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独立や起業によって新たなビジネスに挑戦する際、一つの壁となるのが銀行口座の開設という声がある。煩雑な手続きと長い審査期間は、創業時の足かせとなり、場合によっては審査そのものを通過できないケースも多い。経営リソースが不足する初期段階で、こうした手続きに時間を割くことは、ビジネスの遅れを招きかねない。
そうした創業期の障壁を取り払い、日本のスタートアップ企業の成長を加速させようと取り組む企業が、あおぞら銀行とGMOインターネットグループの融合によって生まれた、GMOあおぞらネット銀行だ。“No.1 テクノロジーバンク”を目指す同社は、創業・起業期の企業に寄り添うべく、法人口座に新たな機能を追加し、進化させた形で事業を展開する。
連載第一回となる本記事では、従来の銀行サービスの常識を塗り替えるGMOあおぞらネット銀行の新たな一手について、執行役員の小野沢 宏晋氏に話を聞いた。
金融機関の慣習が、日本のスタートアップを停滞させている
雇用形態に捉われない自由な働き方が進み、新たなビジネスに挑む起業家が、社会に欠かせない構成員になりつつある。その一方で、日本においては彼らをサポートする環境が万全な状態にあるとはいえない。スタートアップビジネスがアメリカや中国から遅れをとっているのも、こうした社会風土が一因となっている。
顕著な例の一つが、銀行での法人口座の開設だろう。すべてのビジネスに必要となる銀行口座にも関わらず、スタートアップ企業の場合には、口座開設そのものが「不自由な状態」になっていると小野沢氏はいう。
小野沢氏「『銀行口座のつくり方がわかりづらい』『審査が通らなかった』といった創業者の声は、後を絶ちません。法人口座開設にあたって、バーチャルオフィスが認められていなかったり、固定電話が必要だったりするケースがいまだにあるんです。せっかく創業を決意して動き出したのに、その第一歩が、このようなネガティブな体験から始まるのは、実にもったいないことだと感じます」
こうした状況は、起業家やフリーランスに対する金融機関の姿勢が表れていると、小野沢氏は指摘する。要は「鶏が先か、卵が先か」という構造だ。つまり、実績のある人であれば創業準備はスムーズに進むが、未知なる領域に挑戦しようとする人ほど、ビジネス実績の不足などから信用を得られず、さらにビジネスに遅れを生んでしまう構造になっているのだ。
小野沢氏「新しいビジネスというのは、事業を始める人のアイデアから始まるわけで、最初から形になっているわけがないんです。そこを金融機関が信用できないことでロスが生じ、アイデアが埋もれていっては、機会損失の発生が頻繁に起きてしまうでしょう。
私自身も会社をつくった経験があるのですが、事業計画書を作成したり、銀行からの呼び出しで支店に出向いたりした事を覚えています。法人口座の開設に3カ月かかったこともありました。その時感じたのは、『手続きなどよりも、価値のある本質的なことに時間を割きたい』ということ。現在は銀行側の一員として、新しいことに挑戦する人に対して、門戸を広げていきたいと、スタートアップ支援に取り組んでいます」
法人向け口座のアップデートで、起業家に門戸を開く
GMOあおぞらネット銀行が事業を開始したのは2018年。あおぞら銀行の金融機関としての経営インフラと、GMOインターネットグループのソリューションやテクノロジーを組み合わせ、現在新たなビジネスモデルの構築を進めている。その一つが、法人口座におけるスモールビジネスや、スタートアップ企業向け支援の拡充だ。なぜ同社は、スモール&スタートアップ向け支援に取り組んでいるのだろうか。
小野沢氏「私たちGMOあおぞらネット銀行自体が、スタートアップ企業の一員として、お客さまと一緒に成長していこうと考えているからです。まずお客さまの創業そのものを支援し、次にお客さまの事業のスケールアップを後押ししていく。この2段式ロケットのような仕組みを、銀行という立場で提供していくことを目指しています」
GMOあおぞらネット銀行の法人口座は、開設のフローが徹底的に簡素化されている。書類の押印や郵送、来店は不要であり、最短即日で開設が可能。手続きがすべてオンラインで完結する、ネット銀行の利点が最大限生かされた設計だ。起業家にとっては、口座開設に要する時間や手間を削減できることがメリットとなる。
