コロナ後の消費のかたち、ブランド企業が無視できない世界トレンド
米国では夏シーズンの需要急増に応じ、ハワイアン航空が急遽400人以上の人材雇用を進めるなど、経済復調の兆しが見え始めている。
リベンジ消費やリベンジ旅行といった言葉も頻繁に聞かれるようになり、消費者の消費意欲も旺盛のようだ。
しかしコロナ前とコロナ後では、自然環境に対する消費者の意識は大きく変わっており、コロナ後の消費需要を取り込むには、こうした意識変化を汲み取ることが必要だ。
マスターカードがYouGovを通じて2021年1〜3月に24カ国を対象に実施した消費者調査で、どのような意識変化があったのかを見て取ることができる。
1つは、コロナ前に比べ、消費にかかる二酸化炭素を削減することが重要であると考える消費者が増えた点が挙げられる。マスターカードの調査では、世界24カ国の成人消費者のうち、コロナ前に比べ消費のカーボンフットプリントを減らすことがより重要だと感じるようになったとの回答割合は54%だった。
また、2021年には環境やサステナビリティに関する問題に対し、個人的にアクションを起こしていくとの回答割合は85%に上ることが判明。コロナ禍では、Eコマースやフードデリバリーを利用することが多く、ゴミ問題に目を向けざるを得ない状況が発生した。こうしたことが消費者の環境意識を加速度的に高めていると思われる。
消費の二酸化炭素排出を見える化する計算機
昨今の消費者の環境意識の高まりを鑑みると、ESGやサステナビリティという視点を持たないプロダクトやサービスが競争力を持つのは難しい状況だ。
この状況は「二酸化炭素計算機」の登場によって、ますます強固になってくるものと思われる。
マスターカードは2021年4月、消費者が自身の消費によってどれほどの二酸化炭素が排出されているのかを計算できるアプリを発表した。
この二酸化炭素計算機アプリは、消費者が購入した特定の商品ではなく、プロダクトやサービスのカテゴリの二酸化炭素排出を計算するもの。正確ではないものの、消費にかかる大まかな二酸化炭素排出量を算出することができ、消費者はその環境インパクトを数値で知ることができる。
数値化に使われているのは「Aland Index」と呼ばれる指数。これは、スウェーデンのフィンテック企業Doconomyが開発した二酸化炭素定量化ソリューションの1つ。APIとして提供されており、マスターカード以外の金融会社もAland Indexを活用した二酸化炭素計算機の提供を始めている。
2021年6月、ソフトバンクが6億3900万ドルを投じたスウェーデンのフィンテック企業Klarnaもその1つ。ソフトバンクの投資後、評価額が4560億ドルを越えた注目のスタートアップだ。
Klarnaは同年4月20日、1000万ドルの環境保護取り組みの一環として「二酸化炭素計算機」をローンチしたと発表。同社のプラットフォーム上で行われたトランザクションにかかる二酸化炭素排出量を提示し、利用者の環境意識向上を狙うものだ。
Klarnaのセバスチャン・シエミアトコウスキーCEOは、二酸化炭素計算機のローンチに際し、食品に塩分・砂糖・脂肪などの表示があるように、商品やサービスの二酸化炭素排出量の情報も透明化すべきだと指摘。特別な指数ではなく、消費において必須となる情報だと強調している。
Klarnaは現時点で、9000万人の消費者と25万のリテール企業が利用するプラットフォーム。この巨大なネットワークに二酸化炭素計算機が導入された影響は小さくないはずだ。
Aland IndexのAPIを活用した二酸化炭素計算機は、この先も金融機関を中心に導入が進んでいくのかもしれない。
ホテル業界や広告業界にも波及する二酸化炭素の定量化トレンド
二酸化炭素排出量を見える化しようという動きは、他にも多く観察される。
たとえば、ドバイのホテルは「カーボンカリキュレーター」を利用し、ホテル運営にかかる二酸化炭素排出量の定量化を行い、当局に報告することが義務付けられる。2021年5月、毎月二酸化炭素排出量を計算し当局に報告するルールが7月から施行されることが発表された。
一方、広告の二酸化炭素排出量の定量化の試みも始まる予定だ。
AdGreenは、広告代理店が広告プロダクションにかかる二酸化炭素排出量をトラックできる仕組みを2021年9月にローンチする計画。このトラッキングシステムでは、広告制作のどの活動でどれくらいの二酸化炭素が排出されるのか、またサプライヤーごとの二酸化炭素排出量も算出されるという。
これは、ユニリーバやWPPなどのグローバル大手企業が推進する「Ad Net Zero」イニシアチブの一環で実施されるもので、この仕組みを利用する企業は世界的に広がる公算が大きい。
消費者の意識変化や大手企業のイニシアチブによって、二酸化炭素排出の数値化の動きはこの先も活発化することが見込まれる。日本企業も本腰を入れて取り組みを始めないと、この分野でも他国に先行を許してしまうことになるかもしれない。
文:細谷元(Livit)