「感情の交流」で進化を続けるSCSKの組織風土改革から withコロナ時代を生き抜く組織づくりを考える

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新型コロナウイルス第1波の到来から約1年が経過した。テレワークの導入やオンラインツールの活用といった、労働環境の変化に適応してきた方も多いのではないだろうか。

株式会社スタッフサービス・ホールディングスの『「テレワーク導入後の働き方」に関する意識調査』(2020年5月)によると、テレワークで感じたデメリットとして、約5割が「社内コミュニケーションが減った」と回答している。たとえ出社をしても、マスクで表情が読みづらい、距離を保っての会話、食事の機会の減少など、コミュニケーションの希薄化が今、ニューノーマル時代の組織づくりにおける大きな課題となっている。

コロナ禍の労働環境において、活発なコミュニケーションを生み出し、組織全体を活性化するためにはどのような取り組みが必要なのだろうか。

今回は、人と組織の「感情(=フィール)」を重視した組織風土改革や人材育成に取り組むコンサルティング会社、株式会社ジェイフィールのコンサルタント山中健司氏と、同社の「組織風土改革プロジェクト」を導入しているSCSK株式会社社員による座談会を開催。コロナ禍における働き方の現状と課題、プロジェクト導入の経緯や効果についてたっぷりと語り合っていただいた。

SCSK株式会社 ご登壇者
金融事業グループ 金融システム第五事業本部 証券システム第一部
・部長  芝野明生氏
・第一課 高橋一仁氏
・第三課 清田和美氏
・第二課 小久保沙耶氏

コミュニケーション不足により、ネガティブな感情が組織にまん延しつつある

——コロナ禍における働き方の現状をお聞かせください。

山中氏:明らかにテレワークを導入する企業が増えたと思います。しかし、一方でテレワークが実施できていない企業が多いことも事実です。公益財団法人 日本生産性本部の「第4回 働く人の意識に関する調査」(2021年1月)によると、テレワーク実施率は首都圏を含む1都3県で32.7%、それ以外では14.6%という結果。1都3県が比較的高いのは、テレワークの実施率が高い大企業が集中しているからだと思います。こうして考えてみると、新型コロナウイルスの感染拡大はテレワーク導入の後押しにはなっていますが、実態はそこまで進んでいないとも言えます。金融事業グループの第一部で部長をされている芝野さんから見て、SCSKさんの状況はいかがですか?

株式会社ジェイフィール 山中健司氏

芝野氏:当社では、新型コロナウイルス感染拡大の前から、月に8回までのテレワークを導入していました。現在、私たちの部署では、常時5割程度の従業員がテレワークを実施している状態を目指しています。

テレワーク実施の可否は、業務の性質や本人の希望で決めることが多いですね。在宅勤務があまり好きではない、会社の方が環境がよいなど、理由はさまざまですが、出社を希望する人は出社をする。特にこだわらない人は在宅を優先する、という形です。

SCSK株式会社 芝野明生氏

―働き方においてコロナ禍で浮き彫りになった課題はありますか。

山中氏:やはり、一番はコミュニケーションの取りづらさだと思います。当社が2021年1月に「週1日以上のテレワークを半年以上続けている人」を対象に行ったアンケートで、テレワークで感じていることを問う設問では、82.6%の人が「雑談や会話をしづらくなった」と回答しています。

もう一つは、組織全体でネガティブな感情が広がりつつあること。同アンケートで、「現在、組織でどのような感情が広がっていますか?」という問いに対し、1位は「あきらめ感」で70.6%。これは「今の状況はしばらく変わらない」という新型コロナウイルスへの感情ですね。2位は「不安感」(68.4%)、3位は「やる気が出ない」などの「沈滞感」(64.8%)でした。気になるのは4位に入った「不信感」(63.5%)です。これは、「相手が何を考えているかわからない」というもの。まさに、コミュニケーション不足を現す結果の一つだと言えると思います。

芝野氏:コミュニケーションは、弊社でも大きな課題の一つですね。実際、年頭の社長あいさつでもテレワークによるコミュニケーションの希薄化に言及していました。うちの部でいえば、例えば小久保さんのような入社2~3年目の若手社員は、チームメンバーの人となりを把握しきれておらず、リモートではコミュニケーションが取りづらいということで、出社を増やして対応したこともありましたね。

特に2021年からは「リモートでも、積極的にface to faceでコミュニケーションを取りましょう」と呼びかけています。しかし、「家を見られたくない」など、頑なに嫌がる社員もいるので(笑)。Face to faceへの意識をどう高めていくかというのは、課題の一つだと感じています。

社員自らの“仕掛け”がプロジェクト導入のきっかけに

―2020年10月から、SCSKではジェイフィールの「組織風土改革プロジェクト」に取り組まれています。コロナ禍のコミュニケーションにおける課題が、導入のきっかけとなったのでしょうか。

