感染者抑制成功、シンガポールの国内観光促進プログラム

コロナ禍で世界各地の観光産業は大きな経済損失を被っている。観光産業の救済で、日本の「Go To」のような観光促進政策が様々な国で開始されており、観光産業の新しいトレンドとして注目されつつある。

これまでのところコロナ感染抑制で成功しているシンガポールでは、2020年12月から国内観光促進プログラム「Singapore Rediscovers Vouchers」を開始。シンガポール国民を対象に、最大100シンガポールドル(SGD)のバウチャーを付与し、国内観光を促進しようという取り組みで、2021年6月までの実施が予定されている。

Statistaのまとめによると、シンガポール観光産業のGDP寄与率は4%ほどで観光依存の強い国々に比べると低い値だが、2020年は前年比で大きく落ち込んでおり、観光産業の回復を急ぎたいところ。

シンガポール観光局(STB)によると、2020年同国への観光客数は前年比85.7%減の270万人。このほとんどが同年1〜2月にシンガポールを訪れた観光客の数。観光支出も前年比78%以上落ち込み、44億SGD(約3600億円)にとどまった。

シンガポール2021年1月末の様子

今回の観光促進プログラムでは、提携オンラインプラットフォームを通じて動物園やステイケーションなどの観光アトラクション/ホテルを予約する際、日本のマイナンバーに相当する「Singpass」のコードを入力すると、バウチャーの割引が適応される仕組みとなっている。

バウチャーは1人あたり100SGD(約8000円)とそれほど多い金額ではないが、国土が狭く行き場所が限定されているためか、週末・休日の観光スポットは賑わっている印象だ。

また国内の有名ホテルも普段より値段が下がっており、ステイケーション客で賑わいを見せている。同国のランドマークで、日本のCMなどでも度々登場するマリーナベイサンズホテル。観光促進プログラム提携プラットフォームの1つTravelokaでは、一泊470SGD(約3万2000円)ほどから宿泊できる。通常時は600SGDほどなので割安感はある。

イタリア、24億ユーロの国内旅行促進プログラム

イタリアでは2020年半ば頃に、世帯収入4万ユーロ以下の家庭向けに最大500ユーロ(約6万5000円)を支援する観光促進プログラム「Holiday Bonus」を開始。

このプログラムを実施するにあたり、イタリア政府は24億ユーロ(約3100億円)を投じたと報じられている。

2021年末まで継続されるとみられる同プログラムだが、シンガポールとは異なり感染者数が減らない状況が続くため、どこまで効果があるのかは不明だ。

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のイタリア観光産業に関する最新レポートによると、2020年中イタリアの観光収入は前年の2360億ユーロ(約30兆円)から1160億ユーロ(約15兆円)と半減。GDP寄与率も13%から7%に下落している。

コロナ禍の観光1人勝ち、モルディブは世界初のマイルプログラム導入

2020年世界各地がロックダウンとなる中、いち早く観光客の受け入れを再開、同年最も成功した観光地と呼ばれているのがモルディブだ。

モルディブの直接・間接的な観光収入はGDPの67%を占めており(CNBC)、観光客が途絶えると国家経済は立ち行かなくなる。他国に先駆け、安全かつ魅力的な施策を打つ必要があった。

競合となる他国のビーチリゾートの再開目処が立たない状況下、モルディブは2020年7月に観光客の受け入れを再開。この時点ではPCR検査の陰性証明は必要なかったが9月に義務化された。

これとほぼ同時期、モルディブ観光当局は観光客へのインセンティブプログラム「Maldives Border Miles」を開始。航空会社によるマイルプログラムはよく知られているが、国が実施するマイルプログラムとしては世界初として話題となった。

モルディブのマイルプログラムでは、入国回数や滞在日数によってマイルポイントを獲得、それに応じて3つのステータスが与えられ、それぞれの特典を享受することができる。

3つのステータスは「Aida(ブロンズ)」「Antara(シルバー)」「Abaarana(ゴールド)」。それぞれのステータスに至るには、一定のポイントが必要となる。Aidaは500ポイント、Antaraは2000ポイント、Abaaranaは4000ポイント。

ポイントは所定の条件を満たすと獲得することができる。たとえば、モルディブ入国で50ポイント、ハネムーンで30ポイント、宿泊1泊あたり5ポイントなど。

Aidaステータスは、1回あたり5泊の旅行を7回するなどで獲得できることになる。Aidaの特典としては特定リゾートでの宿泊割引(5%〜)やスパなどリゾート内アクティビティ割引(5%〜)が含まれる。ステータスが上がれば、割引率も高まる仕組みだ。

ワクチン・オン・アライバル、モルディブ2021年も積極的な観光施策

モルディブはマイルプログラムに加え、2021年から新たな戦略に基づく観光促進策を導入する計画だ。その名も「3V戦略」。

モルディブのアブドラ・マウスーム観光相は2021年4月14日、米CNBCの取材で「3V戦略」の概要を説明している。

3Vとは「Visit、Vaccine、Vacation」のこと。文字通り、モルディブを訪れワクチンを打って、バケーションを楽しむというもの。

CNBCはロイターのワクチントラッカーのデータを引用し、この時点で、モルディブでは全人口53万人のうち約53%が1回目のワクチンを接種したと指摘。マウスーム観光相も取材の中で、フロントラインワーカーに関しては、90%以上が1回目のワクチンを接種をしたと述べている。

またマウスーム観光相は、モルディブはインド、中国、WHOなどがからワクチンを受け取っており、さらにシンガポールからの供給予定があるため、観光客への供給問題は起こらないだろうと強調。

モルディブは2021年の観光客受け入れ数を150万人に設定しているが、この時点までですでに35万人が同国を訪れている。

また最近は観光客の滞在数が長くなる傾向があり、観光支出にも好影響が出ているという。特に経営層などがワーケーション利用するケースが増えているとのこと。

観光促進インセンティブは、政府主導のものだけでなく、エティハド航空が観光客のコロナ保険をカバーするなど民間企業発の取り組みも登場しており観光産業のスタンダードになっていくシナリオは十分に考えられる。今後の世界の観光産業の動きに注目していきたい。

文:細谷元(Livit

参考
https://edition.cnn.com/travel/article/maldives-tourism-arrivals-coronavirus-intl-hnk/index.html

https://www.cnbc.com/2021/04/15/vaccine-tourism-maldives-to-offer-holidaymakers-vaccines-on-arrival.html