の動向に注目したい。

文:細谷元(Livit

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