なぜ少ない、理系女子?「無意識のバイアス」打開に向けて

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日本の大学の工学部では10人に1~2人しか女性がいない――文科省の調査では、まだまだ理系の女性たちが「紅一点」であることが明らかになっている。

STEM(科学、技術、工学、数学)教育の重要性が叫ばれるなか、近年は日本の高校や大学でも「リケジョ」(理系の女子)が増えてきているが、それでも科学技術分野を選択する女性はまだまだマイノリティだ。

同分野をキャリア選択する女性が少ないのはなぜなのだろうか?その背景と、打開策に迫る。

理系のキャリアを選択する女性はまだまだマイノリティだ(写真:LightFieldStudios)

「男性求む!」テック業界で偏る男女比

「男性が望ましい」――IT業界の人材エージェンシー「AC Global Solutions」の創始者兼社長のアニー・チャンさんは、たびたび日本企業からこのような人材リクエストを受け、日本のテック業界にはびこる男女差別に愕然とした。

「テック業界の仕事は力仕事ではないのに、なぜ男性が好まれるのか?何かが間違っている」と強く感じ、2013年にボランティア組織「Women in Technology Japan (WITJ)」を立ち上げた。

IT業界の女性のプラットフォーム「Women In Technology Japan」を立ち上げたアニー・チャンさん

チャンさんは台湾の大学を卒業後、中学・高校の教師を経て単身で日本に移住。転職を重ねながら80年代後半にはIBM製品の販売会社「Infotech」でパソコンやネットワークシステムを販売するセールスマネジャーとなった。

当時黎明期にあったパソコンやネットワークシステムについて多くを学んだのはこの時期からだ。同社では初め、外国企業への製品販売を担当していたが、そのうち日本企業を担当することに。

チャンさんは当時を振り返る。「80年代後半の日本企業はとても保守的でした。台湾人女性が日本の大企業のとびらをノックするのは、どんなにハードなことだったか」

その後自ら起業し、IT人材のリクルートに携わるなかで、冒頭のようなあからさまな女性差別に直面した。

現在は日本のテック業界にも女性が増えてきているが、それでもWITJによると、2018年時点で女性の比率はわずか24.5%。まだまだ「IT職は男性の仕事」というイメージが強い上、女性自身がこうした分野を敬遠するという問題もある。

WITJは、IT業界で働く数少ない女性たちにプラットフォームを提供し、互いに交流し、学び合う機会を与えている。また、大学の女学生に向けたトレーニングやセミナーを実施し、同業界の次世代リーダーを育成している。

まだまだ少ない「リケジョ」

女性比率が少ないのはテック業界に限らず、科学技術セクター全般に言えることだ。これは日本に限らず、他の先進国でもSTEM分野における女性の割合は大学でも職場でも少ない。

例えば、アメリカでは2019年時点で労働人口の約半数を女性が占めているが、エンジニア、医学者、情報セキュリティ分析、社会科学者などを含む「STEM職」に占める女性の割合は27%に過ぎない(米国勢調査局調べ)。1970年当時の8%から比べると増加しているものの、それでもまだ低水準だ。

なかでも、STEM職の労働者の8割を占める「コンピュータサイエンス」や「エンジニアリング」に占める女性の割合は、それぞれ25%、15%と低い。これは大学でこれらの分野を専攻する女子学生が少ないこととリンクしている。

日本の女学生のSTEM進学率も低い。文科省の「令和元年度学校基本調査」によると、2019年に大学(学部)に占める女子学生の割合は全体で過去最高の45.4%となったが、このうち理学部は27.9%、工学部は15.4%と、OECD諸国でも最低レベル。

「リケジョ」(理系の女子)がマイノリティであることはなんとなく知っていたが、こうして数値にしてみると、その少なさにはあらためて驚かされる。

子どもの頃から生まれる無意識のバイアス

なぜ理系の学部に進学する女子が少ないのだろうか?

