テックスタートアップを起業した年収2億円の22歳YouTuber

「YouTuber」に憧れる人は少なくない。その憧れのYouTuberになり、成功した場合、その地位を捨てることは簡単にはできないだろう。

YouTuberが職業として広く認知されはじめている昨今

しかし、YouTuberが職業として広く認知されはじめている昨今、それをキャリアパスの1つとして考え、YouTuberから転職しようと考える人が出てきても不思議ではない。

YouTuberとして活躍している人々の中には、5~10年以上の経験を持つ人は多く、1つの職業として捉えるのならば、転職を検討する時期ともいえる。

米国の人気ゲームYouTuber、ランドン・ニッカーソン氏(22歳)はYouTuberから起業家となった人物。登録者320万人、年収200万ドル(約2億2000万円)と、いわゆるトップYouTuberだったが、2019年にARスタートアップ「ARKH」を設立し、今ではフルタイムの起業家として活動中だ。

ランドン・ニッカーソン氏のYouTubeチャンネル

YouTuberがアパレル販売など「ライト」なサイドビジネスを展開するケースは少なくないが、ニッカーソン氏のビジネスはそれらとは大きく異なる。

空間コンピューティングの可能性を模索する本格的なARテックスタートアップであり、片手間でできるビジネスではないため、YouTuberを辞めざるを得なかったようだ。

ARKHはすでに投資家から資金調達を開始。米YouTube情報メディアtubefilterによると、ニッカーソン氏はシードラウンドで200万ドル(約2億2000万円)を調達したほか、2021年2月に370万ドル(約4億円)を調達、同社の評価額は4000万ドル(約44億円)に達したという。

ARKHが現在開発しているのは、リング型のウェラブルデバイスとスマホを通じてAR空間でデジタルオブジェクトを操作するシステムだ。

ARKHが開発しているリング型のウェラブルデバイス(ARKH YouTubeチャンネルより)

この技術の開発にあたり、ARKHはウェラブルハードデバイス開発企業Lithoからいくつか知的財産権や製品に関する権利を取得している。上記調達資金を活用し、権利を取得したとのこと。

製品開発は順調に進んでいるようだ。近々アプリをローンチし、今年第3四半期には空間コンピューティングのハブデバイスを、年末までにリングをローンチする計画という。

ARKHのビジネスやビジネスモデルの詳細はまだ分からないが、プレスリリースなどからは、同社がAR空間でデジタルオブジェクトを操作する空間コンピューティングプラットフォームと開発キットを開発していることが読み取れる。ARウェラブルデバイスのプラットフォームを提供し、そのプラットフォーム利用にかかるサービス料などが収益になると推察される。

空間コンピューティングは、ゲーム・エンタメだけでなく、ヘルスケア、教育、製造・建築デザイン、交通、ゲーム開発など幅広い分野で可能性が期待されており、ビジネスの可能性は非常に大きい。

ZionMarketによると、空間コンピューティング市場は2026年までに年率41%拡大し、1962億ドル(約21兆円)に達する見込みだ。

ニッカーソン氏はフルタイムでのYouTube活動は辞めたものの、スタートアップの近況を報告する動画を時々公開している。300万人以上のファンベースにアクセスし、事業活動をアピールできるのはYouTuber起業家ならではの強みといえるだろう。

実際、ARKH企業チャンネルの登録者数はすでに80万人以上。スタートアップのYouTubeチャンネルとしては驚異的な登録者数だ。

登録者6200万人のYouTuberが仕掛けるハンバーガービジネス

成功したYouTuberが、YouTube以外の領域で本格的にビジネスを展開するケースはこれからも増えてくることになるだろう。その際、ニッカーソン氏のようにYouTuberを辞めるケースとYouTuberを続けながらの2つのケースが考えられる。

後者には登録者6200万人以上の米トップYouTuber、Mr.Beastことジミー・ドナルドソン氏が当てはまる。

ブルームバーグによると、ドナルドソン氏は自身が所属するタレントマネジメント事務所Night Mediaのリード・ダッチシャーCEOから「YouTube以外のビジネス」について考えるように促され、新規事業「Mr.Beast バーガー」を開始。

これはドナルドソン氏プロデュースのハンバーガーを様々な店舗でつくり、デリバリー販売する事業。2020年11月にノースカロライナ州ウィルソンに第1店舗が開設され、米国以外でもカナダや英国で販売を開始。2021年6月時点では提供店舗はすでに600店に達したという。

通常は別のレストラン事業を行っている店舗がレシピをもとに、Mr.Beast バーガーをつくり、そこからデリバリーする「ゴーストキッチン」と呼ばれる方式が採用されている。詳細は分からないが、ハンバーガーの売上を販売店舗とドナルドソン氏がシェアするようになっているようだ。

Mr.Beastの知名度や話題性で、Mr.Beastバーガーの販売店では売上が上昇したとの報告もあり、コロナ禍で苦しむ外食店舗の副次的な収入源になるとの期待も高まっている。

ニッカーソン氏やドナルドソン氏がYouTube以外のビジネスの可能性を示した今、彼らに続くYouTuberが出てきても不思議ではない。今後どのようなYouTuber起業家が登場するのか、楽しみに注目していきたい。

文:細谷元(Livit