無視できない投資家のサステナブル関心の高まり、資金調達を左右する企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)の取り組み

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The words "Environment, Social, Governance" written in a word book. Close-up.

サステナブル投資はメインストリームへ

これまで企業における持続可能な取り組みは、本業とは一線を画すものとして捉えられていた感がある。しかし、世界の投資家の意識変化や投資資金の流れを鑑みると、本業と不可分のものとして統合していくことが求められそうだ。

いわゆる「環境・社会・ガバナンス(ESG)投資」への関心が世界各地で高まりを見せており、持続可能な取り組みが資金調達に及ぼす影響が増大しているからだ。

米金融サービス企業MSCIが機関投資家を対象に実施した意識調査で、ESG投資が急速に拡大していることが浮き彫りになっている。

調査対象となったのは世界各地の投資機関200社。内訳は米州34%、欧州・中東・アフリカ33%、アジア太平洋33%。200社合計の投資額は18兆ドル(約2000兆円)に上る。

同調査レポートのエグゼクティブ・サマリーのトップで指摘されているのが「ESG投資がニューノーマルになりつつある」という点だ。

200社のうち73%が2021年末までにESG投資を拡大する計画があると回答。また72%がESG関連のレーティングで高いスコアを持つ企業は、パンデミックの影響を最小にする良い事業継続プランを持つ傾向が強いとも答えている。

投資機関の規模別で見ると、運用資金が大きな機関ほどESG投資への関心が高いことが判明。ESG投資額を増やす計画があると答えた機関の割合は、運用資金250億ドル以下では57%だったのに対し、2000億ドル以上では90%という割合となったのだ。

さらには、投資のリスク管理や投資機会の発掘において、環境データを利用・分析する投資機関が多いことも明らかになった。リスクマネジメントにおいて、環境データを「ときどき」または「常に」利用しているとの回答は79%、また投資機会の発掘のために利用しているとの回答は64%とともに高い割合だった。

ESG投資への関心度合いを地域別に見ると、アジア太平洋地域の投資機関が世界平均を若干上回ることが判明。ESG投資を増やす計画を持つ割合は、グローバルで77%だったのに対し、アジア太平洋地域では79%だった。一方、欧州・中東・アフリカ地域では68%と若干低い値だった。

シンガポール取引所、サステナブル株式指数を導入へ

アジア太平洋地域におけるESG投資への関心の高まりを背景に、域内の金融ハブであるシンガポールでは、ESG投資を一層活発なものにするため、企業の持続可能性を加味した株式指数を導入する計画が持ち上がっている。

シンガポール取引所(SGX)のロー・ブンチャイCEOは、CNBCの取材で、これまで欧米企業がけん引してきたESG関連の取り組みがアジア企業の間でも活発化しており、近い将来キャッチアップする可能性があると指摘。

またコロナ禍、強力なESG取り組みを行っている企業の株式パフォーマンスが良好だった事実を受け、投資家の間でもESGへの関心が高まっているとの認識を示した。

ブンチャイCEOは、こうした状況を踏まえSGXでは、ESGの原則に依拠する株式指数の導入を計画しており、現在ローンチに向け動いていることを明らかにしている。

ESGで高い評価を受ける富士フイルム、株価も右肩上がり

SGXが導入を目指すESG株式指数とはどのようなものなのか、CNBCの取材でその詳細は明らかにされていないが、SGXグループの現在の取り組みから予想することは可能だろう。

SGXの指数分析・提供おいて、中核を成すのが同社が2020年1月に買収した指数プロバイダ企業Scientific Betaだ。Scientific BetaはESGを含めさまざまなデータを分析し、国・テーマごとに多様な株式指数を提供している。

Scientific Betaのウェブサイトで一部情報を無料で閲覧することが可能だ。

たとえばESG関連では「Low carbon(低炭素)」というテーマで、多数の指数が構成されているのが見て取れる。低炭素トピックかつ日本という地域で絞ってみると、4つの指数が公開されている。

その1つ「SciBeta Japan Dynamic Defensive Narrow iHFI Low-Volatility Diversified Multi-Strategy Max-Vol Protected」ではどのような企業が指数に組み込まれているのか見ていきたい。

日本の上場企業60社で構成される同指数、構成比率最大は4%の富士フイルム、このほかセブン&アイ・ホールディングス(3.24%)、富士通(3.15%)、日産(3.07%)、味の素(3.06%)、積水ハウス(2.98%)、NEC(2.91%)、KDDI(2.87%)、NTT(2.62%)、アステラス製薬(2.59%)などが含まれている。

他の3つの日本株ESG指数でも富士フイルムが構成比率最大となっており、ESG分野で高く評価されていることが見て取れる。冒頭のMSCIの調査レポートでは、投資家の間でESG取り組みが強固な企業の株式パフォーマンスは良い傾向があるとの認識が共有されていたが、それを反映するように、富士フイルム株も現在右肩上がりで上昇中なのは興味深い。

サステナブル・ESG投資への関心の高まりで、アジア太平洋地域の資金の流れはどう変わっていくのか、今後の動向が気になるところだ。

文:細谷元(Livit

参考
https://www.cnbc.com/2021/04/12/asian-companies-are-catching-up-with-esg-sustainable-practices-says-sgx.html
https://www.cnbc.com/2021/02/11/sustainable-investment-funds-more-than-doubled-in-2020-.html
https://www.cnbc.com/2021/03/04/sustainable-esg-investments-surged-in-asia-pacific-in-2020-msci.html

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