コロナ禍により急速に普及するテレワーク。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した調査(※)によれば、テレワークを導入する企業は34%で、企業規模が大きくなるほど導入率が高い傾向があった。
ビデオ会議ツールの利用も活発化し、スタンダードな働き方として認知されつつあるが、「マネジメント」や「コミュニケーション」などの課題も絶えず聞かれる。
そんななか、NHKが公開した「テレワーク中の働きぶりの“見える化”」を扱った記事で、テレワーク中の社員のパソコン画面が撮影され、上司に送信される仕組みが紹介されたところ、Twitter上ではネガティブな反応への投稿に8,000を超える「いいね」がついた。
今回は、同様の仕組みを持つシステムを企業向けに発売し、テレワークに関するコンサルティングも手がける株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利(たざわ ゆり)さんに、「テレワーク中に社員の画面を撮影する必要性」を聞いた。
※2020年8⽉20日〜10⽉8日に、全国の農林⽔産業、公務を除く全業種、従業員10人以上 の20,000社を対象に実施
なぜ「テレワーク中の画面撮影」が必要なのか
ーー御社のテレワークマネジメントシステム「F-Chair+」では、どのような管理ができるのでしょうか?
社員が「着席」「退席」ボタンを押して勤務時間を計算するほか、残業・深夜労働の通知、位置情報の記録、勤務中のパソコン画面撮影、およびデータの保管機能などがあります。
画面撮影機能は1時間に5〜6回、着席中の社員のパソコン画面がランダムに撮影され、上司と撮影された本人がその画像を閲覧できます。
画像の精度は3段階に調整が可能で、文字が読める精度(上)、文字はあまり読めず作業内容は理解できる精度(中)、画像全体がぼやけている粗い状態の精度(下)です。
多くの企業は文字が読めない(中)以下の精度を選択していて、上司が部下の仕事の様子を画面で軽く確認するのが狙いです。
ーーこのパソコン画面撮影機能について、Twitter上では「気持ち悪い」「監視」「成果より時間を評価している」といったネガティブな反応が多く見られました。
承知しています。この機能を採用した背景には、日本の多くの企業が労働時間制を採用していること、かつ日々の成果が見えづらい仕事のスタイルが主流であることが関連しています。
例えば、欧米では成果主義が多いと思いますが、これまでの日本で成果より時間が評価されてきたのは事実ではないでしょうか。
また、四半期ごとの目標達成率や成果を評価する仕組みはあっても、日々の仕事を評価する仕組みを持つ企業は多くありません。
例えば、会議、電話・メール対応、リサーチや調整など、きちんと働いていても成果物として提出できない仕事が少なくない。だからこそ、申告した時間内にきっちり働いているか確認したい上司が多いのです。
加えて、「一度雇うと解雇しづらい」という日本の労働基準法の厳しさも影響していると思います。たとえ生産性の悪い社員でも解雇できないため、真面目に働いていてもらう必要があり、社員の様子を知りたいと考える上司も一定数いるようです。
ーーその日にどんな仕事をしたか、進捗の報告だけでは不十分でしょうか? あるいは、成果を評価しやすい仕組みを導入するなどは?
結局、テレワークでは進捗報告も、着席・退席ボタンを押すのも自己申告であり、実際に働いているのかどうかは目に見えません。今まで目の前にいた部下の様子が急に見えなくなったのだから、上司側が不安を持つのは当然だと私は考えています。特に、一人ひとりが担う役割が大きい中小企業は経営者も、不安を感じやすい傾向があります。
また、今回のように急にテレワークに対応しなければならない緊急事態では、新たな評価制度を導入するのは難しいのではと予想します。
強い不安を感じている上司・企業側に対して、「成果を評価してほしい」「社員のことを信じてほしい」と伝えたところで、いきなりは理解できません。だから、彼らが安心できるような分かりやすい対策として「画面撮影」の機能を搭載しています。
画面撮影によりモチベーションが上がった人も
ーー上司側の不安要素も理解できます。ただ、仕事を監視される社員側のストレスについては、どのようなケアを考えられていますか?
現状のシステムは、働く社員の方に最大限、配慮した仕様にしています。上述したとおり、撮影されるのは本人が着席ボタンを押している間だけ、多くの導入企業では画面の文字を読めない状態で運用しています。これらは、社員が感じる抵抗感を和らげるためです。
エレベーターの監視カメラと同じで、何か問題があったときに詳しく見ることはできますが、普段は作業内容を軽く確認するのみです。これが嫌だとしたら、仕事をサボっているなど何かやましいことがあるのかと思ってしまうのですが……。
意外かもしれませんが、ユーザー企業のアンケートでは、「システムの導入によって、ようやくフェアに仕事ができるようになった」という喜びの声も聞かれているんですよ。
ーー「フェアに仕事ができる」とは、どういうことでしょう?
