学校の「セクハラ文化」英国で怒り噴出、問われる共学制の是非 政府介入で安全対策怠る学校は閉鎖の可能性も

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英国学校の「セクハラ・レイプ文化」への非難

日本では芸能界のセクハラ問題に対する非難の声が強まっているが、時を同じくして英国では教育機関における「セクハラ・レイプ文化」を糾弾する声が広がり、政府も介入する国家的な騒動に発展している。

英国では、これまでも教育機関における女子学生に対するセクハラ問題は何度か議論の的となってきたが、有効的な対策が取られないままでいた。

しかし今回は政府も介入し、学校側が安全対策を取らない場合は閉鎖もありうるなど、これまでとは少し様相が異なっている。

その理由は2つある。

1つは、2020年に開設されたレイプ被害者の証言サイト「Everyone’s Invited」、そして最近ロンドンで起きたサラ・エバラードさん殺害事件だ。

Everyone’s Invitedは、ソマ・サラ氏(22歳)が英国の学校に根強く残る「セクハラ・レイプ文化」を是正しようと昨年立ち上げたサイト。学校でセクハラ・レイプ被害を受けた女性が、被害の状況を匿名で投稿できるものだ。

このサイトへの投稿数が2021年3月に起きたサラ・エバラードさん殺害事件をきっかけに急増。BBCが3月31日に伝えたところでは、投稿数は1万1000件を越えたという。

サラ・エバラードさん殺害事件を発端とするロンドンのデモ(2021年3月13日)

投稿された証言には英国の有名学校が多数含まれていたことから、BBCやガーディアン紙など英国主要メディアがこぞって同問題を取り上げ、同国教育界を揺るがす一大スキャンダルに発展している最中だ。

英国では学校・大学で起こったセクハラ・レイプ事件は学校側が隠蔽するケースが多かったといわれている。しかし、今回は教育省や同省傘下の教育監査局(Ofsted)が能動的に動いており、セクハラ・レイプ予防対策を怠った学校には閉鎖の可能性もあると警告を発している。

ガーディアン紙が3月28日、英教育省の情報筋の話として伝えたところでは、Everyone’s Invitedで名指しされた学校は当局の調査を受けることなり、対策が講じられてこなかった場合、厳しい制裁が加えられることになるという。この情報筋は、対策が不十分である場合、それらを改善することが求められるが、できなければ学校の閉鎖もありうると述べている。

英国議会も無視できない学校のセクハラ問題

冒頭で述べたように英国教育機関における「セクハラ・レイプ文化」問題はこれまでも幾度となく議論されてきている。

2016年には同問題の認知を高めるため英下院超党派委員会による調査レポート「Sexual harassment and sexual violence in schools」が発表され、学校におけるセクハラ問題の深刻さが浮き彫りになった。

同レポートが伝えた2015年時点のデータによると、過去3年間で英国の学校では5500件に上るセクハラ事件が発生、このうちレイプ事件は600件に達した。

またGirlGuidingUKの調査では、セクハラが人生に何らかの悪影響を与えるのではないかと懸念している女性の割合が75%、また13〜21歳の女性のうち、セクハラ・いじめ問題に関して、政府が学校に対策を義務づけるべきとの回答が90%に達しており、セクハラを懸念する女性が非常に多いことも明らかになっている。

2016年時点で同レポートがこうした状況を指摘したものの、政府・学校による効果的な対策が取られることはなく、現在に至る格好となった。

安全求め共学から女子校回帰の動き強まる

今回のスキャンダルはさまざまな波紋を呼んでいる。

1つは共学を避ける動きの強まりだ。

ガーディアン紙4月4日の記事によると、Everyone’s Invitedで共学学校におけるセクハラ・レイプ事件に遭遇したという多数の証言が掲載されたことを受け、女児を持つ親の間では、共学を避ける動きが強くなっている。

これまでは、女子学生どうしのいじめなどを懸念する親も多く、また共学の方がより現実的な社会を学べるとの考えから、共学を選ぶ女児家庭が多かったが、今回のスキャンダルでその風潮は大きく変化、女子校を選ぶ家庭が増加しているという。

英国では女子校・男子校は古い制度との認識から、その数は減少傾向にあった。また女子を受け入れる男子校が登場するなどの動きも見られたところ。

英テレグラフ紙は3月31日の記事で、共学から女子校への回帰の動きが起こるであろうと予測。セクハラを避けるだけでなく、統計的にも女子は女子校で学ぶ方が成績が上がる傾向があるため、学力的な観点から選択する家庭が多いと指摘している。ちなみに男子は共学の方が成績が高まる傾向があるとのこと。

こうした女子校回帰の動きについて、一部の専門家らは、問題の根本は女子校回帰では解決しないとし、政府、学校、教師、家庭における問題認識を高め、「ジェンダーとパワー」の問題として早い段階から児童に教えていくことが求められると述べている。

ガーディアン紙によると、英国では2020年から男女関係や性教育が中等教育課程で義務化されたが、コロナの影響で実施が遅れているという。

英国学校のセクハラ文化は撲滅することができるのか、政府や学校の取り組みに注目していきたい。

文:細谷元(Livit

参考
https://www.theguardian.com/education/2021/apr/04/are-single-sex-schools-the-safe-option-after-abuse-scandal
https://www.bbc.com/news/education-56588166
https://www.everyonesinvited.uk/read-testimonies-page-37
https://www.theguardian.com/society/2021/mar/29/ofsted-must-investigate-allegations-of-sexual-misconduct-in-schools-mp-says
https://www.theguardian.com/society/2021/mar/28/dfe-warns-schools-could-be-closed-over-culture-claims
https://www.centreforsocialjustice.org.uk/library/unsafe-children-driving-up-our-countrys-response-to-child-sexual-abuse-and-exploitation
https://www.bbc.com/news/uk-56558487
https://www.bbc.com/news/uk-56529491

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