ワクチン普及で観光産業に吹く追い風、米バケーションレンタル需要は3月から2倍以上の増加

Waikiki Beach and Diamond Head Crater including the hotels and buildings in Waikiki, Honolulu, Oahu island, Hawaii. Waikiki Beach in the center of Honolulu has the largest number of visitors in Hawaii

米国では夏休みに向けバケーションレンタル需要が急増

一時、1日あたりの新型コロナ感染者数で世界最多を記録した米国。悲観的なムードが漂っていたが、このところ経済復興の兆候がいくつかの産業で現れ始めている。

その1つが観光産業だ。2021年3〜4月、バケーションレンタル需要が急騰し、売上高が2019年の水準を越える見込みのある企業も登場している。

米CNBC(2021年4月20日)によると、バケーションプラットフォームVacasaでは、3月頃から予約が殺到、2021年の売上高予想が12億5000万ドル(約1368億円)と2019年比で2倍以上、過去最高を記録する見込みだ。

米国観光産業のV字回復を見込んでか、Vacasaの上場計画も噂されている。CNBCは複数の情報筋の話として、Vacasaが米国で上場を計画していると報道。Vacasaのマット・ロバーツCEOは同メディアの取材で、上場に関しては「no comment」 と発言。否定はしておらず、近いうちに上場計画が公表されるものと思われる。

Vacasaは、AirbnbやExpediaのような不動産レンタルプラットフォーム。不動産オーナーは、バケーション用宿泊施設として情報を掲載。宿泊者は、場所や値段から好みのバケーション物件を検索できる仕組みとなっている。AirbnbやExpediaとの違いは、Vacasaが不動産管理や宿泊管理まで行うところにある。

多くのレンタル物件は、オーナーが住む場所から離れている場合が多く、オーナー自ら管理するのは難しい。Vacasaはそのような物件を管理しつつ、自社プラットフォームやAirbnbなどを通じて宿泊客を獲得、オーナーからコミッション(35%)を得ている。

米国ではVacasaだけでなく、他のプラットフォームでも予約需要が急騰している模様。Fox5(2021年3月28日)によると、3月にAirbnbやExpedia傘下のVrboなどでも、バケーションレンタル予約が急増。ラスベガスを中心に複数のバケーション不動産を運営するトラビス・シュール氏はFox5の取材で、2月にレンタル予約が少しずつ増え始め、3月に爆発的に急増、伸び率は200%に達したと語っている。シュール氏は、ワクチンの普及と給付金が予約急増の背景にあるのではないかと指摘している。

ワクチン普及で感染者数の下落加速のシナリオも

米国の1日あたりの新型コロナ感染者数はこのところ下落傾向にあり、今年の夏は前年に比べ落ち着いたものになると見られている。観光産業にとっては追い風が吹く状況だ。

米国の新型コロナ感染者数は、2021年4月16日時点で7万8000人だったが、それ以降は下落基調に転じた。5月3日時点では、4万9900人と5万人を下回るところまで下がっている。

ワクチン接種が順調に進んでいることが影響していると見るのが妥当だろう。

米疾病予防管理センター(CDC)のワクチントラッカーサイト(5月4日)のデータよると、ワクチンを少なくとも1回接種した人の数は、1億4750万人と全人口の44%に達し、接種を2回完了した人は1億500万人で、約32%という状況。

米食品医薬品局の元委員スコット・ゴットリーブ氏はCBSニュースの取材で、新規感染者の下落はこの先も継続し、数週間以内に下落速度が一層速くなる可能性があると指摘、ワクチンキャンペーンが寄与しているとの見解を示した

これに伴いニューヨーク市が7月までに経済活動の全面再開を発表するなど、楽観的なムードが広がっており、観光産業にも好影響を及ぼすものと思われる。

Fortune誌(2021年4月6日)が伝えたホテル予約サイトBooking.comの調査によると、米国では71%がワクチンキャンペーンが実施されたことで、2021年の旅行・観光に希望が持てるようになったと答えている。

また同調査では、パンデミックをきっかけに、ウェルビーイングを保つ上での旅行の重要性を再確認したとの回答が60%に上ったことが判明。ワクチンの普及と安心感の醸成も相まって、今年の米国内のサマーバケーションは、予想以上の活況となる可能性がある。

国内観光の完全復活は2022年、国際観光は2024年頃が目処?マッキンゼー予測

米国では国内観光産業の復興の兆しが見えはじめているが、観光産業のもう1つの柱である国際観光の復興は少し先になるかもしれない。

マッキンゼーは2020年10月に発表したレポートで、観光産業の復興シナリオを予想。世界的に国内観光が2019年の水準に戻るのは2022年前後、国際観光の復興はその2年後、2024年頃になると分析している。

観光産業の復興スピードは国ごとに異なることが予想される。特に、国内観光産業が強く、航空以外の交通が発達した国は、観光産業の復興スピードが速くなる見込みだ。

同レポートはこの時点における、観光産業復興スピードランキングを作成。1位には、鉄道網が発達したドイツがランクイン。トップ10には、インド、中国、フランス、イタリア、スペイン、メキシコ、米国、英国、日本がランクイン。インドは直近の変異株騒動で復興の遅れは否めないが、中国、米国などでは国内観光復興の兆しを示すニュースが増えてきている。ワクチンの普及がさらに進めば、2021年中に国内観光が完全復活する国も出てくるのかもしれない。

2021年、世界のバケーション/観光産業はどのような様相となるのか。安全性を確保しつつ、復興が加速するシナリオを期待したい。

文:細谷元(Livit

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