小野沢氏「円滑な口座開設については、利用者の方々から高評価をいただいています。また、『他の金融機関の審査を通過できなかったが、GMOあおぞらネット銀行では開設できた』という声もありました。
これは、当社の審査が他行に比べて甘いということではありません。創業者の方とのコミュニケーションを丁寧に行うことで対応をしています。バーチャルオフィスの方でも、固定電話を持っていない方からのお申込みであっても、形式的に除外するのではなく、しっかりと対応した上で事業の“中身”を見定めるようにしています」
同口座は、コストの削減にも貢献する。口座維持手数料無料であることをはじめ、他銀行宛の振込手数用が業界最安値水準(2021年7月5日時点)である点も、スタートアップ企業には魅力的だ。
小野沢氏「当社のVISAビジネスデビットカードをご利用いただけば、利用額の1%をキャッシュバックする仕組みがあります。広告費やクラウドサービス料金、交通費、税金に至るまで、あらゆる経費の1%が還元されることは、創業時の強い味方になると考えています」
同社のスタートアップ支援は、それだけにとどまらない。創業者のあらゆる不安を解消するサービスが備わっているのだ。
小野沢氏「便利かつ低コストであることに加え、“安心”も新たなキーワードにしていきたいと考えています、これまで当社のお客さまの起業家から、
・資金がやや不足している
・資金繰りの状況を可視化したい
・事業計画書の作り方が分からない
・些細なことでも、誰に相談したらよいか分からない
・専門家に相談したいが、接点がない
など、さまざまなお悩みの声を聞いてきました。そうしたニーズに応えられるよう、外部の提携企業とのサービスをおトクにご案内するなど、段階的にサービスを拡充させています」
創業時の不安を取り除くため、拡充される新たな支援
2021年7月12日から追加される新サービスの一つが、「あんしん10万円」だ。同社の法人口座を開設する際に同時に申し込める。追加の書類も不要だ。申込後、口座開設と即時に10万円の与信枠が設定され、即時に利用が可能となっている。例えば引き落とし日、請求される額の半分しか口座に残っていない場合、その不足する残額が10万円以内であればGMOあおぞらネット銀行が立て替える仕組みとなっている。
小野沢氏「このサービスを設計したきっかけは、当社が提供するデビットカードでした。創業間もない段階では、予期せぬタイミングで支払いが生じるケースが多いものです。デビットカードの場合、口座に残高がないとご利用いただけません。このようなちょっとした資金不足の解消をサポートしようと考えたのが、『あんしん10万円』というサービスなんです」
「あんしん10万円」のポイントは、開設した法人口座に標準装備として備わっていることだ。通常の借入れに必要となる書類の用意や審査に要する時間も不要である。「借り入れ」ボタンをクリックする必要すらない自動の立て替えのため、支払い前に口座の残高をチェックする手間も省ける。
小野沢氏「事業において10万円という額は少額ですが、創業される皆さまの不安を少しでも解消できればと考えております。さらに継続的に当社でお取引いただけるお客さまには、より大きな金額のご融資をスピーディーに提供できるような新サービスも検討しています」
同じく7月12日に追加される新サービスの二つ目が、「入出金管理アプリ」。他の金融機関を含む口座を一括管理できる、クラウド会計サービス freeeがベースとなったアプリケーションだ。口座残高や入出金といった資金の流れを、パソコンやスマートフォンから管理することが可能であり、経理面の効率化に貢献する。個人向け口座アプリの家計簿機能に近しいものだが、ネット銀行の法人口座としては国内初となるソリューションだ。
小野沢氏「freeeさまより提供する入出金管理アプリでは、簡単に資金繰りを可視化できます。将来の入出金の予定を入力していくことで、口座残高を自動で予測する機能を搭載しており、案件受注や資金調達の判断に役立てられます。もちろん会計ソフトでも似たような機能を持つものがありますが、会計ソフトの操作を懸念する経営者も多いことから、独立したツールが必要だと考え、創業時に誰もが必要になる資金繰り管理機能に特化したアプリの提供を始めることとしました」
