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近年、様々なところで耳にする「デジタルツイン」。
なんとなくは理解しつつ、具体的にどんなものなのか、自分のビジネスや生活にどのような影響があるのか、あまりピンと来ていない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、シミュレーションとの違いなど、デジタルツインの基本や特徴を解説し、デジタルツインが解決する産業課題、社会課題などについて掘り下げていきます。
また、デジタルツインに必要な技術や取り組んでいる企業もご紹介していますので、具体的にどのように私たちのビジネスや生活に関係してくるのか、お分かりいただけるのではないかと思います。
(1)デジタルツインとは、シミュレーションとの違いは?
デジタルツインとは
デジタルツインとは、英語ではDigital Twinと表記され「デジタル空間上の双子」という意味。より具体的には、「現実空間上のモノや環境の状態を収集し、デジタル空間上にコピーし再現する技術概念」のことを言います。
また、将来の事象についてデジタル空間上に再現された空間で予測することができるシミュレーション技術の一つでもあります。
デジタルツインという言葉自体は、古くから主に工学分野でシミュレーション技術の一つとして取り扱われ、現実空間とデジタル空間を対にして扱うことを実行したのはNASAのアポロ計画が最初だと言われています。
(参考)
The Digital Twin Paradigm for Future NASA and U.S. Air Force Vehicles
https://ntrs.nasa.gov/citations/20120008178
そしてIoTなどを始めとする技術の発達著しい今になって、デジタルツインはビジネス分野への適用が広がりつつあり、耳にする機会が増えたという方も多いでしょう。
デジタルツインとシミュレーションの違い
デジタルツインってシミュレーションと何が違うの?という率直な疑問についても宙畑の見解をまとめてみました。
シミュレーションとは
広辞苑によると、シミュレーションは以下のように記載されています。
宙畑メモ シミュレーション【simulation】
①物理的・生態的・社会的等のシステムの挙動を、これとほぼ同じ法則に支配される他のシステムまたはコンピューターによって、模擬すること。
②サッカーで、ファウルを受けたふりをして審判を欺く行為。反則となる。
広辞苑より
シミュレーションとは、要するに現実空間で起きるものを、デジタル空間上を含む「他の場所」で模擬する技術ということになります。
「他の場所」という書き方をしたのは、必ずしもデジタル空間だけとは限らず、例えば自動車のスリップについて、実際の道路ではなく安全に配慮された実験場で本物の自動車を使ってシミュレーションを行ったり、地震の影響の大きさを体験するために、疑似的に部屋全体を揺らすトラックがあったりする例もあります。
デジタルツインとシミュレーションの違い
つまり、デジタルツインは、シミュレーション技術と異なるものではなく、シミュレーション技術の一つであると言えるでしょう。
あえて、一般的なデジタル空間上でのシミュレーションの手法とデジタルツインの特徴の違いを挙げるならば、以下のような点が挙げられます。
①現実世界との連動している
一般的なシミュレーションの場合、解析を始める時点での状況は、人が考え得るシナリオを想定し、なんらかの仮定を置く必要がありました。
一方で、デジタルツインの場合、現実空間と同じ環境がデジタル上に再現されているため、人の手で逐一設定する必要はありません。これは人の手間を省くという意味だけでなく、より現実に近いシミュレーションを行うことができるという利点があります。
②リアルタイム性が高い
①と関連しますが、通常のシミュレーションの場合、人が仮定を置くため、現実世界での事象を受けての解析にはある程度時間が必要であり、リアルタイム性が低くなる傾向がありました。
一方で、デジタルツインでは常に現実世界と連動しているデジタル情報を元に将来予測を行っていくため、リアルタイム性を高めることが可能となります。
③現実世界へのアプローチ
②の結果として、現実世界でこれから起きるであろう事象をリアルタイムにデジタル空間上で予測することが可能になり、かつ現実空間とのネットワークを有しているため、現実世界へ適切なタイミングでアプローチし、今後発生する問題を回避するといったことも可能になります。
(2)デジタルツインが解決する「産業課題」「社会課題」「科学技術の課題」
■ 産業課題
デジタルツインが適用される業界は数多くあります。
代表例は製造業ですが、エネルギー業界、建設業界、物流業界など、現実空間上に活動の場を持つ全ての産業に適用可能と考えられます。
今回は製造業を例にとって、バリューチェーン毎に解決する課題について説明します。
【企画・設計フェーズ】
・試作コスト、期間の削減
通常であれば、複数回の試作をしながら商品の仕様や製造工程などを決めていく工程が、デジタルツインを使えば、デジタル空間上で簡単にいくつもの施策を行うことができるため、試作にかかるコストが低減でき、また試作の期間も短縮できます。
・製品の品質向上、リスクの低減