芝野氏:コロナ禍も理由の一つではありますが、大きなきっかけとなったのは、実は高橋さんからの提案なのです。

高橋氏:私が参加していた全社研修で、山中さんが講師として登壇されていたのです。研修内容も面白いものが多かったですが、何より参加メンバーと一緒に成長を深めていくという点が、とにかく刺激的で面白かった。特に「マネジメントハプニングス(以降マネハプ)」と題した、「自身の固定観念や価値観を、第三者との対話で自覚する」というセッションは、わくわくするほど楽しくて。「うちの部でもやったら面白いんじゃないか」と、ふと思ったんです。ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し始めた頃でした。

SCSK株式会社 高橋一仁氏

山中氏:少し補足しますと、マネハプとは「内省と対話」を深め、経験学習を促進するプログラムです。まず、成功や失敗など、感情が動いたできごと、コミュニケーションで難しさを感じた場面などを書き出してもらいます。その際大切にしているのは、「自身の感情」にアクセスすること。これを第三者との対話を通じて探究しあうことで、自身がもつ固定観念を自覚し、自分の行動や判断の理由への理解を深め、行動変容につなげることができます。

マネハプシート

高橋氏:マネハプでは「自分から仕掛ける」ことで、自分はもちろん、まわりの人や環境を変えていくことが大切であることを学びます。そこで私も、「面白い取り組みがあるんですけど」と芝野さんに仕掛けてみたところ、想像以上に食いついてくださって(笑)。芝野さんが組織の関係性やコロナ禍でのコミュニケーションに課題感を抱いていたことも相まって、とんとん拍子で話が進みました。

芝野氏:うちの部署は、19年間同じお客様を担当しているため、お客様とはもちろん、チーム内でも密な情報共有が必要なく、部分的なやりとりのみで仕事が進みます。そうなると、仲が悪いわけでは決してないのだけれど、どんどん関係性が固定化されてしまうのです。こうした関係のままでは、チームとして発展していくことも難しい。

さらに言えば、現在の会社の主力である40~50代が今と同じような働き方が難しくなる10年後も、会社を支え、進化し続けられる次世代も育てていかなければなりません。そのためにも、今のままではいけないと感じていました。

何とかしたいと思っていた時に、高橋さんから研修の話を聞いたんです。このプログラムでお互いのことを知り合えたら、新しいコミュニケーションが生まれて、仕事にやりがいや楽しみを感じてくれる人も増え、さらには部署内の距離も埋まるのではと思い、プロジェクト導入に至りました。

高橋氏:マネハプを通じた内省の定着化によって、仕事でのコミュニケーションや取り組み方によい変化が起きることを実感していましたから、導入時には、「マネハプだけは絶対に外したくない!」と山中さんに強くお伝えしたことを覚えています。

―「組織風土改革プロジェクト」の概要やポイントを教えてください。

山中氏:風土を変えると言っても、明日からすぐに働き方を変える、ということは難しいですよね。私たちは、組織の風土が変わるということは、働いている人たちの日常会話や行動が変わることだと考えています。そのためのステップとして、「関係性を変える」ことを重視したプロジェクトを展開しています。

プロジェクトの全体像

具体的には、副部長・課長・課長補佐のマネジメント層、メンバー層の両方に、2週間に一度のペースでマネハプに取り組んでいただいています。他にも、マネジメント層には内省の進め方や1on1の方法などを学ぶ「テーマセッション」に参加していただいたり、メンバー層向けにも内省の進め方や、自分の変化を振り返っていただく「拡大セッション」を行っています。

「感情の交流」や「内省と対話」をテーマにした様々なプログラムを軸に、最初の3ヶ月が「関係革新」、次の5ヶ月で「仕事革新」を行い、最後の4ヶ月で「未来革新」という3ステップで進めていきます。

「関係革新」では、マネジメントやメンバー同士が、もっとフランクに、思いや考え、悩みなどを共有し合える関係を築くことを目指します。その上で、続く「仕事革新」では、組織の課題を洗い出し、改善点を考えていただきます。「関係革新」で築いた良好な関係性が土台にあることで、本音で話をしやすくなり、より密に組織の課題改善に向けて取り組むことができます。こうして、組織内の雰囲気や仕事との向き合い方がどんどん変化する中で、10年後の未来に向けた組織づくりを考え、実践していく「未来革新」へと進んでいく流れです。

先んじて、10月からマネジメント層がスタートしており、今年の2月からはメンバー層のプロジェクトも始まっています。

また、マネジメント層とメンバーの1on1も並行して導入しており、縦横の関係性を深めながら「内省と対話で学び合う風土づくり」を展開しています。

自分や相手の固定観念の共有で、部内の働き方や雰囲気に変化が

―現在、マネジメント層はマネジャー第1フェーズの関係革新が終了し、メンバー層もプロジェクトに取り組み始めて1ヶ月がたちました。実感している変化や効果はありますか。

小久保氏:私は、現在入社3年目で、まだまだわからないことや自分だけで判断が難しい場面が多くあるため、わからないことがあればすぐに上司に確認して、とにかく物事を前に進めます。なので、わからないことがあったとき、すぐに質問をしない人がいると純粋に疑問を感じていました。

