INDEX
パンデミック収束後の転職市場は活況か?
コロナ禍、人々の将来に対する不安は増大し、リスク意識の高まりから、転職を手控える人が増えそうな感じがある。
しかし実際のところ、リスク意識の高まりは転職増につながる可能性があり、パンデミック収束後には転職市場は活況するかもしれない。
プルーデンシャルが2021年4月に発表した米国人材市場意識調査で、その徴候が見て取れる。2020年秋に2000人を対象に実施されたこの調査では、パンデミック収束後に転職を検討している割合は26%であることが明らかになったのだ。4人に1人が転職を計画していると考えると、少なくない数字に見える。
これは全世代の平均値。世代別でその傾向が異なってくる。平均よりも大幅に高い数値を示したのがミレニアル世代だ。実に34%がパンデミック収束後に転職を検討していると回答。一方、団塊の世代では10%、X世代では24%にとどまった。
コロナで増大した不安と転職志向、スキルとキャリアの懸念高まる
転職を検討する理由の1つがキャリアに対する不安の増大だ。リモートワークやデジタル化普及など働き方や必須スキルの変化を目の当たりした人々の間で、既存の職場ではキャリア構築が難しくなるのではないかとの懸念が広がっているのだ。
転職を検討しているとの回答のうち、今後のキャリア構築に対し懸念を持っていると答えた割合は80%に上った。また、パンデミックをきっかけに、現在のスキルセットを再考したとの回答は76%、パンデミック後に新しいスキル習得を開始した割合は59%だった。
パンデミックで既存のスキルセットを懸念した多くの人々が、リモートワーク期間中にできた余剰時間を使い新たにスキルを習得、そのスキルを生かしキャリアを構築できる環境を探していることが示されているのだ。
問題はパンデミック期間中に、企業が社員のスキル習得支援を怠ったことだ。
プルーデンシャルのロブ・ファルゾン氏はCNBCの取材で、パンデミック期間、企業の多くはビジネスオペレーションのデジタルシフトやメンタルヘルス/チャイルドケアなどの拡充を行ったものの、社員のスキル習得への支援が十分ではなかったと指摘。
一方で、テクノロジー利用の拡大で、多くの社員は新しいスキルを習得しないことに多大なリスクを感じ始め、身銭を切ってオンラインクラスを受講し、そのスキルを生かせる機会を求めているのだという。
「リモートワーク vs オフィスワーク」、経営層と社員で食い違う働き方志向
キャリア/スキル支援の不足に加え、リモートワーク継続の是非も離職・転職を促進する要因になりそうだ。
上記プルーデンシャルの調査では、転職を検討している人のうちパンデミック収束後もリモートワークは継続されるべきと考えている割合が83%に上っただけでなく、42%が現在の職場でリモートワークの選択肢がなくなる場合、そのような選択肢を持つ企業への転職を希望すると答えている。
米企業Envoyが2021年2月に実施した調査でも、今後リモートワークやハイブリッドワークの選択肢がない場合、社員の離職リスクが高くなる可能性が示唆されている。
米国で1000人を対象に実施された同調査、リモートワークの選択肢がない場合、転職を検討するとの回答は全体平均で47%。オフィスワーカーだけで見ると61%という高い割合となった。
また、ミレニアル世代では48%、Z世代で52%とそれぞれ全体平均を上回っている。さらに5人に2人は、リモートワーク/ハイブリッドワークができるのなら、今より給与水準が下がっても良いと回答している。
FlexJobが2021年2〜3月に米国で2100人を対象に実施した調査でも同様の傾向が観察された。もし今の職場で今後リモートワークができなくなるのであれば、「是が非でも」転職するとの回答は58%に上った。一方、リモートワークはそれほど重要ではないとの回答は11%にとどまった。
多くの人々がリモートワーク/ハイブリッドワークを求めているが、経営層はオフィスワークに戻す意向が強く、企業と社員の間に溝ができつつある。
CNBC(2021年4月27日)が伝えた人材会社LaSalle Networkの調査によると、今年秋までにオフィスワークの再開を目指す企業経営層の割合は70%に上ったのだ。同調査によると、多くの企業にとって、リモートワークを継続したい社員にどう対応するのかが最大の懸念事項になっているという。
コロンビア・ビジネス・スクールのダン・ワン准教授は、完全にオフィスワークに戻るのか、リモートワークを維持するのか、どのアプローチが正しいのかを示すエビデンスが少なく、企業もガイドラインを作成するのに四苦八苦していると指摘。今後6カ月は、リモートワーク/オフィスワーク議論で、混乱状態になってもおかしくはないと語っている。
2021年4月末、米国1〜3月のGDP(速報値)が発表されたが、6.4%増と経済復活の兆しを示すものだ。経済活動の復活で、リモートワーク/ハイブリッドワークは維持されるのか、オフィスワークへの復帰で転職市場はどうなるのか。ワン准教授が指摘するように混乱が予想される米国労働市場、その動向から目が離せない。
文:細谷元(Livit)