女性社員の方からで、彼女はこのように話していました。
「私は子育て中で時短勤務をしていて、時間内に成果を出すために一生懸命働いています。でも、日中にダラダラ仕事をして残業もしている中年の男性社員のほうが、私よりも高い評価を得て多くの給料をもらっているんです。不公平に感じていましたが、在宅勤務になってシステムが導入されたことで、この男性社員の評価が下がり、私の仕事ぶりがきちんと伝わるようになりました」
システム導入によって仕事が見える化され、不公平だった評価が公平に変わったんです。実際、これまで上司に良い評価を得られなかった人たちは、このシステムにメリットを感じることが多いようです。彼らは、「テレワーク中に上司にサボっていると思われるんじゃないか」という不安を抱いているからです。
画面撮影機能は、上司側の不安だけでなく「サボっていると思われたくない」という社員側の不安を解消する効果もあるのです。
ーーその場合、テレワーク云々以前に上司と部下の信頼関係や評価システムに課題がありそうですね。
たしかに、テレワークによって「会社にいるだけで安心していた」「一生懸命に仕事をする姿を評価していた」ことに気づいた管理職や社員は少なくありません。上司と部下のコミュニケーションを増やし信頼を醸成すること、短時間で効率よく働く社員を評価することが重要だと思います。
長時間労働を避けるためにも成果主義にかたよるのではなく、「時間あたりの成果の評価」が求められます。そのためには、テレワークでも「労働時間と仕事内容の把握」は必要ではないでしょうか。
ーー一方、やましいことが一切なくても監視をストレスに感じる人は一定数いるかもしれませんが……。
弊社ではほとんど聞かれませんが、メンタルに影響が出てしまうようなら、画面撮影機能を特定の社員のみオフにするといった措置は可能です。ただ、根本的な解決にはなりません。そういった社員に対しては、監視が目的ではなく、「時間あたりの生産性評価」のためだと丁寧に説明するといいと思います。
個人的には、これまで一定のルールがある枠組みの中で働いてきた会社員の方は、テレワーク時にも枠があったほうが緊張感やモチベーションが保てるのではと考えています。
オフィスに近い環境がテレワーク成功の秘訣
ーーテレワークの導入では、コミュニケーションの難しさやメンタルへの悪影響も聞かれます。御社では、どのような解決策を勧めていますか?
弊社では、バーチャルオフィスを採用しています。現在は全員テレワークなのですが、出勤時間はみんなバーチャルオフィスに出社して、自身の作業内容に応じて社長室、応接室、会議室、集中作業室などの部屋を移動しながら働いています。
集中作業室にいれば話しかけられることはありませんし、応接室にいるときは雑談もOK。これはオフィスにいるときと、なるべく近い環境を作るのが目的です。いつ誰に声をかけていいのかを把握できるため、弊社ではコミュニケーションの課題はゼロです。
社員がこの環境に慣れていくと雑談もはずみ、そういった会話から新しいビジネスアイディアが生まれることもあるでしょう。コミュニケーションが活発化することで、テレワークに多い孤独感やメンタルへの悪影響も少ないと思います。
ーー理想のテレワークのスタイルは会社の規模や事業体、働く人々の性質によって、大きく変わると思います。どのように理想的なスタイル、自社のルールを見つけるべきでしょうか?
何かをガラッと変えるのは労力が伴うので、「オフィスで働くときと同じように働くにはどうすればいいか」の視点を大事にすると、うまくいきやすいです。
バーチャルオフィスのような大げさなものじゃなく、ビデオ会議ツールをオフィス代わりに使ってもいいんです。カメラやマイクをオフにした状態で、勤務時間中ずっと立ち上げた状態にしておいて、必要なときに声をかけるといった感じに。
相手の状態を把握しやすく、一緒に働いている感覚はありますが、見張られているようなプレッシャーは少ないですよね。これだけでコミュニケーションの課題を解決できることもあります。
逆にお勧めしないのが、個人で作業が完結するように仕事を切り分けること。柔軟に働くために仕事を切り分けるのではなく、離れても一緒に働けるようにするのがテレワークだと、弊社では考えています。マネジメントシステムも、そういった思想のもとに設計されています。
<取材協力>
株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤由利
取材・文:小林 香織
編集:岡徳之(Livit)