中国市場から見出す「CSV」の可能性。アフターコロナ時代に向けて企業が取り組むべきサステナブル経営とは

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世界中でいまだ先行きが見えない新型コロナウイルスの蔓延。経済・社会に多大な影響が及ぶ中、いち早く成長へと復帰したのが中国だ。そして2021年は中国共産党結成 100 周年にあたり、国際社会からのさらなる注目を集めている。

習近平国家主席は、今年1月のダボスアジェンダで国際協調を前提とした世界の持続可能な発展を強調するなど、国内にとどまらない改革が進む見込みだ。実際に現在、政府・企業・メディアなどが一丸となった、サステナブルな社会の構築が進んでいる。

こうした動きは、中国市場に進出する日本企業の変革を加速させるだろう。環境配慮はもちろん、ダイバーシティ、ウェルビーイングといった包括的な視野が求められる中で、対中国パートナーシップはどのようにシフトしていくのだろうか。

2021年4月17日に「<CSVフォーラム特別編>人と社会のWell-being 実現を目指して ~中国市場が牽引する資生堂・パナソニックのサステナブル経営~」というテーマでオンラインフォーラムが開催された。

登壇者は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の名和高司氏、株式会社資生堂 代表取締役 社長 兼 CEOの魚谷雅彦氏、パナソニック株式会社副社長の本間哲朗氏、中国のCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)を推進する電通公共関係顧問(北京)有限公司代表の鄭燕氏。中国におけるサステナブル経営の現場を知る4名が、それぞれの視点から未来を語り合った。

CSVがムーブメントを起こす、中国のサステナブル意識

電通公共関係顧問(北京)有限公司代表の鄭氏は、中国におけるCSV「CCSV(Co-creating Shared Value)」の発起人。「中国ではサステナビリティが主要なトピックスになりつつあり、循環型システムや環境保護は商品に内包されるべきものとして、消費者の間で認知されてきています」と、中国の先進性を伝える。

電通公共関係顧問(北京)有限公司代表 鄭燕氏

鄭氏によると、サステナブルな消費行動を実践する中国人は一部の人にとどまらず、特に若者世代ではメインストリームとなっているという。社会貢献度の高い商品・企業活動を支援するソーシャルグッド意識は、中国が日本を上回っているというデータが示された。SNSを通じて情報発信をする人が多いことも特徴で、CSVのムーブメントは日本よりも早く広がる可能性があると鄭氏は示唆する。

「中国の消費者がどのようにサステナビリティに関する情報にアクセスするかというと、報道、企業の情報発信、そして国が主導する宣伝です。高品質で健康的なライフスタイルを伴った情報、責任のある明確なメッセージが人々に受容される傾向にあります」

中国の若者を集めたフォーラム、交流会の企画にも取り組む鄭氏は、企業家を始めとした新たな世代において「ソーシャルグッドに取り組むためのストーリーの共有などが活気づいている」と、現地の最新情報を伝えた。

中国ではソーシャルグッド意識が日本に比べて、高まりつつある。(当日講演資料 電通公共関係顧問(北京)有限公司提供)

ダイバーシティ経営に必要なのは“PEOPLE FIRST”

「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」をミッションに掲げ、世界約120の国と地域で商品展開する株式会社資生堂は、2022年に創業150周年を迎える。社名は中国の古典『易経』の「至哉坤元 万物資生」に由来。「大地や生命の恩恵を示すこの言葉は、自然共生やCSVと一致する」と、創業時から現代につながる考えを示した代表取締役 社長 兼 CEOの魚谷氏は、ダイバーシティ経営の重要性を強調する。

株式会社資生堂 代表取締役 社長 兼 CEO 魚谷雅彦氏

「海外拠点で外国人を含む多くの社員が働く上で、強く意識していることは『多様な人の力を一つの方向に向けること』。そのために重要になるのは、中央集権的ではない組織です。当社では、日本の本社が海外の支社を監視するのではなく、各地域に“本社”をつくっており、それぞれにCEOがいます。地域のトップ人材を現地で集め、活躍してもらう。その潜在能力を引き出す役割を担うのが東京本社です」

国籍や文化が違ったとしても、信頼されるときに力を発揮し、強いパートナーシップが生まれるのが人間だというのが、魚谷氏の考えだ。現在、資生堂の経営理念は「PEOPLE FIRST」。日本コカ・コーラ取締役会長など、経営者としての長年の経験の先に、魚谷氏がたどり着いた答えだ。

「PEOPLE FIRSTが指すのは極めてシンプルな考えで、社員を中心に位置付けること。社員がいきいきと働き、能力を発揮できれば、おのずと社会に価値を提供し、株主に利益を還元できます。この優先順位が前後しないように、バランスを管理するのがコーポレートガバナンスです」

当日講演資料 株式会社資生堂提供

「PEOPLE FIRST」の理念のもと、取り組んだ改革は、英語公用語化、ジョブ型採用、留学制度の復活など多岐にわたる。その目的は、ダイバーシティ経営の力を十分にビジネスで発揮することだ。2021年には、ジェンダー・国籍・従来の組織の枠にとらわれることなく適材適所の実現を目的に、全社の業務執行に責任を持つ「エグゼクティブオフィサー」体制を導入。

国籍の異なる人材が、デジタルやサプライチェーンなど、それぞれの専門的視点から経営にコミットする組織体をスタートさせた。ダイバーシティ経営における先進事例の一つといえるだろう。

「“多様”であることは“バラバラ”であることとは異なります。さまざまなバックグラウンドの人が集まりながら、価値観を共有することが本質です。私が社員に示すのは、『何のために集まるのか』という存在意義。今後はパーパスがより重要になる時代だと考えています」

