マッキンゼー調査、リモート授業の効果は日本が最低?GIGAスクール構想で巻き返せる可能性も

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リモート授業、対面授業に比べ学習効果は低下傾向

昨年世界各地の学校で導入が進んだリモート授業。開始1年が過ぎようとしているなか、その学習効果に関する調査報告が発表され関心を集めている。

マッキンゼーが2021年3月1日に発表したレポート「Teacher survey: Learning loss is global – and significant」だ。

2020年10〜11月にかけて世界8カ国の教師2500人以上を対象に、リモート学習の学習状況について聞き取りを実施。調査対象となったのは、オーストラリア、ドイツ、カナダ、中国、英国、フランス、米国、日本。

この調査でとりわけ注目されているのが、教室での学習と比較してリモート学習がどれほど効果的なのかを示すスコア。

2500人以上の教師によるリモート学習の効果の平均評価は10ポイント中4.8ポイントと、教室での学習に比べ、リモートにおける学習指導効果が半分以下であることが示されたのだ。

興味深いのは、国別にスコアが大きく異なっている点だろう。平均4.8ポイントに対し、それを下回っているのが、フランス(4.6)、米国(3.5)、日本(3.3)の3カ国。

一方オーストラリアでは6.6ポイント、ドイツで6.1ポイントなど、6ポイントを超える国も存在している。このほか平均以上となったのは、カナダ(5.6)、中国(5.4)、英国(4.9)。

リモート学習の効果(マッキンゼー調査より)

国別にこれほど大きな開きがある理由はどこにあるのか。

オーストラリアと日本を比べて見ると、コンピュータやインターネット利用の慣れというのが理由の1つとして浮上する。

OECDの調査「PISA2018」では、学生(15歳)が宿題でパソコンを使う比率が明らかになっているが、オーストラリアは「毎日」と「ほぼ毎日」を合わせて40%以上で、調査対象国の中でもとりわけ高い割合だった一方で、日本は3%とOECD最下位だったのだ。OECD平均の22.2%からも大きくかい離している数値となっている。

日本に比べオーストラリアの教師や学生たちは、コンピュータやインターネットの利用においてすでに慣れており、コロナ禍でも比較的スムーズにリモート授業に移行できた可能性を示唆する数字といえるだろう。

GIGAスクール構想とリモート学習、日本が未来の教育で世界をリードできる可能性

マッキンゼーの調査が実施されたのは2020年10〜11月頃。それ以降の日本の教育環境の変化を鑑みると、最新の状況は少し異なっているかもしれない。

この数カ月「GIGAスクール構想」に基づく児童への端末配布やネット環境整備が進みつつあり、学習のためのICT利用が広がりを見せているためだ。

「1人1台端末」を掲げる同構想が進めば、多くの児童が学習においてデジタルデバイスを利用できるようになる。教師、児童ともにデジタル環境に慣れてしまえば、リモート学習の効果もオーストラリアのように高いものとなっていくことが想定される。

もしGIGAスクール構想が目指す状況が実現すれば、日本はリモート学習において世界をリードできる可能性も見えてくる。

上記マッキンゼーの調査では、リモート学習の効果は経済格差によって損なわれるリスクが浮き彫りになっている。

GIGAスクール構想のもと、すべての児童・学生が1人1端末持ち、十分な速さのネット回線にアクセスできるような環境が整備されれば、リモート学習の効果を損なうリスクを低減できることになるのだ。

経済格差がリモート学習の効果を損なうリスクは、公立と私立の差に見て取ることができる。

マッキンゼー調査では、対面授業と比較しリモート学習の効果は10ポイント中平均4.8ポイントという数値だった。これを公立と私立で分けて見ると、公立は4.4ポイント、一方私立は6.2ポイントと公立に比べ41%も高い数値となった。

また公立と私立では、リモート学習にしっかり取り組む児童の割合は、公立66%に対し私立は77%と、こちらも私立が優位な状況であることが明らかになっている。

家庭の経済状況がデバイスへのアクセスやネット回線の速度に影響し、それが学習効果にも何らかの影響を与えていることが示されているのだ。

経済格差激しい米国と英国、カリキュラムの遅れ目立つ

米国は世界最大の経済大国であるが、経済格差が激しいことでもよく知られている。

世界銀行がまとめた社会における所得の不平等さを測るジニ指数(Gini Index)、米国は41.4と高い数値だ。ノルウェーの27.6、デンマークの28.2などと比べると米国の高さが際立つ。日本は32.9。

マッキンゼー調査によると、その米国ではカリキュラムの遅れが平均2.4カ月と世界平均1.9カ月を上回る状況だ。

カリキュラムが最も遅れているのは2.8カ月の英国。世界銀行のジニ指数は35.1と米国より低い数値だが、児童・学生を取り巻く環境は厳しさを増している。

英ガーディアン紙によると、英国では大学生の55%が年間所得2万ポンド(約300万円)以下の低所得家庭の出身。大学で必要なノートパソコンを買うお金がなく、スマホで論文を書いている学生も少なくないといわれる状況だ。

スマホでリモート学習する学生(イメージ)

今回のマッキンゼー調査では、リモート学習効果が最も低かった日本。GIGAスクール構想で状況がどのように変わっていくのか、今後の動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit

参考

https://www.mckinsey.com/industries/public-and-social-sector/our-insights/teacher-survey-learning-loss-is-global-and-significant

https://data.worldbank.org/indicator/SI.POV.GINI?most_recent_value_desc=true

https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_0001111.htm

https://www.theguardian.com/educating-tomorrow/2021/feb/25/students-were-writing-dissertations-on-mobile-phones-how-a-laptop-loan-scheme-transformed-one-university

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