チャンさんは特に日本の状況について「女性に自信がない」点を挙げている。「彼女たちは自分が思っている以上にできるのに、小さい時から『女子は〇〇すべき』という制約の中で生きています。マインドセットを変えなければなりません」(チャンさん)。

オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLでスペシャリストとして働く女性のAさんも、理系の女子が少ない理由として「女子自身が『理系は面白くなさそう……』とブレーキをかけている」と指摘。

一方で、小さい時から男子は車のオモチャなどで遊びながら「機械」に触れていることがテクノロジーへの興味を増進するのではないか、との見方を示している。

キオクシア株式会社・技術改革推進部の加藤芽里さんも「無意識のバイアス」を理由に挙げている。「科学技術は男子が得意」という社会のバイアスが、幼少の頃から女子が科学や技術に触れる機会を限定的にしている可能性があると指摘する。また、お手本となるような女性の「ロールモデル」が少ないことも理由に挙げている。

加藤さんは、女子の興味の対象が将来就きたい職業にも端的に表れていることを指摘する。ベネッセコーポレーション「進研ゼミ小学講座」の調べによると、「小学生がなりたい職業ランキング」で女子のベスト5は「芸能人」「漫画家・アニメーター・イラストレーター」「パティシエ」「ユーチューバー」「保育士・幼稚園の先生」だった。

一方、男子のベスト5は「ゲームクリエイター・プログラマー」「ユーチューバー」「サッカー選手」「野球選手」「研究者・科学者」となっており、「STEM系」が1位と5位に入っている。

女子にも「知るチャンス」を

実際に、STEM業界で活躍する女性たちの経験を聞いてみると、小さい頃から家庭内で男女の隔てなく育てられたり、両親や兄弟から少なからぬ影響を受けている印象だ。

前述のAさんは、小さな頃からピンクの服を拒み、車のナンバープレートにある数字で遊ぶ子どもだったという。また、チャンさんも兄弟に混ざって木登りをした経験が「自分は何でもできる」という自信につながった。

奈良女子大学の博士課程在籍中、化学の実験に取り組む加藤芽里さん。

加藤さんは、マンガ『鉄腕アトム』の「お茶の水博士」に憧れたのが科学技術への興味の第一歩だったという。また、家庭では父親の影響を強く受けたことが現在のキャリアにつながった。「父が技術者で、作ったダムやトンネルを見に行くことが多く、それが社会に繋がるモノづくりをしたいという自分の原点になったように思います」(加藤さん)。

加藤さんは奈良女子大学の理学部化学科を卒業後、修士・博士課程に進学し、2006年に東芝に入社。スマホやUSBメモリなどで使われる記憶媒体フラッシュメモリの技術開発を経て、現在はキオクシアで技術の発信業務に携わるほか、「日本女性技術者フォーラム(JWEF)」の会員として、理系のキャリアに女子を惹きつけるための活動を行っている。

2018年からは毎年夏に行われている「女子中高生夏の学校」という女子中高生の理工系進路選択支援事業にロールモデルとして参加し、自らの経験やキャリアを共有し、多くの女子学生たちにインスピレーションを与えている。

また、キオクシアでは加藤さんを含むチームがマンガ『フラッシュメモリのひみつ』(学研プラス)を出版。子どもたちに楽しく分かりやすい形で、フラッシュメモリの記録の仕組みや半導体の製造過程などを解説した。加藤さんは、「女子にも技術について知るチャンスを与えたい」と述べている。

キオクシアが発行したマンガ『フラッシュメモリのひみつ』(制作:学研プラス)。子どもたちに分かりやすくフラッシュメモリの技術を解説しているhttps://bpub.jp/bookbeyond/item/000405917196

多様な問題解決のために女性は必要

「多様な社会にするためには、女性がもっと商品開発に関わらなければなりません」と言うのは、ASMLシニア・アカウント・マネジャーのヘレン・カルダンさん。彼女は現在さまざまな商品が「男性により設計され、男性によりテストされ、男性により使われている」ことを指摘し、「男性だけが問題を解決すると、“One fits all(1つですべてに対応する)”のスペックになってしまいます」と説明する。

例えば、自動車の開発で安全性をテストする際は、平均的な体格の男性がドライバーに想定されており、女性の安全性はあまり考慮されていない。また、医療用の衣服も基本的に男性に合った形にデザインされている。女性の開発者が増えることは、女性の生活を豊かにすることにつながるのだ。

IT業界でも女性の活躍が望まれる。チャンさんによれば、日本のIT人材は向こう10年程度で50万人が不足する見通し。この一部は外国人で賄われるとみられるが、女性が活躍しなければ到底補いきれないという。また企業がイノベーティブになり、競争力をつけるためにも、女性のパワー活用が欠かせない。

チャンさんはSTEM分野で学ぶ女性を増やすため、「日本政府が奨学金などのインセンティブを与えるべき」との見方を示している。そしてなによりも、家庭において「子どもが生まれた1日目から男女を平等に育てること。ステレオタイプのジェンダー意識を刷り込まず、たくさん褒めてやりたいことをやらせれば、女の子も自信を持てるようになるのです」と力説している。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit

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