先進国であるはずの日本で、子供の貧困が喫緊の課題となっていることはご存知だろうか。現在日本の子供の相対的貧困率(※1)は13.5%、ひとり親世帯だと48.1%にものぼる。2015年国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)でも、設定された17の目標のうち1番目のゴールに貧困対策が掲げられている。サステナブルな社会を目指すにあたり、絶対に避けられない課題だと世界共通で認識されているわけだ。
2020年からの新型コロナウイルス感染拡大によって、貧困がより深刻化している今、私たちに何ができるだろうか。
2021年3月15日に開催された内閣府主催のオンラインイベント「STOP子供の貧困。企業が行うSDGs達成に向けたアクション〜いま始めるべき、コロナ禍での取組とは」では、ファシリテーターに堀潤氏を迎え、子供の貧困縮小に取り組んでいるNPO法人や、企業のSDGsに関わるキーパーソンが登壇し、その現状や構造的課題、取組事例について議論を交わした。さらに登壇者は、これから貧困対策に取り組もうとする企業や個人が何から始めればいいのかについて言及した。
今回はそのオンラインイベント内容についてレポートする。
【登壇者】
▼ライオン株式会社 サステナビリティ推進部長 小和田みどり氏
▼日本ロレアル株式会社 ヴァイスプレジデント コーポレートコミュニケーション本部 本部長 楠田倫子氏
▼特定非営利活動法人キッズドア 理事長 渡辺由美子氏
▼ジャーナリスト・キャスター 堀潤氏
(※1)相対的貧困とは、その国の文化水準や生活水準と比較して困窮した状態のこと
出典:子供の未来応援国民運動〜子供の貧困とは
子供の貧困に、国はどのような対策をしているのか
イベント冒頭、内閣府の飯田剛子どもの貧困対策担当参事官から、日本の子供の貧困の現状や政府が実施している支援策が紹介された。
先述した通り、現在の日本の子供の貧困率は13.5%、ひとり親家庭だと48.1%となっており、OECD加盟国のなかでも高い状態となってしまっている。
飯田氏は「問題の解決には、貧困の連鎖を断つ必要がある」と指摘する。
飯田「親の収入が少ないと子供は十分な教育が受けられず、大学進学が難しくなる。そうなると収入の高い職業に就くことができず、将来貧困世帯になってしまう可能性が高くなってしまいます。一人でも多くの子供を救い、貧困の連鎖を絶っていかなければいけません」
政府は、教育の実質無償化や生活支援、保護者の就業支援など、各方面での貧困対策を拡充している。コロナ禍でも、緊急対策として授業料減免、緊急の奨学金の創設(※)、ひとり親世帯の臨時給付金の支給などを実施している。
飯田「現状では、本当に助けを必要としている人々に支援が行き届きにくい実状があります。貧困の連鎖が続いている家庭では、そもそも貧困の自覚がなくて声をあげなかったり、自覚していても周囲の目を気にして助けを求められない場合も少なくありません。その状態を解消するためには、国や都道府県、市町村だけでなく、NPO法人や企業、そして視聴者である皆様の協力が不可欠です」
内閣府では、何か力になりたい、支援したいと思った企業に対して支援先をマッチングする取組も行っているため、思い立ったらぜひ内閣府に連絡してみてほしい。
(※)新型コロナウイルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ 文部科学省より
貧困による教育格差を是正し、貧困の連鎖を断ちたい
イベントの本編では堀氏がファシリテーターとなり、登壇者3名に子供の貧困に対してどのような取組を行っているのかを掘り下げた。堀氏自身も、コロナ禍における社会変化に強い課題意識を持っており、自身のSNSアカウントによって人々の声に耳を傾けている。
イベントの冒頭、堀氏から自身の経験とともに視聴者に対して伝えたい意気込みが語られた。
堀氏「昨年、SNSを通じて、1カ月という期間だけでも800人以上から助けを求める声が届きましたが、そのほとんどが子供に関わることでした。今回のイベントタイトルにもある“SDGs”で掲げられている17の目標のなかでも、貧困は急務の課題であり、優先的に取り組むべきものです。何かしらの支援をしたいけれど、やり方がわからないという方も多くいらっしゃると思います。私たちに今できることは何なのか、このイベントを通して少しでもお伝えできればと思います」
