2021年の二酸化炭素排出量、2010年の最悪記録に次ぐ水準に

2020年は多くの経済活動が停止したことで、世界の二酸化炭素排出量は大幅に縮小した。今年は、二酸化炭素排出を抑えつつ経済復興を目指す「グリーン復興」に期待が寄せられているが、データはグリーン復興の難しさを示している。

国際エネルギー機関(IEA)がこのほど発表した「Global Energy Review2021」によると、2020年に大きく落ち込んだ世界の二酸化炭素排出量が2021年に大きくリバウンドし、2009年の金融危機後に記録した最高値に次ぐ量になることが判明したのだ。

この10年、世界の二酸化炭素排出量は2000年代に比べ低く抑えられてきたが、2021年の排出量はその平均を大きく上回るものとなり、これまでの排出量削減の効果を相殺してしまうかもしれないとの懸念が広がっている。

IEAのファティ・ビロル氏は英ガーディアン紙の取材で、世界各国は気候変動問題に取り組む姿勢を見せているが、二酸化炭素排出量は上昇しており、言動が一致しない残念な状況であると批判している。

2030年までに気温の上昇を1.5度に抑えるには、次の10年で二酸化炭素排出量を45%削減することが求められる。しかし直近のデータは、この目標の達成が難しくなる可能性を示すものと、ビロル氏は指摘する。

二酸化炭素排出量が急増する理由の1つが石炭発電の増加だ。経済損失を被った国々は、復興に向けた取り組みでコストを抑えたいという動機が働く。2009年の金融危機後でも、安価な石炭の利用が大きく伸びたことが二酸化炭素排出の大幅増につながった。

ネットゼロを目指す中国、実際は石炭利用増加

IEAのデータによると、特に中国と米国における石炭発電が増加し続ける見込みで、これが世界の二酸化炭素排出量を押し上げる大きな要因になっているという。

ガーディアン紙によると、中国は2060年までに二酸化炭素排出をネットゼロにすると国際的にアピールしているが、国内では石炭発電所の建設計画が多数持ち上がっているという。

また同紙は、中国が2030年までに二酸化炭素排出量を削減すると公言しているが、このほど中国で発表された5カ年計画では、排出量削減に関する取り組みの詳細は盛り込まれていなかったと指摘している。

上海の石炭火力発電所

風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる発電コストが化石燃料発電より低くなっている現在、中国はなぜ石炭発電に固執するのか。

米CNBCは、中国国家発展改革委員会のスー・ウェイ氏の発言として、中国の最大優勢事項が経済発展であり、経済発展を支えるには、安定的に電力供給できる石炭の利用が必須であると報じている

石炭発電が中国経済構造に深く組み込まれていることも影響しているようだ。

CNBCが伝えた中国生態環境部のリー・ガオ氏の発言によると、2020年中国の発電量全体に占める石炭発電の割合は56.8%。一方、世界銀行の2015年のデータでは70%、オックスフォード大学のデータサイト「Our World Data」の2020年のデータは60%となっている。これらの数字から、中国の発電全体に占める石炭発電の割合は概ね60%ほどと推測できる。

Our World Dataによると、石炭発電割合の世界平均は33%。中国の発電がいかに石炭に依存しているのかが分かる数字だ。

IEAによると、米国でも石炭利用が2013年以来の下落基調から増加傾向に転じつつあることが判明。ガス価格が上昇したことで、ガス発電から石炭発電へのシフトが起こっているという。

米国の科学者団体「憂慮する科学者同盟」のまとめによると、2020年8月時点で、中国と米国が世界の二酸化炭素排出量の3分の1を占める状況。中国が28%でトップ、米国が15%。これにインド7%、ロシア5%、日本3%、ドイツ2%、イラン2%、韓国2%、サウジアラビア2%、インドネシア2%と続く。

世界全体で二酸化炭素排出量を削減する上で、中国と米国が率先して行動すべきなのは明白だ。

Z世代、コロナより環境問題が心配

2019年、世界各国で学生たちによる環境ストライキが敢行されたことは記憶に新しい。

二酸化炭素排出量に関するデータが様々なメディアで報道されることで、二酸化炭素排出に本気で取り組まない国は、こうした学生たちの非難の的になるリスクを負うことになるかもしれない。

欧州の環境団体European Environmental Bureau(EEB)が欧州の若い世代を対象に実施した意識調査によると、多くの若い世代がコロナ感染より、環境問題の悪化を懸念していることが判明。この調査で、若い世代に今の心配事トップ3を聞いたところ、環境破壊が44%でトップとなったのだ。コロナ感染の拡大は36%で2位だった。

EEBの広報担当者はトムソン・ロイターの取材で、この調査結果は若い世代の環境ムーブメントが表面的なものではなく、メインストリームのムーブメントであることを示すものであり、政治家はこの声を無視することはできないだろうと指摘している。

2030年までの二酸化炭素排出を大幅に削減するという目標は本当に実現するのか。米国と中国の実際の取り組みとその効果への注視が必要だ。

文:細谷元(Livit