日本電信電話(NTT)は、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて人が触れた場所を可視化するシステムを実現したと発表した。

同技術では、人の手が環境表面(公共の空間の壁、扉、机などの表面)に触れた後に残る熱痕跡をサーマルカメラで撮影することで人が触れた場所を検出するという。

撮影可能な波長の異なる2種類のカメラを組み合わせて使用することでアルゴリズムの軽量化に成功。これにより、触れた場所の検出を高速かつ高い確度で実現し、さらに検出結果を実際の環境表面の上に投影することで、そこを訪れた人に他の人が触れた場所を知らせるとのことだ。

同技術により、人が触れた場所を直感的に理解できるようになり、人が触れた場所を避けたり、他の人が触れた場所を確実に消毒したり、といったことが可能になるという。

今後、環境表面の素材の差への対応、実際の環境での実証などを行い、実応用に向けて検討を進めていくとのことだ。

1.研究の背景

新型コロナウイルス感染防止には様々な対策がとられており、私たちが日常的に触れる棚や扉、机といったさまざまなものの表面(環境表面)に付着したウイルスを介して感染が広まる可能性があるという問題に対しては、定期的な消毒を行って、表面に付着した恐れのあるウイルスを除去することが有効とされている。

しかし、定期的に消毒を行うのみでは、消毒された後に誰かが触っていないか、正しく他の人が触れた場所が消毒されているのか、といった不安を感じる人も多いのではないかと考えられるという。

また従来からある、薬品とブラックライトを使って痕跡を可視化する手法では、薬品を使うため利用できる状況に限りがあり、他にも一般的なカメラを用いて触った場所の推定を行う手法(バーチャルキーボードなどで利用されている)や、深度センサを用いた手法も考えられるが、確実に人が触れた場所を判定することは困難であるとのことだ。

そこで、熱痕跡を検出することで、人が触れた場所を可視化する方法を開発。この技術により、このような不安の解消や、効果的な消毒の実現を目指すとしている。

人が触れた場所の可視化

2.技術のポイント

人の手が環境表面に触れると、一般的に人の手は周囲より温度が高いため、触れた熱が表面に残る。

このように環境表面に残った熱を熱痕跡と呼ぶという。サーマルカメラ(遠赤外線を利用)で撮影すると、この熱痕跡をとらえることができるとのことだ。

熱痕跡

同技術はこの原理を用い、熱痕跡を検出することで、実際に人が触れた場所を検出するとしている。

一方で、この熱痕跡は、可視光や近赤外といった他の波長には影響を及ぼさず、通常のカメラなどには映らないという。

同技術では、サーマルカメラと可視光あるいは近赤外のカメラを併用し、背景差分アルゴリズムで、サーモグラフィ画像のみに変化が残り、他のカメラでは変化のない熱痕跡の部分を人が触れた場所として検出する手法を実現。

さらに同技術では、プロジェクタを用いた投影表示により、上記の手法で検出した、人が触れた場所を、実際の物体の表面に重ね合わせて提示。

プロジェクションは可視光の領域で行われるため、図3のように近赤外線領域で人の動きを撮影し、光の波長を切り分けることで、軽量なアルゴリズムでも識別が可能となるとしている。

このアルゴリズムは小型のセンサノードに実装することができ、さまざまな場所に設置可能。サーマルカメラなどを備えたこのようなセンサノードを多数設置することにより、人が触れた場所を広く記録したり、発熱者が触れた場所を追跡したり、といった応用も考えられるとのことだ。

システム構成

同技術では、コロナウイルス自体を可視化することはできないが、今まで行われてこなかった「人が触れた場所の可視化」の実現により、それを見ることで他の人が触れた場所を避けて安心感を得たり、消毒のモチベーションが上がったりすることで、ウイルスの拡散防止につながる可能性があるという。

さらに、統計的に人が触れる場所を集計し、公共空間における設計や消毒のマニュアルに活かして効率化を図るといったことも可能になるとしている。

3.今後の展開

今回実現した技術について、環境表面の素材の差への対応、実際の環境での実証などを行い、実応用に向けて検討を進めるとのことだ。