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就職や転職の企業選びで「企業の給与ランキング」を参考にする人は多いかもしれない。
しかし「給与」が前職より高くとも、入った企業の売上や利益が思ったほど伸びておらず、長時間労働を強いられるなどして、すぐに辞めてしまうケースは少なくない。
時代が大きく変化している今、就職・転職の企業選びでも、新しい視点が求められるところだ。
「キャリア」「働きやすさ」「ワークライフバランス」など様々な軸が考えられるが、その中でも今特に注目すべきは「サステナビリティ/ESG取り組み」だろう。
サステナビリティ/ESG評価が高い企業は、上記の「給与」「キャリア」「働きやすさ」などの項目でも、そうではない企業に比べ条件が良い可能性が高く、総合指標的な役割を果たすからだ。
このことは最近公表された様々な定量的な研究から推測することができる。
ESG評価と超長期のキャッシュ・フロー
まず「給与」という要素を見てみたい。
高い給与というのは、当該企業の事業が好調で、利益を生み出しており、さらなる成長のため優秀な人材を獲得したいということを示すシグナルといえる。また、企業価値を高めるイノベーションを継続的に実現できているということを示唆するものだ。
企業がそのような状況にあるとき、当該企業の超長期のキャッシュフローの現在価値を示す株価も上昇することになる。
この株価、多くの研究によって企業のESG評価と連動する傾向が報告されているのだ。
つまり、ESG(環境・社会・ガバナンス)取り組みが高く評価されているほど、企業の株価パフォーマンスも良くなる傾向があるということだ。
ローマ大学の研究者らが2020年8月に発表した論文を見てみたい。
同論文では、欧州企業のESG評価と株価パフォーマンスの相関を分析している。それによると企業のESGの総合評価を示す「ESG Overall index」と株価には統計的に有意となる正の相関が確認された。また、分析対象となった46社のうち7社に特に強い相関が見られたという。
同論文は、すべてではないが、一部の企業においてESG投資を増やすことで、株価リターンは増える可能性があると指摘している。
ドイツ・ハンブルク大学の研究者らが実施したメタ分析(2015年)でも、同様の傾向が観察された。
同論文で、1970〜2014年に発表された論文2000件のメタ分析を実施したところ、多くの企業でESGと企業の財務パフォーマンスに正の相関があることが判明。正の相関がある企業の割合は48%、一方負の相関は11%であることが分かったのだ。
サステナビリティ/ESG取り組みで価値創造できているかがカギ
多くの場合、高いESG評価は、株式市場や財務での高いパフォーマンスと相関しているが、上記論文が示すように、負の相関のケースも存在する。
この違いを生み出す要因の1つとして考えられるのが、企業のESGに対する考え方だ。
ESGのためのESG投資をする企業の場合、企業の価値創造につながらずコストだけがかさみ、財務状況に悪影響を及ぼすことになる。
一方で、価値創造のためのESG取り組みを実施している企業は、ESG評価を高めつつ、価値を生み出すことが可能で、それが株価や財務状況に反映されると考えられる。
就職・転職時の企業選びにおいては、企業のサステナビリティ/ESG取り組みの本気度や企業がそれらの取り組みをどのように価値創造につなげているのか具体的に分析することが求められる。
サステナビリティ企業ランキングは、企業のサステナビリティ/ESG取り組みの本気度を知る上で有益といえるだろう。特に、客観的な数字に基づき作成され、多くの専門家らの批判の目にさらされているランキングは、企業選びにおいて有益な情報を与えてくれるはずだ。
よく知られるサステナビリティ企業ランキングの1つに、カナダの調査企業Corporate Knights社が毎年発表している「The Global 100」がある。世界経済フォーラムでも参照されるため、世界的に知られるランキングとなっている。
2021年1月25日に最新版が発表された。1位はフランスの電機メーカー会社シュナイダーエレクトリック。総合指数は83.2で、前年の29位から1位と大躍進した。2位は昨年1位だったデンマークの風力発電会社オーステッド。3位にランクインしたブラジル銀行を除いて、トップ10は北米と欧州の企業で占められている。
欧米企業ひしめく中、健闘する日本企業とそのESG取り組み
トップ10だけでなく、トップ100の大半が欧米の企業だが、日本の企業もいくつかランクインしている。日本トップは、エーザイ(総合16位)。このほかシスメックス、コニカミノルタ、積水化学、武田薬品、計5社がトップ100以内にランクインした。
これらの企業が世界的なランキングで評価を得ていることには、相応の理由がある。同ランキング日本勢1位のエーザイは、長らく日本におけるサステナビリティ/ESG取り組みをけん引してきただけでなく、自社の膨大なデータを用いサステナビリティ/ESG取り組みが企業にどのような価値をもたらすのかを分析し、モデル化するという試みを実施している。
同社「統合報告書2020」によると、その分析で「人件費投入を10%増やすと5年後のPBR(株価純資産倍率)が13.8%向上すること」、「研究開発投資を10%増やすと10年後のPBRが8.2%増加すること」、「女性管理職比率を10%増やすと7年後のPBRが2.4%拡大すること」などが統計的に有意であることが判明したという。
サステナビリティ/ESG評価が高い企業は、将来に渡り価値創造を継続できる可能性が高いということ。価値を生み出し続けるということは、もちろん社員の給与に反映され、また人材投資によるキャリアアップも望めるということになるのだ。
人気企業ランキングや給与ランキングなどではなく、サステナビリティ/ESGという切り口で、就職・転職先を探してみてもよいのではないだろうか。
文:細谷元(Livit)