恋人がいない人は約7割。男性20代は交際経験がない人が約4割――。20〜40代の男女2400人を対象に行われた「恋愛・結婚調査2019(リクルートブライダル総研調べ)」では、こんな結果が出た。昨年以降は「コロナ禍」で出会いの機会が減り、婚姻数の減少や一段の少子化も危惧されている。
そんななか、サイバーエージェントグループ傘下のマッチングアプリ「タップル」は、恋愛のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるべく次々と新しい機能を導入。オンラインでも自然な恋愛ができる仕組みづくりに取り組み、急成長を遂げている。
昨年3月、株式会社タップルの社長に就任した飯塚勇太氏に、コロナ禍の恋愛状況と同社の戦略を伺った。
コロナ禍で急成長、オンラインデートが盛況
コロナ禍が始まって約1年。2014年からサービスを開始しているタップルは、この1年間の成長がいちばん大きかったという。現在の登録ユーザー数は600万人超、マッチ数は延べ3億組と、国内最大級を誇る。
「コロナ禍でもこんなにたくさん新しいユーザーさんが登録してくれたのが大きな驚きでした。緊急事態宣言が出て、新しい方と出会うのが難しい環境下で、自分が寄り添える相手を見つけたいという人間の根源欲求みたいなものがすごく強くなるんだなあ、と思いましたし、ある種の社会的な使命も強く感じましたね」と、飯塚氏は語る。
この1年で特に好評だったのが、昨年4月から投入した「オンラインデート」機能。ビデオチャットにより、メッセージのやり取りだけでは伝わらない人柄や雰囲気に触れることを可能にしたものだ。
リアルで会わずにオンラインデートだけで交際を開始したカップルは、サービス開始以来1〜2カ月以内に40組に達したという。「新しい恋愛様式ができたと思います。われわれはこれを『恋愛のDX』と呼んでいます」(飯塚氏、以下同様)。
デートは「アポ」じゃない
同社が実現したい恋愛の形は、「場所にこだわらない恋愛」と「自然な恋愛」。
前者については、従来のマッチングアプリでは、地方の人が誰かとマッチしても遠くてなかなか会えないという問題があったが、オンラインデートにより場所の制約は取り払われ、出会いの可能性は大幅に広がっている。
もう一方の「自然な恋愛」は、マッチングアプリの大きな課題だ。これまでの一般的なアプリの使い方としては、ユーザーが相手の条件を検索して、合致した相手のリストから興味のある人を見て決めていく……というプロセスを採ってきたが、飯塚氏はそれでは「肩ひじの張るデートしかできない」と考える。
「マッチングアプリのユーザーさんは、1回目のデートのことを『アポ』って表現するんですね(苦笑)。仕事のアポと同じような体感を持っているということなんですけど、われわれとしては1回目から自然で楽しい、自分らしいデートを提供したいと思っています」
そこで、今月12日から追加されたのが、「ウィッシュカード機能」。ユーザーが気になる映画や行きたい場所、やりたい事などをプロフィールに追加することで、それをきっかけにした自然な形のマッチングを可能にするものだ。
ウィッシュカードにはタップルが独自にセレクトした飲食、レジャーなどのデートプランに加え、映画、音楽、演劇、スポーツ、イベントなどでは、「チケットぴあ」や「ぴあ」アプリのデータを活用したプランを提供している。
「より具体的な場所やイベントをきっかけにマッチングしてもらえば、ユーザー同士で自然に会話が盛り上がってどこかに出かけやすくなるのではないかな、と思っています」
「軽いアプリ」からのイメージチェンジ
「ウィッシュカード機能」の開始とともに発表されたのが、新しいロゴとブランドビジュアル。
「軽いマッチングアプリ」のイメージから脱し、安心・安全で、自然な恋愛のイメージを打ち出すことを目的としている。飯塚氏は、「タップルで出会った、というのが言いにくい空気を変えていきたい」と抱負を述べている。
