アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ市では5月21日から、130人のアーティスト(芸術家)を対象にベーシックインカム(最低所得保障)のパイロットプログラムにおいて、ついに月1000ドル(約10万5000円)の支給を開始したと見られる。美術手帖などが報じている。
近年、世界各国でベーシックインカムに熱いまなざしが向けられている。人工知能(AI)の進歩はもちろん、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大にともなう不景気や失業率の悪化、少子高齢化や格差拡大などの社会的背景による影響も大きい。
今回、支払いを開始したベーシックインカムは、サンフランシスコ市のロンドン・ブリード市長が2020年に発表したもの。過去のArtforum Internationalの報道によると、2021年4月15日まで応募を受け付け、2021年4月20日までに受賞者に通知していたと見られる。
今回のベーシックインカムはアーティストを対象としており、支給されたお金は食費や家賃、画材など、個人が望むものに使用できるという。
同プログラムが発表された際にはartnet NewsやArtforum Internationalの報道によると、同プログラムはアーティストといった特定のグループを対象にしており、全国民に無条件で一律の現金を給付する「ユニバーサル・ベーシックインカム」とは異なるとして、批評家たちに批判されているとされた。
一方で、近年、サンフランシスコ市内の家賃は上昇し続けている。日本で2020年10月9日に封切られたアメリカ映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』も、サンフランシスコにおける「ジェントリフィケーション(地域の高級化、都市の富裕化)」を題材にした作品だ。
サンフランシスコはこのような家賃上昇の影響で、芸術コミュニティを7割失ったとされる。今回発表されたベーシックインカムのパイロットプログラムは、同市におけるアーティストの維持に役立つのではないか、といった肯定的な声もあるとしていた。
「働かない人が増える」「タバコや酒に使われる」は誤り
現在アメリカではベーシックインカムの実現を目指し、2020年11月3日のアメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補者の指名争いで注目を集めた実業家のアンドリュー・ヤン(アンドリュー・ヤング)氏が、2021年のニューヨーク市長選に出馬するなど、ベーシックインカム実現に向けた動きは活性化している。
同じカリフォルニア州ではストックトン市が2021年3月に、2019年2月〜2020年2月の期間で実施した毎月500ドル(約5万4000円)のベーシックインカム実験の結果を発表した。
同実験では、2019年2月と2020年2月を比較し、支給を受けていないグループはフルタイム雇用が5%しか変化しなかったが、支給を受けたグループは12%も増加したことがわかった。受給者たちによる毎月の支出は「食品」が最多で、タバコや酒類に使われる割合は1%未満だったことも明らかになった。
また、同じくカリフォルニア州ではオークランド市も2021年3月24日、人種による貧富の差を減らすため、有色人種の低所得世帯を対象に毎月500ドル(約5万4000円)を支給するベーシックインカムの実験を開始すると発表した。2021年夏までに開始し、支給は1年半継続する予定という。
同じカリフォルニア州でも、ベーシックインカムが有効と言える実験結果を導いたストックトンだけではなく、オークランドは人種、サンフランシスコはアーティストにそれぞれ着目したのは興味深い。今回のサンフランシスコでのベーシックインカムがもたらす結果にも期待が高まる。