アフターコロナ時代に突入した、中国の社会的ニーズ

パナソニックグループは中国・北東アジア地域に77社の法人を持ち、「くらし空間」と「生鮮食品サプライチェーン」を重点領域とした事業拡大を進めている。

“健康・養老No1”を目指す「くらし空間」事業の最新例が、江蘇省・宜興の東京ドーム約80個分の広さの土地で進む健康・養老タウン建設への参画だ。全体の1/3の区画「雅達・松下社区」の1100戸にパナソニックの健康・養老コンセプトと製品を提案する。

中国・北東アジア社の社長を務める本間氏は構想を語る。

パナソニック株式会社副社長 本間哲朗氏

「雅達・松下社区が目指すのは、健康寿命が10年伸びる街づくり。長年培った当社の技術力を生かしながら、現地のデベロッパーと協働で進めています。家電などの商材の納入のみならず、データ収集を活用した健康改善サービス、環境負荷を軽減する工業化住宅を導入する計画を推進中です」

本間氏は、中国社会が新型コロナウイルスの影響を受けて最も変化した意識の一つに「清潔への関心の高まり」があると指摘する。特に非接触経済は注目されており、そうした社会変化に日本企業が貢献できる可能性は広がっているという。

「店員や配達員と非接触で商品の受け取りを実現する『冷温スマートロッカー』がメディアで大々的に取り上げられました。スマートロッカーも含む生鮮食品サプライチェーン事業では、産地から食卓までのバリューチェーンを安全に結ぶことに注力しています。特に中国は産地と消費地の距離が非常に長いため、食品ロスが25%に上るといわれています。冷温輸送技術などはニーズが高まっており、フードロスのみならず、農村部の所得向上などの課題にも貢献できると考えています」

当日講演資料 パナソニック株式会社提供

本間氏は、中国の特徴として、「スマートな市場が桁外れに大きいこと」「新しい技術を吸収する力が強いこと」「イノベーション上での失敗に寛容であること」「エンジニアの絶対的な供給量が大きいこと」などをあげる。これらの特徴をどう事業に生かすかが、今後の中国事業の成功のカギとなりそうだ。

日系企業がグローバルを目指すために、向き合うべき経営視点とは

両社の事業展開を受け、「事業におけるサステナビリティでは、気候変動が大きなテーマであるとともに、社会に対する取り組みも求められています。特にあらゆる人々の健康や生活の向上を目指すウェルビーイングの考えが重要度を増していくでしょう」と、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の名和氏は考えを述べる。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 名和高司氏

「ウェルビーイングというのは、どこか捉え所のない言葉。“be”に“ing”が付いていますが、この“Be”はいろいろな解釈ができます。“Well living”とすれば暮らしを充実させることにもつながりますし、“Well doing”と捉えて行動変容を促すことも価値の提供です」

あらゆる角度からアプローチできるウェルビーイングはあらゆる企業活動に直結する。だからこそ、CSVという観点から、自社の強みを生かした貢献が重要になるのだろう。資生堂、パナソニックの二人は、その重要性を踏まえて語る。

「美と健康は表裏一体のような概念。『美しくなる』『人生を積極的に生きる』ためにはまず、健康でなければなりません。例えば化粧という概念も幅広く、肌の手入れなど、食生活、睡眠といった人間の健康的な生活に依存します」(魚谷氏)

「外資企業が中国展開をするときに重要になるのは、『その社会にどのように貢献するか』。私たちの技術力が、新鮮・安全な食品を届けるという形で、生活者のウェルビーイングに還元されます」(本間氏)

中国展開でもう一つ重要になるのが、ダイバーシティだ。ダイバーシティ経営をリードする資生堂は、「多くの発想、意見が生まれる風土」を重視している。

「かつての日本企業には、愛社精神を中心とした新卒一括採用や年功序列、終身雇用が根付いていました。しかし世の中が大きく変化するなかで、今後は“フレキシブルさ”が求められていくでしょう。『私たちはこうする』という方針が強すぎて、社員が意見を述べられないような風土は、変革に対する障壁にもなってしまうのです」と、変革の重要性を述べた。特に若い世代の新しい意見をつぶすことは、企業にとって危険だと説く。

ダイバーシティという考えは、中国ではどのように浸透しているのだろうか。鄭氏は、「共通点を重んじながら違う部分を尊重するのが理想だと思います。サステナブルな生活のように、一つの共通のテーマに対し、年齢や性別を超えて活発な議論をする場づくりが必要とされていると感じます」という。

ダイバーシティやサステナビリティに対して先進的な考えを取り入れる中国。日本企業はこの先、どのような方向に舵を切り、中国と付き合うことが求められているのか。本間氏の発言にヒントがあった。

「日系企業の活動が、アフターコロナ時代に向けた転換期を迎えているのは間違いありません。改革開放からデジタル化までの40年間、スピーディーな社会変化を体験した中国では、国民全体が変化そのものを当たり前のものだと思っています。加えて、若者が消費の主導権を握っているので、流行の移り変わりも激しい。変化への適応力に欠ける日本は今後、中国現地の価値観や最新情報をキャッチアップし、現地法人と密なコミュニケーションをとりながら事業を進めていくことが求められていくでしょう」

いち早くアフターコロナ時代に突入した中国は、成長スピードと爆発力を持つだけでなく、社会変化に対する適応力が高い。日々変化する中国の社会的ニーズに応えてきたのが、長い年月をかけて培った日本の技術と経験であった。しかし今後、スピードにおいて常に後手となる私たちは、サステナブルの視点からも、中国のうねりを察知し、学んでいく必要があるのだろう。キーワードとなるCSVは、日中の共通言語となりつつある。これからの未来において我々はより多角的な視点が求められていくはずだ。

取材・文:相澤優太

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