登壇者の渡辺氏が理事長を務める特定非営利活動法人キッズドアは、2007年の設立以来、日本国内の子供支援に特化した取組を行なっている。特に貧困問題へと真摯に向き合い、貧困家庭の子供を対象とした教育支援事業を東京とその周辺、及び宮城県で展開。昨年は約2,000名の子供が受講している。
キッズドアが教育支援に注力しているのは、貧困の連鎖を断ち切るための要だと考えているからだ。
渡辺氏「収入が高い世帯ほど、学校での成績も、大学進学率も高くなる傾向にあります。収入が少ないと塾や家庭教師を付けられず、それ以前に、家が狭いため十分な学習スペースが用意できない状況にあります。また親が勉強を見てあげられない、参考書が買えないという問題も存在します。文房具が買えないほどの深刻な状況に陥っている家庭も少なくありません」
家庭環境による教育格差をなくし、貧困という負の連鎖を防ぐため、キッズドアでは無料で学習機会を提供している。
渡辺氏「子供の貧困に対する支援は、福祉ではなく投資です。ちゃんと学習支援を受けて、進学して、自分でちゃんと稼げるようになれば、その分の税金を納めることになります。優秀な人材が増えることは、企業にとっても国にとってもメリットになるはずです」
渡辺氏は、学習機会や物資の無償提供などの人的・経済的資本に加え、文化的資本、社会関係資本も合わせて提供していく必要があると語り、実際にキッズドアとしても文化に触れるための体験活動や、社会人との交流機会を設けている。文化に触れ、豊かな人間関係を築くことは人生を好転させるための重要な資産となるのだ。
渡辺氏「キッズドアの学習会に参加した子供たちのその後の進路を追っていくと、貧困世帯の平均に比べて大学進学率が非常に高いんです。支援をすることが、子供の人生を確実に変えていきます。これまで子供を育てるのは親や学校だけという認識でしたが、これからはいろんな組織が協力して取り組むべきだと思います」
ファリシテーターの堀氏が「SOSを発信できる、もしくは貧困状態にあると認知されている家庭はキッズドアさんのような支援と比較的結びつきやすいが、声をあげにくい、あげない家庭との接触はどうされているのか?」という質問を投げかけると、渡辺氏は「言葉遣いに配慮することが重要」と答える。
渡辺氏「皆さんスマートフォンは持っているので、SNSでの発信は比較的届きやすいんですね。ただ、SNSで発信するとき、難しい言葉を使ってはダメなんです。『ひとり親家庭でこういった状況にある方は、このような支援が受けられる』と長々と書いてもリアクションをしてもらえません。そうではなく、『ひとり親で困っている方はぜひどうぞ』というぐらいにわかりやすく、カジュアルな発信の仕方をすれば、お問い合わせしてもらいやすくなります。そこから信頼を獲得できれば、その友人知人の方とも繋がりやすくなります」
渡辺氏の発言を受け、堀氏は、キッズドアの取組に感銘を受ける一方、多様な立場が協力しあうことが大きな鍵だと指摘した。
堀氏「子供の貧困は、やはりNPO法人だけで解決できるものではありません。ソーシャルセクターだけ、民間だけ、行政だけ、ということではなく、社会全体で協力していかなければいけない課題ですね」
貧困から生まれる健康格差を縮めるために
次に、小和田氏からライオンの取組が紹介された。
1891年に創業され、今年130年を迎えるライオンは、創業者小林富次郎氏の「日本の子供からむし歯をなくしたい」という強い想いからオーラルケア習慣の普及啓発活動を実施してきた企業だ。
同社は中長期経営ビジョンとして「Vision2030」を掲げており、その中核にパーパスがある。ライオンが掲げるパーパスとは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」こと。手洗いや歯みがき習慣を楽しくできるようになれば、生活の質が向上するうえ、健康に過ごすことができるというものだ。
実は健康を維持する上でも、貧困が密接に関係しているという。
小和田氏「貧困の家庭ほどオーラルケアが不十分な傾向にあります。実際、貧困家庭では5本以上むし歯のある子供の割合が、通常家庭に比べると倍近くになります。いわゆる口腔崩壊、むし歯が10本以上ある子供の環境を探っていくと、ひとり親世帯が多いという結果にたどりつきます。歯の健康は、全身の健康に直結してしまうので、家庭環境による健康格差を埋めるために私たちができることは何かを考え、取組を実施しています」
