コロナ禍・米国の支出変化、増加率最大は意外な項目

コロナ禍、生活パターンの変化や危機感の高まりに伴い、人々のお金に対する考えや使い方は大きく変化している。

貯蓄率やファイナンシャル教育需要の高まりなどを示す動きが観察されている

世界最大の消費大国である米国の変化を見てみたい。

CNBCが2020年9月に伝えたバンク・オブ・アメリカの調査によると、パンデミックで消費行動が変化したと答えたアメリカ人の割合は64%に上ることが判明。

CNBCは予算管理アプリMintのデータから、その変化の詳細を説明している。このMintのデータは、2019年8月と2020年8月の支出状況を比較したものだ。

コロナ禍で減少率が最大となったのは「フィナンシャル」で、30%近い下落となった。このフィナンシャル項目には、フィナンシャルアドバイザーサービスや生命保険などが含まれている。

これに次いで減少率が大きかったのは「水道・電気・ガス代」(24%減)。このほか「エンタメ」(23%減)、「旅行」(22%減)、「自動車・交通」(9%減)、「ビジネスサービス」(8%減)などが減少した。

一方、支出が増加した項目も多数ある。増加率が最大となったのは「投資」で、実に42%の増加となった。これに「ペット」(23%)、「教育」(17%)、「家」(9%)、「食料」(7%)、「健康・フィットネス」(6%)、「ショッピング」(6%)などが続いた。

この変化は日本にも当てはまる部分があるのではないだろうか。リモートワークの増加に伴い、自動車・交通支出が減少。また旅行支出や外での娯楽(エンタメ)の支出が減ったという人は多いはずだ。

米国の支出変化で特筆すべきは、ファイナンシャルアドバイザーサービスなどへの支出が大幅に減った一方で、投資への支出が増えている点だ。

これは家計や投資に関して、これまでフィナンシャルサービスなどに任せていた部分を自分で管理しようと考える人が増えたことを示唆するもの。

実際ほかの調査でも、貯蓄率やファイナンシャル教育需要の高まりなど、このことを示す動きが観察されており、家計や資産管理に対する意識が変化していることが見て取れる。

コロナで貯蓄率3倍以上増加した米国

家計・資産管理への意識の高まりを示す1つの変化が貯蓄率の上昇だ。消費を減らし、家計負担を縮小、投資に回す資金を増やそうとする行動と見て取れる。

米国務省経済分析局のデータによると、パンデミック前同国の貯蓄率は7.5%にとどまるものだった。

しかし、ノースウェスタン・ミューチュアルファンドの調査によると、2020年4月に貯蓄率は33.7%に上昇、その後20%前後で推移している。

ウェルズファーゴ・プライベートバンクの調査によると、パンデミックをきっかけに、Z世代の16%、ミレニアル世代の18%が退職に向けた貯蓄率を増やしたという。

コロナで貯蓄率3倍以上増加した米国

米CITが2020年9月に発表した調査でも、過去3カ月の間普段より多く貯蓄したとの回答割合は53%、また将来のために今後の貯蓄率を高めることを検討しているとの回答は76%に達したことが分かった。

フィナンシャル・リテラシーを求めるZ世代とミレニアル世代

フィナンシャル・リテラシーへの関心が高まっていることを示唆する調査もいくつかある。

ワンダーマン・トンプソンの調査によると、自分を「支出型」か「貯蓄型」どちらか選ぶとすると、65%のZ世代が貯蓄型だと回答。また、80%が大金を稼ぐことよりも賢い支出の方が重要であると答えている。

また、アジア太平洋のZ世代を対象にした調査では、85%がフィナンシャル・リテラシーに関する教育を求めているものの、十分な学習リソースがないと感じていることが判明した。

パンデミックで経済的な窮地に陥ったミレニアル世代でも同様の考えが広がっていることが考えられる。パンデミック前に米国で実施された、フィナンシャル・リテラシーに関する調査で、ミレニアル世代のリテラシーの低さが露呈していたからだ。

パンデミックをきっかけに、リテラシーを高めたいと考えるようになるのは不思議ではない。英語版ヤフーファイナンスが2020年2月26日に伝えた調査では、米国でフィナンシャル・リテラシーがあるミレニアル世代の割合は16%にとどまるものだった。

子どもにもフィナンシャル・リテラシーを付けたいミレニアル世代

パンデミックを経験した人々が家計・資産管理の重要性を認識しつつあるなか、子どもたちにフィナンシャル・リテラシーを付けたいという需要も高まっているようだ。

子どもたちにフィナンシャル・リテラシーを付けたいという需要も高まっている

2020年11月、英国ではHSBC UKが金融教育プラットフォーム「Young Money」と提携し、3〜11歳を対象にしたフィナンシャル教育プログラム「Money Heros」を開始することを発表。

プログラム開始の1カ月前に実施された意識調査では、親の90%が子どものうちにお金のリテラシーを学ぶことは重要だと回答している。

同プログラムでは「資金管理」「クリティカルコンシューマ」「リスク管理・お金と感情」「生活とお金」の4つのトピックがあり、3〜5歳、5〜7歳、7〜9歳、9〜11歳の年齢グループごとに学習枠組みが構築されている。

たとえば、9〜11歳グループの資金管理項目では、外貨についての学習や支出データのトラッキング・管理などを学び、リスク管理項目ではパスワード/IDなどの個人情報の管理やお金の貸し借りにまつわるリスクを学ぶようだ。

同プログラムでは2021〜22年にかけて、小学校教師向けのフィナンシャル・リテラシー教育トレーニングも開始する予定だ。英国内500校の教師が対象になる。

フィナンシャル・リテラシーが高まると、衝動買いや無題な支出が減ることが想定されるが、それにリテール企業などはどう対応するのか気になるところだ。

文:細谷元(Livit