たくさんの試作や試験をデジタル空間上で繰り返せるため、現実空間で行っていては見つけられない設計・製造上の欠陥などを洗い出すことができ、製品の品質向上に寄与します。
・必要なコスト、人員の試算
製造工程を設計する際、新しい製品の場合にはどれほどのコストや人員が必要なのか予測が困難なことがよくあります。こういった場合にも、デジタルツインを用いるとデジタル空間上で模擬することができるので、精度高く必要コストや人員の試算を行うことができます。
【製造フェーズ】
・設備保全
これまでは、設備を稼働させていてトラブルが発生した際、現場からのレポートなどを元に原因究明を行い、解決策を練っていました。
これに対しデジタルツインを用いると、設備の状態をリアルタイムに詳細を把握することができるため、原因究明までの時間が短縮できます。また、故障前にわずかな異常を検知することができれば、部品を交換するなど故障を未然に防ぐことが可能です。
・リードタイムの短縮
デジタルツインにより、製造現場の人員の稼働状況や在庫の状況をリアルタイムに把握できるようになれば、人員や在庫の最適化が可能になり、リードタイムの短縮や製造コストの削減が実現できます。
【アフターサービスフェーズ】
・アフターサービスの充実
設備保全と同様に、顧客の手元に届けた製品の状況をリアルタイムに把握することができるため、適切なタイミングで、適切な内容のアフターサービスを顧客に提供することができます。
■社会課題
デジタルツインは各産業における課題の解決だけでなく、SDGsなどで取り扱われるような世界規模での社会課題へも適用することができます。
私たちが取る選択の中で、どれが最適なのかを明らかにするだけでなく、デジタル空間上でリアリティを持って未来を再現することで地球に暮らす私たち一人ひとりが自分の問題として、捉えることができるようになる点も注目されています。
気象災害
例えば、NTTコミュニケーションズは、2021年9月に江東五区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)を対象として、「河川氾濫により水災害が発生した」と仮定した避難訓練をデジタル空間で実施する計画を立てています。
実証実験を通して参加者が問題を自分のこととして捉える事ができ、実際の避難行動の改善に役立てられると考えられています。
(参考)
デジタルツインで社会課題解決に挑むNTT Com–サイレントマジョリティを「民意」として可視化
https://japan.cnet.com/article/35166924/
食料不足
世界中の国々で深刻な食料不足が起きており、今後も加速することが予想されています。
食料問題でもデジタルツインの活用が試みられています。
IBMでは、衛星画像や圃場に設置されたセンサーの値や天候、土壌の状態などのデータを集め、クラウド上で農場のシミュレーションモデルを構築しました。
作成したモデルを用いて、リアルタイムに農場の様子を把握することで農作物の収量を予測することで、それぞれの作業をいつ行えば良いかということや、最大の収量を得るには、いつ農地を耕すのが良いか、ということを知ることができます。
(参考)
農業へのAI活用で食料危機に備える
https://www.mirai-port.com/people/1117/
CO2排出削減
2018年4月に閣議決定された第五次環境基本計画の中で、重点戦略ごとの環境政策の展開の一つ「持続可能性を支える技術の開発・普及」の章で、デジタルツインについて、以下のように述べられています。
デジタルツイン技術の確立によるエネルギー機器の開発期間短縮・CO2排出削減などの実現に向けた技術開発を進める。
人口や労働力の減少
産業課題の章で紹介したように、デジタルツインは労働の現場での人員の最適化にも適用できます。
日本は現場でのノウハウが重視されるモノづくりが得意とされてきましたが、今後あらゆる産業において、経験豊富なベテランが高齢化・退職し労働力の減少が見込まれる中で、現場の情報を可視化し、誰でも同じように製造が行えることが重要です。この点で、デジタルツインが果たす役割は大きいと考えられます。
■科学技術の課題
1章で説明した通り、一般的なシミュレーションでは、人が想定した物理現象に基づいて解析が行われるため、現実空間で起こる複雑な事象が十分に再現できないという問題がありました。
このような未解明現象に対しても、デジタルツインはアプローチすることができます。
国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センターは、戦略プロポーザル革新的デジタルツインの中で、デジタルツインによって理解が進むであろう研究開発課題について、以下のようなものをあげています。
テーマを見ていくと、材料の疲労など理論的なアプローチだけでは現象の予測が精度よくできないものや、複数の事象が複雑に影響しあうモデルなどが対象となっています。
(3)デジタルツインを後押しするDXブーム
近年、注目が集まっているDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流の中でも、デジタルツインは重要なキーワードになってきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
