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大量の投資資金が押し寄せるサステナブル市場
日本では「サステナビリティ(持続可能性)」という言葉が一般的なメディアでも登場する頻度が増え、消費者の間で認知度は高まってきているようだが、このサステナビリティを本格的にビジネス戦略に組み込む企業は少ない印象がある。
しかし、日本の外ではサステナビリティはビジネスを展開する上で必須となっており、この視点なしでは事業の成長は難しくなるかもしれない。
なぜなら、現在世界の投資資金はサステナビリティビジネスに流入しており、この流れは今後一層強くなることが予想されるからだ。
シンガポール銀行最大手DBSのピユシュ・グプタCEOがCNBCの取材(2021年6月17日)で放った「投資資金の津波がサステナブル投資に流入している」という発言から、その規模の大きさを想像できるのではないだろうか。
このサステナビリティは、ジェフ・ベゾス氏、イーロン・マスク氏、ビル・ゲイツ氏など、米テックビリオネアたちの目下の投資分野でもあり、やはり他の起業家・投資家・大手企業も追随せざるを得ないテーマになっている。
以下では、上記3名の米テックビリオネアたちがどのようなサステナブル投資を行っているのか、その動向を探ってみたい。
1兆円超えの「ベゾス・アース・ファンド」
まずアマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が2020年2月に発表した総額100億ドル(約1兆1000億円)の「ベゾス・アース・ファンド」について見ていきたい。
ベゾス・アース・ファンドは、気候変動問題に取り組む科学者、活動家、組織に対し、総額100億ドルを給付(grant)する取り組みだ。
このファンドの発表当初、取り組みの期間などに関する詳細情報は明らかにされなかったが、現在その実態が少しずつ明らかになってきている。
Recodeの報道によると、ベゾス・アース・ファンドは2030年までの10年間で計100億ドルの資金を投じる計画という。年間約10億ドル(約1100億円)になる計算だ。
2020年6月には、第1回目の給付対象団体が発表された。給付を受けたのは計16団体。給付額は500万ドル〜1億ドルと様々で、合計7億9100万ドル(約874億円)に上った。
最高額となる1億ドルを受け取るのは、世界自然保護基金(WWF)、世界資源研究所(WRI)、Nature Conservancy、天然資源防護協議会(NRDC)、環境防衛基金(EDF)の5つ。
ちなみに上記WRIの所長を務めていたアンドリュー・スティア氏は、2021年3月に、ベゾス氏を引き継ぎベゾス・アース・ファンドの代表に就任している。
これらの環境団体は、ベゾス・アース・ファンドからの給付金を独自の自然保護活動に充てる計画だ。たとえば、WRIは今後5年間、大きく2つのプロジェクトに資金を投じる。1つは、二酸化炭素排出をトラッキングする衛星システムの開発、もう1つは米国のスクールバス電動化プロジェクトだ。
マスク氏は100億円以上かけ、二酸化炭素回収テクノロジー開発を支援
テスラのイーロン・マスクCEOは、ベゾス氏とは異なるアプローチでクリーンテック開発を促進しようとしている。
マスク氏は、テックコンペ団体XPrizeを通じて、計1億ドル(約110億円)のテック開発コンペを開始。資金はマスク氏とマスク財団が出資している。テックコンペの賞金規模としては、史上最高になるという。
テーマは「carbon capture(二酸化炭素回収)」分野のテクノロジーだ。
同コンペは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測モデルを前提に、2050年までに気温の上昇を1.5〜2度に抑えるためには、年間10ギガトンの二酸化炭素を除去する必要があるとの認識をもとに、まず年間最低1000トンの二酸化炭素を回収できるテクノロジーを募集。
1年後にすべての応募をレビューし、その中の有望な15プロジェクトに対し100万ドルを給付し、さらに3年後に最優秀プロジェクトに5000万ドル、ランナーアップに3000万ドルを支払う。計4年に及ぶコンペとなる。このほか学生部門にも500万ドルが配分される。
このコンペは、2021年4月22日に登録が開始されたばかり。高校生、大学生、スタートアップ、イノベーター、中小企業、コミュニティ団体、個人など様々なプレーヤーの参加が見込まれる。
ゲイツ氏もサステナブル投資を加速
ビル・ゲイツ氏もサステナビリティ分野への投資活動を積極的に行っている。
直近の注目案件としては、ゲイツ氏率いるベンチャーキャピタルBreakthrough Energy Ventures(BEV)による大型の資金調達が挙げられる。
2021年1月、BEVは第2回目となる10億ドル(約1100億円)の資金調達を実施。この資金をサステナビリティ分野のスタートアップ40〜50社に投じる計画だ。特に、長距離移動や二酸化炭素回収、環境に優しい製鉄・コンクリート製造技術などに資金を投じる考えという。
2016年に公となったBEVには、ゲイツ氏のほかにも著名なテックビリオネアたちが共同創業者・投資家・取締役に名を連ねている。アマゾンのジェフ・ベゾス氏、リチャード・ブランソン氏、リンクトインの共同創業者レイド・ホフマン氏、アリババのジャック・マー氏、マーク・ザッカーバーグ氏、アジア一の富豪と呼ばれるインドのムケシュ・アンバニ氏など。
CrunchbaseのデータによるとBEVは49社のスタートアップに投資を実施、すでに1社をエグジットしている。エグジットしたのは、電気自動車向けのバッテリーを開発しているQuantumScapeだ。
ベゾス氏、マスク氏、ゲイツ氏、これら3人のテックビリオネアたちが持つ起業家、投資家、一般消費者への影響は多大なものだ。DBSのグプタCEOが津波のような資金がサステナブル投資に流入していると述べているが、テックビリオネアたちの行動がその資金の流れに影響しているのは間違いないだろう。
文:細谷元(Livit)