義足のバービーや人種的マイノリティが登場するディズニー。企業に求められるダイバーシティは「社内」から「社外」へ

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「ダイバーシティ」という言葉には、「女性が活躍できる社内環境」というイメージを持つ人が多いかもしれない。

しかし、企業には社内だけでなく「社外」に向けても、すなわち、自社のサービスや製品においても、より多様な人びとを肯定的に受け入れる姿勢へのアップデートが求められるようになっている。

この流れを受け、米ディズニーランドのアトラクション、バービー人形、セサミストリートには、人種的マイノリティ、障がい者、難民など、これまでにない多様なキャラクターが加えられた。

ダイバーシティとインクルージョンへの企業のコミットメントに注目が集まる昨今、サービスや製品など、社外への発信において米企業が取り組む「アップデート」をお伝えする。

ディズニーアトラクションの登場人物に人種的マイノリティ

ディズニー「ジャングルクルーズ」の探検家チームが一新(動画1:02の部分)Disney Parksより

米カリフォルニアとフロリダのディズニーランドでは今年、アトラクション「ジャングル・クルーズ」がダイバーシティへの配慮から大幅にリニューアルされた。

ジャングルへの旅を企画する会社の経営者という設定で、インドとイギリスにルーツを持つ女性「アルバータ」が追加。「サイから逃げて木に登る5人組」も、これまでは白人男性探検家とアシスタントの黒人男性たちだったのが、より多様な人種と女性を含むグループへと変更。

黒人やヒスパニック、アジア人探検家たちは、もはや白人のアシスタントではなく、研究者、芸術家など独自の職業がそれぞれに設定されている。

ちなみに、探検家チームの一員であるアジア人は、「日本を代表する昆虫学者のDr. Kon Chunosuke(こん・ちゅうのすけ博士)」だ。

バービー人形は多様な人種、体型、障がいを反映

金髪碧眼、長身、細身以外の多様な外見をもつバービー人形たち(Children’s Technology Reviewより)

バービー人形もまた目覚ましくアップデートしている。

バービーというと、白い肌にゆるくカールした金髪、極端に細い体型にブルーの瞳を思い浮かべるが、このオリジナルバービーの外見は、画一的な美のイメージの拡散につながるとして、近年批判されてきた。

黒人の女の子たちの一部が、健康によくない薬剤を使用して、髪をまっすぐに、肌を白くしようとする問題に、バービーを筆頭とするファッションドールの影響は少なくない。

しかし、過去5年間で、バービーは多様な人種、髪質、体型を反映させた170以上のバリエーションをそろえるようになった。特にアフロヘアの健康的な体型の黒人バービーは大ヒット商品に。

さらに最新のコレクションでは、皮膚疾患を持つバービー、義足のバービー、車いすのバービーなどが追加されている。 

セサミストリート、トランプ、トイ・ストーリーも

ディズニーやバービーにかぎらず、おもちゃや絵本、アニメなどから、子どもたちは無意識に影響を受け、特に「自分たちがどう表現されているか」は、成長過程における自己肯定感の高まりを左右する。

この事実が広く共有されることで、その他の子ども向け商品や作品も次々とアップデートされている。

セサミストリートは、難民として新しい国で生活を始める子どもたちが増加している現状を踏まえ、ロヒンギャ難民の双子をキャラクターとして追加。

セサミストリートの新キャラクター、難民の双子「ノアとアジーズ」(Sesame Workshopより)

新世代トランプ「Queeng」は、キングを男女2人ずつの「モナーク(君主)」に、クイーンを「ダッチェス(女公爵)」と「デューク(公爵)」に、ジャックを「プリンス(王子)」と「プリンセス(王女)」へと変更し、男女を序列づけしない製品となった。

インクルーシブなトランプの誕生ストーリー(Queeng Playing Cardsより)

「トイ・ストーリー」でおなじみのミスター&ミセスポテトヘッドも、米国では22万人以上の子どもたちが同性同士の両親と暮らしていることを反映し、ただの「ポテトヘッド」に変更。さまざまなパーツを組み合わせることで、ジェンダーを自由に設定できるようになっている。

ジェンダーを自由に設定できるようになったポテトヘッド(Hasbroより)

ダイバーシティに欠ける映像作品も問題視

おもちゃだけでなく、セサミストリートのような映像作品にもこの流れは波及。

ダイバーシティに欠ける、例えば、マイノリティが登場しない、もしくはステレオタイプな脇役や差別の被害者としてしか描かれないといった映画やドラマが多いことも問題視されるようになっている。

これまで、米国の古い映画やドラマでは、アジア人がスクリーンに現れるのは、歴史物を除けば奇妙な脇役が多かった。

映画「ティファニーで朝食を」に登場する日本人男性「ユニオシ」は、背が低く、メガネで出っ歯という、当時の日本人のステレオタイプな外見。しかも、奇妙な行動すら取るおかしな人物として、白人男性によって演じられた。

白人が演じたステレオタイプな日本人キャラクター「ユニオシ」(「ティファニーで朝食を」より)

恋愛ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」では、多様な人種が入り交じるニューヨークを舞台にした作品であるにも関わらず、主人公たちの数多い恋の相手にアジア人男性は登場せず、日本人は、主人公を売春婦と勘違いし、拙い英語で買春を持ちかける出張サラリーマンとして一瞬登場するだけだ。

日常で目にする日本人像がこうした役ばかりであれば、偏見を助長するだけでなく、日本にルーツをもつ米国の若い層に対してメディアがもたらす自己イメージは明るいものとはなり得ないだろう。

マイノリティが脇役から主役へ

主人公ほか、黒人俳優が多く起用された「ブリジャートン家」(ネットフリックスより)

しかし、こうした映像作品におけるマイノリティの扱いも変わりつつある。ネットフリックスのヒット作「ブリジャートン家」はイギリス上流社会を舞台とした恋愛ドラマだが、史実にこだわらず、主役は黒人男性と白人女性のカップルだ。

ゾンビサバイバルドラマ「ウォーキング・デッド」でも、LGBTQ+のキャラクターは「女性キャラクターの良き親友のゲイ」といったステレオタイプな役ではなく、生存者を率いるリーダー的存在として活躍している。

また、同作で主人公を凌ぐ人気となったアジア系米国人グレンを演じたスティーブン・ユアンは、映画「ミナリ」でアカデミー賞主演男優賞にアジア系で初めてノミネートされるほどの俳優となった。

主演が黒人のホラー「アス」や、主演がアジア系のラブコメディ「クレイジーリッチ!」など、商業的成功をおさめるマイノリティ主演のハリウッド映画も増えている。

商業的に成功を収めたアジア人主演のハリウッド映画「クレージーリッチ!」(ワーナーブラザーズ公式より)

ダイバーシティの観点から求められる「社外」に向けたアップデート

米国だけでなく、今日の日本もまた「多様な人びとが暮らす社会」であることは間違いない。日本人の50人に1人は外国にもルーツを持ち、LGBTQ+は約10%、障がいのある人は約8%とされている。

そんな中、企業がサービスや製品に関連する表現において、そうしたマイノリティたちを「存在しない人びと」や「ステレオタイプな脇役」として扱うことが社会に与える負のインパクトは、もはや無視できないものとなっている。

女性いじりやゲイいじりのような、特定のグループを揶揄する表現の炎上が相次いでいるように、インクルージョンの流れに逆行するような「偏見を助長する表現」にも厳しい目が向けられる時代となってきた。

「社内」のアップデートから「社外」に向けたアップデートへ。企業に求められるダイバーシティへの責任はさらに重いものとなっている。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

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