2050年ゴミの量は1.6倍に、SDGsの達成を阻む根本問題
SDGsの諸目標に深く関係するゴミ問題。現在、悪化の一途をたどっており、このままではSDGsの達成は困難となることが見込まれる。
世界銀行のレポート「What a Waste 2.0」によると、1年間で世界全体が生み出すゴミは20億トンに上り、少なく見積もって33%が適切に処理されておらず、自然環境を汚染している。
適切に処理されないゴミは土壌や河川・海洋を汚染するだけでなく、メタンガスなどの温室効果ガスを発生させる。
SDGsの目標5「すべての人に健康と福祉を」、目標6「安全な水とトレイを」、目標11「住み続けられるまちづくり」、目標13「気候変動」、目標14「海の豊かさ」、目標15「陸の豊かさ」の達成を難しくするであろうことは想像に難くない。
現在、ゴミを100%に適切に処理できない状況だが、ゴミの量は年々増えており、汚染問題はこの先一層深刻化することが見込まれる。上記世界銀行のレポートによると、1年間のゴミの量は現時点の20億トンから2050年には34億トンに増加するという。
SDGsの遂行にはゴミ問題の解決が大前提となるのは明白だが、これには大きく2つのアプローチが存在する。1つはリサイクル、もう1つはプラスチックを代替する新素材だ。
リサイクルの分別はAIで自動化、グーグル・スピンオフ企業が投資するスタートアップ
現在、これら2つの領域ではAIなど次世代テクノロジーの活用が進んでおり、目に見える成果を出し始めている。
リサイクル領域では、米国のAMP Roboticsに注目が集まっている。
AMP Roboticsは、リサイクル企業向けのAIを開発するテクノロジースタートアップだ。
リサイクル過程では、リサイクルできるゴミとそうではないゴミが混ざっている場合がほとんどで、現在多くのリサイクル場では人がゴミの分別を行っている。同社はAIによる分別オートメーションで、リサイクル企業のコスト削減と分別スピードの改善を支援している。
AMP Roboticsの2020年4月のプレスリリースによると、この時点までの1年間で同社のAIが分別したリサイクル可能なゴミの量は10億トンを突破。リサイクル企業からの引き合いも多く、2020年第1四半期には売上が50%増加したという。
同社のAIは、プラスチック、ダンボール、紙、金属の分別が可能なだけでなく、さらに細かい分類が可能だ。たとえばプラスチックでは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)、高濃度ポリエチレン(HDPE)、低濃度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン、ポリエステルを見分けることができる。
2020年のパンデミックで多くのリサイクル企業では、人材確保が困難になっただけでなく、ソーシャルディスタンス要請やゴミの急増なども手伝い事業継続が困難になったが、これをきっかけにAIによるリサイクルオートメーションへの関心は一層高まったとみられる。
AMP Roboticsの創業者、マタニャ・ホロヴィッツ氏は、カリフォルニア工科大学で博士号を取得した人物。博士課程では、日本でもよく知られる「DARPA(国防高等研究計画局)」主催のテクノロジーコンペに多数参加した経験を持っている。
Crunchbaseのデータによると、創業は2015年、現在までに7450万ドル(約80億円)を調達。CNBCによると従業員数は130人を超えるとのこと。
AMP Roboticsの投資家には、米主要VCの1つセコイヤ・キャピタルやグーグル(アルファベット)からスピンオフした都市インフラ・スタートアップSidewalk Infrastructure Partnersが名を連ねている。
現在クリーンテック投資熱が高まりつつあり、この先他のビッグプレイヤーからの投資の可能性も大いにある。
元インテル社員が創業した堆肥化可能パッケージスタートアップFootprint
ゴミ問題解決にはリサイクルの促進だけでなく、堆肥化可能な次世代素材の普及も必要だ。
この分野では、きのこ素材、海藻素材など様々な取り組みが進行中で、すでにパッケージやアパレルに使用されるケースが増えている。
植物由来の堆肥化可能パッケージを開発する米Footprint社では、2021年中にブランド企業向けに10億個近い堆肥化可能パッケージを提供する計画だ。
Footprint社は、2013年に元インテルのエンジニアだったトロイ・スウォープ氏が創業。現在、アリゾナ、サウスカロライナ、メキシコの3カ所に工場をかまえ、増える需要に対応中だ。また現在、ポーランドで製造拠点を、オランダで研究開発拠点を開設する計画が進行中とのこと。
すでにマクドナルドやサラダチェーンのスイートグリーン、フィリップス、Bose、米小売大手Targetなどの大手企業がFootprint社の堆肥化可能パッケージの導入を開始。スウォープ氏がCNBCに語ったところでは、提供する堆肥化可能パッケージの数は2022年中に数十億個に達する見込みという。
コットンよりはるかに環境負荷が少ない、樹木でつくったアパレル繊維
パッケージのほかには、アパレル分野で植物由来の素材への関心が高まっており、脱プラスチックの流れが加速中だ。
フィンランドのSpinnovaは、樹木からアパレル素材として利用できる繊維を開発。このほど、H&Mとのコラボレーションを発表し話題となった。
このSpinnovaの樹木繊維、アパレル業界のサプライチェーンを大きく変えるディスラプターとして注目を集める存在だ。
アパレル業界で、プラスチック以外の主要素材としてコットンが多く使用されている。しかし、このほど中国のウイグル問題でそのサプライチェーンにリスクがあることが判明したほか、製造過程で大量の水を使うため環境への影響を懸念する声が高まっている。
一方、この樹木繊維の製造過程における水の使用量は、コットン製造過程に比べ99%抑えることが可能で、二酸化炭素排出も大幅に減らすことができるという。
2021年2月、Spinnovaはブラジルのパルプ会社Suzanoと共同でフィンランド国内に2200万ユーロを投じ、樹木繊維の製造工場を開設することを発表。2022年中にグローバルブランド向けに樹木繊維の提供を開始する計画だ。
時価総額世界最大の企業アップルが200億円規模の森林保護プロジェクトを発表したり、アマゾンが100億ドル規模の「ベゾス・アースファンド」を開始するなどGAFAMの間でサステナブルな取り組みが加速し、他の企業も積極的に追随中だ。
これに伴い、ゴミ問題への関心や投資が加速していくのは間違いないだろう。
文:細谷元(Livit)