ライオンの、社会課題に向き合う姿勢は創業当初から揺らいでいない。創業者の小林氏の意向で、1900年には同社の社会貢献活動の原点となる「慈善券付ライオン歯磨」という商品を発売し、袋に印刷した「慈善券」をお客様が孤児院などの慈善施設に贈り、その枚数に応じてライオンが寄付をする仕組みでした。この活動は、20年つづけられました。
また1932年から、日本の子供からむし歯をなくすために「全国小学生歯みがき大会」を実施し、今年度77回目を迎えた。
生活習慣の改善に留まらず、子供たちの自立や体験機会の提供も模索している。
小和田氏「貧困家庭で育った子供は褒められる機会が少なく、自己肯定感が低くなる傾向があります。褒められる体験やいろんな体験を通じて、自己肯定感を高め、どんどん視野を広げて貧困のループを抜けてほしい。そんな想いから、子供と親が一緒に楽しめるような企画として、たとえばダンスやクイズ、歯ブラシデコレーションなどを実施しています。」
ライオン自身は貧困家庭と直接コミュニケーションできる接点を持ち合わせていないため、貧困家庭との接点があるNPO法人と提携しているという。
直近では、 NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと、認定NPO法人 フローレンスと協力し、子どもたちの食を支える「子ども食堂」や「子ども宅食」を通じ、「食」と親和性の高い「歯みがき」や「歯と口の健康」をテーマにした体験プログラムを提供。子どもたちの自己肯定感の向上に貢献する「インクルーシブ・オーラルケア」を実行して、すべてのひとにオーラルケア機会の提供を目指している。
シングルマザーの支援を通じて、子供の貧困解消に挑む
続いて、楠田氏から日本ロレアルの取組が紹介された。
化粧品会社として世界1位の売上を誇るロレアルは、社会課題の解決に向けた取組を経営のコアに据えているという。当社の企業ミッションは、「世界をつき動かすような美の創造」。ビューティーを通して、より良い世界にしていきたいと考えている。
楠田氏「ロレアルでは2005年からサスティナビリティに関する取組を始めており、2020年に『ロレアル・フォー・ザ・フューチャー』というプログラムを立ち上げ、社会課題・環境問題への取組を強化しました。社会課題というと範囲が広くなってしまいますが、当社は化粧品会社ということもあり、主要ターゲット層である女性の支援に注力しています」
2020年、社会課題・環境問題に貢献するための「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」を立ち上げ、約200億円の資金を拠出し、ファンドを設立。その1/3を困窮する女性の支援に充てている。日本においても、女性をエンパワーメントするための取組を実施しており、2013年からはシングルマザーの就労支援を展開している。
楠田氏「子供の貧困が日本の大きな社会課題だという点は当社も認識しており、そこにダイレクトに結びついているのがシングルマザーの貧困です。シングルマザーに経済力をつけていただくことで貧困解消に寄与できると考え、日本ロレアルでは2016年から、5カ月間のキャリア支援プログラム『未来への扉』を設立しました。プログラムの前半ではビジネスマナーやPCスキルを学び、後半では日本ロレアルが展開するブランドの美容部員に就くためのコース、もしくは事務職に進むコースを選べます。美容部員のコースは当社が担当し、事務職は人材派遣企業であるアデコさんにご協力いただいています。現在までに130人以上が修了され、半数以上が収入の増加につながっています。また、職能スキルだけでなく、自己肯定感が向上したというお声もいただいています」
その他にも、日本ロレアルでは児童養護施設出身者に向けて、モード学園と協働した美容職に就くための学びの機会を提供するなど、多方面で就業支援を展開している。
また、物資や美容機会の提供も行なっている。化粧品やスキンケア用品の提供、美容室と提携したシングルマザー向けの無償ヘアケアサービスなどがその一例だ。
楠田氏「経済的余裕のない方は、自分を構う余裕がありません。自分は後回しにしなければいけない、自分を磨くことやお洒落をすることに罪悪感を持ってしまう傾向にあります。ですが、そんな気持ちを持つ必要は本来ないはずなんです。すべての方が、自分らしい美しさを追求していいんだと伝えていきたいです」
日本ロレアルと提携し、物資の提供を行う渡辺氏も「化粧品の提供は予想以上に喜んでもらえる」とコメント。