ブランドイメージの改善は、飯塚社長が就任した直後から取り組んできた課題。
「使ったことがない方のタップルに対するイメージと、われわれが実際に提供できている価値の不一致が大きいのではないかと思っていました。『マッチングアプリは怪しい』とか『マッチングアプリで出会うことは良くない』みたいな話がすごく多いんじゃないかと思っていたので、マーケティングのやり方を大きく変えて、正しく知ってもらうことに努めています」。
なかでも注力したのは「安心・安全」面。アプリでのメッセージのやり取りなど、ユーザー間で連絡を取る場合は、運転免許証や保険証、旅券などの公的身分証による年齢確認を実施しているほか、パナソニックの顔認証技術で本人認証を強化。「なりすまし」や「複数アカウントの作成」を防ぐ対策を講じている。
また、24時間、365日体制で監視しており、不審なユーザーの報告を受けた場合は速やかに調査を実施し、利用規約違反が確認されれば、警告や強制退会などの対応を細かく行っている。これまでタップルで事件が起こったことはないが、他社の事件が起こるたびに安全面を強化・改善してきたという。
少子化対策には「恋愛総量」の増加を
安心・安全面の強化やイメージ改善、自然な恋愛の追求とともに飯塚氏が行っているのは、政府への積極的な働きかけだ。少子化対策については社長就任の際にいろいろ調べたり考えたりした結果、「恋愛総量を増やさなければならない」という結論に達したという。
「平均出生数はファクトとしてそんなに変わっていなくて、どちらかというと婚姻数が減っているというのがクリティカルな問題かなと、自分なりに結論を出したんですね」
国の少子化対策では「保育」が重視されており、保育に約3兆円が費やされているのに対して「結婚支援」に充てられる財源は10億円程度にとどまっている。
「恋愛の総数を増やし、婚姻数を増やしていかないと、保育を充実させてもなかなか少子化は解決しないんじゃないかな、と思っていて。政府の『少子化社会対策大綱』(2020年)の中で、『科学技術を積極的に活用する』ということが書かれているので、その中にマッチングアプリを含んでほしいとお話しています」
飯塚氏によれば、マッチングアプリは時代に即した新しい出会いのツールとして、政府でも理解を得られているが、マッチングアプリに対する社会的信用が低い点が課題。その解決のためにも安心・安全対策の強化が必須という。
経営はシンプルに。社会的責任を重視
数々の新戦略を打ち出す飯塚社長のモットーは、「シンプル」。タップルが何を目指すのかをシンプルに意思統一して、それを支える組織体制も、さまざまな階層を取り払ってシンプルにした。また、全社員と面談をして、それぞれの強みや希望に沿った役割分担ができるように注力している。
さらに、飯塚氏が経営者として強く意識しているのは、素早く決めること。「意思決定が遅いと、現場の社員が無駄な仕事をすることになってしまいます。なので、意思決定はどんどん速くして、みんながユーザーさんのためにいいプロダクトをつくるのに最大限の時間を費やせるようにしています」
タップルの収益モデルは、いわゆる「サブスク」。1カ月、3カ月、12カ月などの区切りでサービスに課金するシステムだ。サブスクリプションの期間が長いほど、収益は上がることになるが、タップルでは1カ月の短期プランをメインのユーザーターゲットに据えている。
飯塚氏はこう断言する。「できる限り早くいい人を見つけてもらうのがあるべき姿だろう、と思います。収益を上げることは大前提として必要ですが、社会に貢献することが大切だと強く思っています。事業者としての天秤と、社会としての天秤でいうと、社会の方を重視しています」。
自然な恋愛と安心・安全を追求して、恋愛総量を増やす――シンプルで力強い意志を共有し、タップルはこれからも「恋愛DX」を前進させていく方針だ。
[構成] 山本直子
[取材・編集] 岡徳之(Livit)