経済産業省が令和元年7月に定めた「DX推進指標」とそのガイダンスという文書の中で、DXの定義について以下のように記述があります。
・「DX 推進指標」における「DX」の定義
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
ここでは、文書の性格上、ビジネスや企業について述べられていますが、実際にはもう少し広く、国や地方自治体なども含めて、私たちの生活全体がデータやデジタル技術によってゆたかになっていくことだと言えるでしょう。
DXとデジタルツインの関係
冒頭でご説明したように、「デジタルツイン」は古くから用いられてきた言葉ですが、2000年代に入って、技術の進歩によりあらゆるものがデジタル化されていく(DX)中であらためて注目されています。
現実空間の状況が、IoTセンサなどを用いて数値化され、クラウド上に集約されるようになった結果、そのデータの利用方法として「デジタルツイン」を構築し、デジタル空間でのシミュレーション結果を現実空間へフィードバックしていく試みがされているのです。
「DX」の具体的な実現方法として「デジタルツイン」に注目が集まっているわけです。
(4)デジタルツインはどのように作られる? 利用技術紹介
ここまで、デジタルツインがどのような利益をもたらすのかを説明してきました。
この章では、そんなデジタルツインを実現するために必要な技術を解説していきます。
データの流れに合わせて、次の4つのパートに分けられます。
①現実空間のデジタル化
②データの収集
③データの分析
④デジタル空間への表現
それぞれのパート毎に、鍵となる技術があります。
①現実空間のデジタル化:IoT
現実空間の状況をデジタル空間に取り込むためには、まず測定を行う必要があります。
近年話題を集めているIoT(Internet of Things)によって、車や家電など現実空間の様々なモノの情報が収集されることによって、仮想空間上に構築できる世界がより現実に近くなります。
IoTには、様々な種類があり、小さなセンサを必要な場所に設置するものや監視カメラやドローン、広く宇宙から様子を捉える衛星データなども含まれます。
②データの収集:5G
現実空間で取得したデータをクラウド上に集約するためには、その間の通信手段も非常に重要です。
IoTのセンサが増えれば増えるほど、また1つのセンサあたりのデータの取得頻度や分解能(どれほど細かく測定できるか)が上がれば上がるほど、全体として通信が必要なデータの総量は大きくなります。
そこでポイントとなるが5Gと呼ばれる次世代の通信システムです。これまでよりも高速・大容量で低遅延、かつ多数の端末を接続した通信が可能となります。日本では2020年より通信各社が提供を始めています。
③データの分析:AI
クラウド上に集まった現実空間に関する大量のデータを元に、将来を予測していきます。
将来を予測する際、これまで人類が紐解いてきた物理現象を元に予測をする方法もありますが、現実空間で起こる事象はそれだけでは説明がつかないものも数多くあります。
そこで、関連性の分かっていないデータまで含めて多くのデータを入力データにして、
より精度良く将来を予測しよう、という試みがAI(人工知能)です。
AIはデータの種類や量が多ければ多いほど、精度を高めることができるため、前段で紹介したIoTや5G技術の実現が非常に重要となります。
④デジタル空間への表現:AR・VR
現実空間のデータを収集し、分析を行ったら、それを人間が分かる形で表現することも重要な要素技術の一つです。(人間が分からなくても、現実空間にそのままフィードバックを行うことも可能ではあります。)
表現方法の一つとして注目されているのが、拡張現実技術であるARや、仮想空間を表現する技術であるVRです。分析された将来を、より人間が現実味を持って知覚できる形で表現することで、私たちはデジタルツインをまさに、現実空間のように感じることができるのです。
(5)デジタルツインの取り組み事例
■取り組む企業
【製造業】シーメンス
ドイツで、製造業から発展し、エレクトロニクス、オートメーション、およびデジタル分野における世界有数のテクノロジー企業であるシーメンス社は、製造業においてデジタルツインを推進する代表企業でもあります。
同社は企業競争力を高めるための戦略の一つとして「Comprehensive Digital Twin(包括的なデジタルツイン)」を掲げています。同社のデジタルツインは「製品のデジタルツイン」「製造のデジタルツイン」「デジタルツインのパフォーマンス」の3つの形式で構成されています。
◆「製品のデジタルツイン」
例えば、バッテリの設計を考えた場合、現実空間上でバッテリを製造する前に、考えられる問題や故障と特定し、修正をしていくことができます。
◆「製造のデジタルツイン」
製品だけでなく、製造のプロセスについても仮想環境上で検討を行い、最適化することができます。
◆「デジタルツインのパフォーマンス」
実際に製造プロセスが動き始めたら、デジタルツイン上でもデータを大量に生成しながら、さらなる改善を進めて行きます。
同社は他にも、風力発電用のタービンで、温度や回転速度などのデータからギアボックスの寿命を予測したり、ダウンタイムを削減しています。
また、米HPの3Dプリンター開発における冷却構造部品の開発では、3割以上コスト削減を実現したそうです。