スタートアップ支援はほかにも充実している。
創業直後は、
・資金調達
・補助金・助成金の取得
・会計および税理士との連携
・事業に必要となるアウトソースやパートナーの確保
など、あらゆる支援が必要となる。
GMOあおぞらネット銀行が提供する「ビジネスサポートサービス」は、起業直後に必要な銀行以外のサービスにおいても、提携企業のサービスを特典付きで紹介している。法人口座利用者は、提携する各企業のサービスを、おトクに利用できるのだ。
小野沢氏「起業時の悩みは口座開設だけではなく、多岐に渡りますが、それら一つひとつを銀行が支援することが重要だと考えました。法人口座をお持ちのお客さまは、インターネットバンキング画面から各サービスの情報と特典を一覧で確認し、必要なサービスにアクセスできる仕組みをとっています。今後も、ニーズに応じてご支援メニューを拡充していく予定です」
渋谷発の銀行として、起業家とともに成長していきたい
さまざまなスタートアップ企業向け支援の拡充を通じ、「スモール&スタートアップ向け銀行No.1」を目指すGMOあおぞらネット銀行だが、今後はどのようなサービスを提供していくのだろうか。
小野沢氏「今回拡充したサービスは、先述したロケットの“1段目”にあたるもの。今後は事業がスケールした後の“2段目”の支援を進めていきたいですね。私たちが持つテクノロジーバンクとしての強みを最大限に発揮し、お客さまとなる事業者様のCX(顧客体験価値)の向上を実現していきたいと思っています。その一環として、現在取り組んでいる「かんたん組込型金融サービス」をご提供するなど、お客さま企業ご自身のDXをバックアップできるような施策に取り組んでいます」
数ある金融機関の中でも、スタートアップ企業向け支援をビジネスモデルの中心に据える銀行は稀だ。ネットバンクをはじめ、新たなサービスが続々と生まれている金融業界だが、新しい銀行の多くは個人をターゲットとしている。法人向けサービスを充実させる銀行であっても、事業規模の大きな企業を主な対象としていることがほとんどだろう。GMOあおぞらネット銀行は、スモール&スタートアップ企業という新たな領域にチャレンジするにあたり、どのような狙いがあるのだろうか。
小野沢氏「後発の新しい銀行だからこそ、社会のニーズをいち早く取り入れ、クイックにサービスを展開することができるので、スタートアップ企業との親和性は高いはずです。また、GMOインターネットグループの力もありますので、テクノロジーにも強い。UI・UXからセキュリティに至る高度な技術力、それらを応用したビジネス構築のお手伝いでは、存分に力を発揮できると考えています」
今後、さらなる技術革新と社会変化によって企業の新陳代謝はますます進む。大規模な企業にもリスクが潜む一方、スタートアップの成長が加速する可能性は高い。将来のユニコーン企業を支援することができれば、GMOあおぞらネット銀行の企業価値向上にもつながるのだ。テクノロジーと金融の力で起業家をサポートすることは、自社の未来も左右する。“想い”と“戦略”を一つにしている小野沢氏の言葉は力強い。
小野沢氏「要するに、私達自身も起業家精神を抱いて、スタートアップ企業支援に臨んでいるんですね。当社の法人口座の開設を起点に事業を始められた皆さまと、一緒に成長していくことで、お客さまと共に次の世代の主役になる。そうすることができれば本望です」
起業家目線で機能拡張を続けるGMOあおぞらネット銀行の法人口座は、スムーズな開設、資金繰りの管理、ビジネスパートナーの紹介に至るまで、創業時のあらゆる悩みを解消する金融サービスの進化系ともいえるソリューションだ。一つひとつの機能は経営リソースの最適化につながり、起業家は最も力を注ぐべき本質的な事業に集中することで、成長の加速度を最大化することができる。
従来の銀行の枠組みを超えた施策に挑みつづけるGMOあおぞらネット銀行。未来を創り出す第一歩が、今始まろうとしている。次世代を担う起業家たちは開業とともに同社で法人口座を開設する、という流れが、近い将来スタンダードになるのかもしれない。
文:相澤 優太
写真:西村 克也