世界経済フォーラムより2年ごとに発行される「The Future of Jobs」レポートは、各年の変化を記録しながら、未来の仕事に必要なスキルを分析している。

2020年はパンデミックの混乱とその影響に焦点を当て、企業による今後5年間のテクノロジーの採用から、個人の仕事に関する傾向、必要とされるであろうスキルの見通しが書かれている。

今回は、このレポートから読み取れる「5年後の将来」への見解、それを踏まえ、ビジネスパーソンとして今後どこを見据えていかなければならないのか、解説する。

パンデミックが加速させた企業の自動化・デジタル化


2020年、コロナのパンデミックによって世界的な不況が引き起こされた。経済と労働市場に影響がおよぶ中、多くのビジネスパーソンがその変化を痛感したことだろう。

仕事やその生産性の変化だけでなく、そうした状況は、個人の生活や幸福感、健康への価値観にもインパクトを与えた。

そんな中、テクノロジーの進歩は、前回のレポートである2018年版からの2年間で、さらに加速度を上げているようだ。

パンデミック下で景気後退はあっても、企業のテクノロジー増強に向けたデジタル化の傾向は強まっているのである。

今レポートでは「2025年までに、機械とアルゴリズムの機能はこれまで以上に広く採用され、機械による作業時間は人間による作業時間にほぼ一致するようになる」と予測されている。

自動化率を示す以下のインフォグラフィックでも分かる通り、2020年は人間の作業時間が67で機械が33だったのに対し、2025年は人間の作業時間が53で機械が47とほぼ同等になる。

2025年までに機械による作業時間は人間による作業時間とほぼ一致(出典:世界経済フォーラム「The Future of Jobs」レポート

自動化で実現される機械による仕事範囲の拡大は、世界中の幅広い産業や地域における労働者の雇用に影響を与え続ける。

レポートの算出によると「2025年までに、世界の労働者の15%が自動化による混乱のリスクにさらされ、平均6%の労働者は完全に仕事が機械に取って替わられる」と予想されている。

今後需要が増す仕事と、なくなる仕事

26カ国、15の産業から集計された数値によると、2025年までに、余分な職種が労働力の15.4%から9%に減少。一方、新しく創造される職業や仕事は7.8%から13.5%に増加する。

すなわち、2025年までに8,500万の仕事が機械などに置き替えられ、逆に9,700万の新しい役割が、人間・機械・アルゴリズム間の分業に適応することで生まれる可能性があると推定されている。

2025年までに8,500万の仕事が機械などに置き替えられ、9,700万の新しい役割が生まれると推定(出典:世界経済フォーラム「The Future of Jobs」レポート

需要が急増する仕事は、2018年の調査と同様、データアナリストや科学者、AIや機械学習のスペシャリスト、ロボット工学エンジニア、ソフトウェアやアプリケーションの開発者、デジタルトランスフォーメーション・スペシャリストといった役割だ。

また、自動化の加速とサイバーセキュリティリスクの高まりを反映し、プロセス自動化スペシャリスト、情報セキュリティアナリスト、IoT化スペシャリストといった職務も、雇用主からの需要が高まっている職種グループとして出現している。

一方、新しいテクノロジーによって、現在進行形で置き替えられている職務は、2018年にすでに特定されていたように、データ入力担当者、管理者や事務局長、経理・簿記・給与担当者、会計士や監査人、組立および工場労働者、ならびにビジネスサービスや管理マネジャーなどが含まれる。

スキルの再構築、スキルアップの重要性が高まる

レポートでは、企業は新しいテクノロジーの採用と、事業成長の可能性を開拓したいものの、人財のスキル不足ゆえに妨げられていることが分かっている。

つまり、労働市場におけるスキルギャップ、そして必要な人財を自社に惹きつけられないことが主な障壁になっているのだが、この結果は対象の26カ国のうち日本を含む20カ国に共通している。

では、どのようなスキルを雇用主が今後重要と見なしているのか。以下のインフォグラフィックは、その上位スキルと分類を示している。

雇用主が今後重要と見なすスキルトップ10(出典:世界経済フォーラム「The Future of Jobs」レポート) 

スキルは「問題解決能力」「自己管理能力」「他者との協力」「テクノロジーの利用と開発」の4つに分類されているが、そのうち問題解決能力が最も必要とされていることが分かる。

具体的には、「分析思考とイノベーション」「複雑な問題解決能力」「クリティカルシンキング(批判的思考)と分析」「創造性・独創力・イニシアティブ」、そして「理由づけと問題解決・アイデア出し」の5つが特定されている。

次に、自己管理能力のスキルとして、今年新たに挙げられた「アクティブラーニング(=能動的学習)と学習戦略」や、「レジリエンス(=心理的しなやかさ)やストレス耐性、柔軟性」が挙げられている。

テクノロジーの利用と開発では、「テクノロジーの利用と監視・管理」「テクノロジーのデザインとプログラミング」がランクイン。他者との協力では、「リーダーシップと社会的影響」が入った。

自己管理のスキルで今回新たに登場した「アクティブラーニング(=能動的学習)」に関して、企業で働くビジネスリーダーの94%が、従業員が新しいスキルを習得することを期待していると回答。2018年の65%から急増した結果となっている。

では、人びとがそのスキルをどのように習得するかというと、必要なトレーニングの39%は企業の内部部門によって提供されるが、そのほかにも、オンライン学習プラットフォーム(16%)および外部コンサルタント(11%)によって補完されるであろうことが分かった。

特にパンデミックが発生して以来、対面学習が制限される中、オンライン上でスキルを再構築する傾向が高まっている。

オンライン学習プラットフォーム「Coursera」のデータによると、オンライン学習の利用は2020年第2四半期に大幅に拡大。オンライン学習の機会を求める個人は4倍に増加し、雇用主による従業員へのオンライン学習機会の提供は5倍も増加。さらに、政府のプログラムを通じてオンライン学習にアクセスする人の登録数は9倍に拡大したという。

本レポートでは、雇用主は、社内にスキルのある人材がいない場合、従業員の62%にスキルの再開発やスキルアップへの機会を提供、その範囲は2025年までにさらに11%拡大するとしている。

一方で、雇用主が提供する機会を利用する従業員の割合は42%に止まっており、従業員側からの関与には遅れが生じているという結果も出ている。

2025年はもう4年後に迫っている。人間と機械が5:5に分業することで、需要が少なくなる仕事がますます出てくるのは必至であり、と同時に、新たに9,700万人分もの職種への需要が高まってくる。

企業にとっては、競争力の高い企業として将来も生き残るために、従業員の再訓練やスキル向上への投資が必須となっていく。個人のビジネスパーソンとしては、今のうちから未来の仕事に積極的に関わっていくためのスキル再構築とスキルアップの重要性を認め、その機会を逃さず、能動的に学習していくことが望まれる。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

参考
https://www.weforum.org/reports/the-future-of-jobs-report-2020
https://www.weforum.org/press/2020/10/recession-and-automation-changes-our-future-of-work-but-there-are-jobs-coming-report-says-52c5162fce