(参考)
SIEMENShttps://new.siemens.com/jp/ja/markets/battery-manufacturing.html
【航空業界】ゼネラル・エレクトリック(GE)社
アメリカのデジタル産業企業であるゼネラル・エレクトリック(GE)社もデジタルツインの導入に取り組んでいます。
例えば、航空機のジェットエンジンでは通常24~36か月毎に、分解検査を実施していますが、デジタルツインの導入により、38か月後まで実は検査は不要であったことが明らかになったそうです。
(参考)
デジタル・ツイン:データを分析して将来を予測する
https://www.gereports.jp/digital-twin-technology/
【通信業界】NTT
日本では、NTTが「IOWN構想」と名付けて、デジタルツインの構築に取り組んでいます。
同社はデジタルツインのユースケースとして、
・空間と時間の4D情報を活用して人流・交通流を制御し、希少、スケジュールまで組み合わせた混雑・渋滞解消やCO2最小社会を実現する
・地球全体の地形,気候変動等をデジタル化し,大規模自然災害の予測・対策し,持続
可能な国・街づくりを実現する
などをあげています。
また、同社はヒトDTC(デジタルツインコンピューティング)をいう構想も掲げており、ヒトの人格や思考といった内面を含む情報をデジタル化することで、集団の合意形成など今までにない価値を生み出そうとしています。
(参考)
IOWN構想特集─デジタルツインコンピューティング─
https://journal.ntt.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/07tokusyu.pdf
【建設業界】コマツ
建設業界では、国土交通省が推し進めているi-Construction(アイ・コンストラクション)という建設業界へのICTの全面的な導入政策に代表されるようにデジタル化が推進されています。
建設機械・鉱山機械メーカーのコマツでは、「スマートコンストラクション」というサービスの中で、工事現場のデジタルツインを実現しています。導入の結果、工事現場での測量効率を大幅に向上し、これまで約4日かかっていた作業が20分に短縮されたそうです。
(参考)
第1回 デジタルツイン革命とポストコロナ時代の日本企業のオペレーション
https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/cc/chitekishisan/lst/2020/09/09
【医療業界】フィリップス
ヘルスケア製品・医療機器を中心とする電気機器メーカーであるフィリップスは、ヘルスケア業界におけるデジタルツインと取り組みとして、「患者のあらゆるデータを解析・活用し、仮想的にデジテル上にリアルタイムで患者を緻密に再現し、予防・医療の早期介入していく仕組みを生み出していく」と語っています。
(参考)
フィリップス、異業種連携をベースにヘルステック加速
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/327441/121000598/?P=2
【医療業界】RealView Imaging
イスラエルの企業であるRealView Imaging社は、患者の体内の情報をホログラムで再現し、医療従事者が操作できる技術を有した会社です。
(参考)
REAL VIEWING
http://realviewimaging.com/
【物流業界】CHESSCON(akquinet社)
akquinet社は、港の物流においてデジタルツインを適用している会社です。
サプライチェーンの需給バランスを調整したり、在庫の管理、輸送ルートの検証などを行っています。
【農業業界】 FIELDVIEW(CLIMATE社)
Climate社は、衛星データを用いて、農場の仮想空間への取り込みを行っています。
生産を最大化するために、いつどんなことをすべきかといった情報を提供してくれます。
(参考)
第1回 デジタルツイン革命とポストコロナ時代の日本企業のオペレーション
https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/cc/chitekishisan/lst/2020/09/09
■取り組む国・都市
デジタルツインに取り組むのは企業だけではありません。国家や都市でもデジタルツインのプロジェクトに取り組んでいます。ここでは、代表的な国や都市について紹介します。
シンガポール
シンガポールでは2014年から国全体で「スマート国家」を目指す取り組みを始めています。
国土全体の地形や建物、交通期間・水位・人間の位置などのすべてのリアルタイム情報を統合して、3Dモデルとして再現する「バーチャル・シンガポール」を構築しています。バーチャル・シンガポールを使って、各インフラを整備する計画の最適化を図ったり、工事中の人や車の流れの変化をシミュレーションして、渋滞緩和策や工事効率化のための検討が行われています。
(参考)
【スマートシティとは?】トヨタを含む国内外11事例と関連技術を分かりやすく解説
https://sorabatake.jp/18567/
アメリカ・ボストン