SCSK株式会社 小久保沙耶氏

しかし、マネハプに参加して「質問に来ないこと」が果たしてその人自身の原因なのか、もしかすると「質問しづらい状況」という、その人以外に原因がある場合もありえるのでは、というアドバイスをいただき、なるほど! と思いました。まさに、内省と対話で「わからないことがあったらすぐに質問するべきだ」という自分の固定観念に気づくことができた経験でしたし、「質問をしない理由」の新たな考え方を知ることができました。

清田氏:私は、コロナ禍以前から月に1~2回ほどテレワークを行っていたので、リモートでのコミュニケーションに大きな課題を感じてはいませんでした。

ただ、リモートに関わらず、いつも忙しい課長陣へ話しかけるタイミングを計りかねることが多々ありました。プロジェクトを通じて、課長陣の仕事の進め方や考え方の癖をこれまで以上に理解することができたおかげで、以前よりも話しかけやすくなったように思います。

SCSK株式会社 清田和美氏

高橋氏:私は一歩引いた立場でマネジメント層とメンバー層の様子を見ていますが、想像以上にみんなが笑顔でとても楽しそうに取り組んでいるなと感じています。こうした企画は、特に従来の働き方に慣れている年齢を重ねた方から拒否反応が出るかな……と心配していたのですが、むしろ年齢層が高い方がコミュニケーションに飢えていたということがわかりました。

芝野氏:強く感じているのは、横の関係性の敷居がどんどん下がっていることですね。メンバー層のプロジェクトには、フォロー役として課長・課長補佐にも参加してもらっています。メンバーの考えや思いをうまく引き出すために、課長・課長補佐で連携する姿、メンバーの様子を積極的に共有し合う姿も見られ、とてもよい傾向だと感じています。現在、新たな案件も動き出しているのですが、想像以上にスムーズに進んでいるのも、横のつながりが良好になったからこそだと思います。

もう一つは笑顔が増えたことですね。以前から、うちの部は静かだね、なんて言われていました(笑)。みんな、黙々と仕事をしているからなのですが。しかし、最近ズームなどで会議をするとみんな、よく笑うんです。チーム全体の雰囲気も少しずつ変わってきているように思います。

山中氏:メンバー向けのキックオフの際に、「一人ひとりの強み」をアンケートで聞いた際、多くの人に共通するキーワードがあったことを覚えていますか? 「親切心」と「ユーモア」です。このキーワードが出てくる職場って素敵ですよねと話したことを覚えています。

しかし、テレワークなどでコミュニケーションが合理的になり、仕事のやり取りのみになりがちでした。そんな中で、意図的に感情も含めたやり取りをする場を設けたことで、元々チームが持っていた「親切心」と「ユーモア」というポテンシャルが発揮されるようになってきたのだなと、関係革新が進んでいるなと感じました。

「感情の交流」を軸にしたコミュニケーションを通して、会社と社員の未来を考える

―今後の展望をお聞かせください。

芝野氏:立場的にも、時間軸を持ちながら取り組んでいきたいと考えています。特に3段階目の「未来革新」に通じてきますが、「10年後、どうなっているか、どうなりたいか」ということを、チーム全員できちんと共有していきたいですね。

先にも述べた通り、10年後の社員構造は大きく変化します。今の主力勢の体力が落ちる前に、次の世代が引き継ぎ発展させていく必要がありますし、少子高齢化も相まって小久保さん世代を潤沢に確保することもどんどん厳しくなっていきます。社会と会社の変化に適応していくための一つのリミットを10年と捉え、プロジェクトが終わっても、チーム全員で10年後の在り方を継続して対話していけるようにしていきたいと考えています。

もう一つは、このプロジェクトをマンネリ化させないこと。仕事の話をするとき、好き嫌いや感情でものを語るということを制限しがちですが、このプロジェクトは「感情を交流する」ということが大前提にあります。だからこそ、みんなも本音で話してくれますし、私自身も参加者として感情を交流させてもらえることが、本当に楽しいんですよね。この楽しさをチーム全員が維持できるようにしていくことも、私の役割だと感じています。

山中氏:「一人ひとりが思いをもって働けるような組織にしていきたい」と、芝野さんと最初にお話ししたことを思い出しました。SCSKさんとプロジェクトを共に進める中で、感情の循環を大切にした組織づくりの意義を改めて強く感じましたし、意図的なコミュニケーションや仕掛け、ツールの活用が必要不可欠な時代になっているのだと改めて実感しました。

大事なことは、「感情の交流」や「内省と対話」を通して、組織の課題を全員で共有し、乗り越えて行けるような構造を作っていくこと。

現在は、関係革新を中心に進めている段階ですが、これから今の仕事の問い直しや、10年後の未来に向けた新しい動きを皆さんと一緒に創っていきたいと思います。

文・関 香里(Playce)

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