ボストンは、デジタル化が進む1980年代から、木造のモデルを使って街を再現し、都市計画を検討していました。新しいビルの建設により、市民が愛する街の最古の公園にどれほど影がかかるかをシミュレーションしたのです。
現在では、木材ではなくデジタル上で街が再現され、水や木などより詳細に表現された状態でのシミュレーションが行われています。実際に解析の結果、新しいビルの高さが24メートル以上下げられる変更が実施されました。
(参考)
Boston Shadow Bank
https://www.arcgis.com/home/webscene/viewer.html?webscene=0589b97cb4e7481d892381fd0d2c8a21
Meet Boston’s Digital Twin
https://www.esri.com/about/newsroom/blog/3d-gis-boston-digital-twin/
フィンランド・ヘルシンキ
ヘルシンキでは、スマートシティ開発を促進し、研究開発のため市民や企業に都市モデルをオープンデータとして公開することを目的として、同市の3Dモデルを作成するプロジェクトが開始しています。
本モデルを用いて、太陽光発電の使用状況の解析、洪水リスク評価の実施、騒音計算の実行などが実施されています。
(参考)
Helsinki 3D+
https://www.hel.fi/helsinki/en/administration/information/general/3d/view/view-the-models
ヘルシンキ市 Helsinki 3D+
https://www.bentley.com/ja/project-profiles/city-of-helsinki_helsinki-3d
東京都
東京都でも、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出す「スマート東京」の実現に向け、様々な事業を進めています。
2020年度、都ではデジタルツインの基礎となる3Dデジタルマップの可視化(街の混雑状況やオフィスの疎密状況)と、それらを活用した日照・風況のシミュレーションを実施した動画を公開しています。
(参考)
デジタルツイン実現プロジェクト
https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/society5.0/digitaltwin.html
静岡県
静岡県では県内の道路や地形などの3D点群データを、オープンデータとして公開しています。
(参考)
Shizuoka Point Cloud DB
https://pointcloud.pref.shizuoka.jp
宙畑メモ 3D点群データ
レーザーなどを使って現実空間の3次元形状を計測したデータ。レーザーが照射した点の集合になるため、点群(てんぐん)と呼ばれる
静岡県ではこれらのデータを使って仮想県土「VIRTUAL SHIZUOKA」を構築し、社会課題の解決や利便性の高い循環型地域作りを目指しているそうです。
(6)デジタルツインを加速する衛星データの未来
この章では、ここまでの紹介でもいくつかの事例で出てきていた衛星データについて、デジタルツインにおける位置づけとその未来について説明します。
IoTを補間する存在としての衛星データ
一般的なIoTを補間するデータとして注目されているのが衛星データです。
衛星データは、周囲の状況を面的に捉えることができたり、IoTセンサが設置できないような場所の様子を捉えることができたりするといった強みがあり、デジタルツインの文脈でも注目が集まっています。
IoTセンサと衛星データについて詳しくは、以下の記事をご覧下さい。
衛星データもIoTの一つ?航空機・ドローンとの比較と事例紹介
衛星データの頻度・種類が増える未来
注目されている衛星データですが、近年多くのベンチャー企業が参入し、投資が集まっている領域であり、取得されるデータは質・量ともに爆発的に増えると予想されています。
人工衛星が安価に製造されるようになったため、数多くの衛星を打ち上げられるようになり、結果として衛星がある地点を撮影する頻度は大きく向上しました。アメリカのPlanet社であれば、1日に複数回地球上のあらゆる地点を撮影することができています。
さらに、スマホのカメラのような光学画像だけでなく、電波を使った撮影や赤外線を使った撮影などを行う衛星も小型化してきており、今後多くの衛星が打ち上げられる予定のため、得られるデータの種類はさらに増え、より詳細に現実の地球をデジタル空間上に再現できるようになってくると考えられます。
(7)まとめ
今回の記事では、注目を集める「デジタルツイン」をテーマに、この技術が解決する課題やデジタルツインを実現するための技術要素、さらにはデジタルツインに取り組む国や企業をご紹介しました。
デジタルツインは、DXやAIなどと切っても切れない概念であり、コロナ禍で現実空間で全て解決することが叶わない今だからこそ、さらに加速していく技術概念と考えられます。
デジタルツインは幅広い概念であり、ほぼすべての産業に適用できます。ご自身が携わられ得ている産業の課題に対し、どのようなデータを取得し、どんな解析を行い、どのように現実空間にフィードバックしていけばよいのか、皆様も考えてみてはいかがでしょうか。