渡辺氏「私たちが提供する生活用品のなかに日本ロレアルさんからご寄贈いただいた化粧品もセットで提供したことがあるのですが、支援した方からは『箱の中からメイベリンの化粧品を見つけたとき、感動して涙が出てきました』とのお声もいただきました」
堀氏「ロレアルさんのお話を聞いて、自身で稼ぐ力を整えていく持続可能な支援だと感じたのですが、一方で、こういった活動を行う際に社内でのコンセンサスを取っていくポイントというのはどういったものなのでしょうか?」
楠田氏「当社ではグローバル本社のトップが強い決意のもと、経営の中心に社会課題の解決を据えているので、推進しやすい環境ではあるんです。ただし、これからの社会において、企業市民として社会に意味のある存在でなければ、結果的に消費者に選ばれることはなくなっていくと思っています。そのため、ビジネスの基礎条件として社会課題と向き合っていくということが必須なんだ、という声を上げていく事が重要なんだと思います」
近年話題となっているESG投資の観点から見ると、社会課題に対してきちんと取り組んでいる企業でなければ、この先投資家から投資対象とされなくなっていく可能性は高い。楠田氏が話すように、今後、企業が社会課題に対して向き合っていくことはビジネスの基本となっていきそうだ。
続いて堀氏は、企業とNPO法人とのマッチングの問題について言及した。
社会課題の解決に取り組みたい企業とNPO法人が結びつくにはどうすればいいのか。NPO法人の立場として企業に求めることはなにかを渡辺氏に問いかけた。
渡辺氏「まずは、実状を知っていただくのが一番だと思います。ほとんどの方は、子供の貧困がどれだけ深刻な状況になっているのかを知らないんですね。私たちは10年以上子供の貧困に取り組んでいるため、さすがにもう認知が広がっているかなと思ってしまうのですが、まだまだ認知度は低い状況です。企業の社員の方向けに子供の貧困についてお話しすると、衝撃を受けて涙を流す方もいます。
この社会課題に対するリテラシー格差をどう埋めていけるかが、社内で推進するうえで重要になってきます。例えば、キッズドアを社内向けのランチセッションに招いていただいて、お話しさせていただく機会を設けるなど、そのレベル感でもいいんです。実際、ランチセッションの後に何かできないかという声が上がってきて、取組につながるケースも多いので」
逆に、企業がNPO法人に求めることはどんなことだろうか。
小和田氏「正直、施策を実行するうえで、どのNPO法人と提携するべきなのか、迷うことは多いです。なので、それぞれの特徴をアピールしていただきたいなと思います。NPO法人としてのポリシーや実際に行ってきた活動内容を明確に提示していただければ、価値観の合う団体を探しやすくなります」
楠田氏「おっしゃる通りですね。私たちも、どのNPO法人と組むべきかは、いつも悩むところです。全くアテがない状態であれば、まずは目にしたNPO法人にどんどんアプローチして、いろんな方とお話ししてみるのも1つの手段かと思います」
単なる社会貢献にとどまらない、自社の成長に繋がる取組を
今回のイベントでは視聴者からの意見や質問をリアルタイムで受け付けており、セッション中に多数の質問が寄せられた。質問のなかで多かったのは、社会課題に取り組むために、社内でどのようにコンセンサスを広めていけばいいのか、というものだ。
企業が取り組む社会課題の解決に対して、一般的には「利益度外視」「余裕があればやればいい」というイメージが依然として強いのではないだろうか。売上に直結しないCSR活動は、経営層からの理解を得にくい。また実施できたとしても、社内から強い賛同を得られないということも少なくないだろう。
社内のコンセンサスを強めていくためには、どうすればいいのか。堀氏の投げかけに対し各企業の登壇者は以下のように回答した。
小和田氏「社会貢献にとどまってしまっている状態では、会社にとって何かいいことがあるのか?と言われてしまいがちです。そこから一歩進んで、社会課題に取り組むこと自体が経営に直結すると伝え続けるしかないですよね。これをやることで、例えば売上に寄与するという話ができれば、経営側の見方も変わってきます」
楠田氏「社会課題の解決は、もはや不可避です。大きな社会の流れと捉え、取り組んでいかなければいけません。先ほどもお伝えしたように、これからは社会にとって意味のある企業でないと消費者に選んでいただけない時代なんです。難しいことではありますが、企業の存亡に関わってくるレベルの問題なのだということを伝え続けていくことが重要なんだと思います」
また、渡辺氏は企業がこういった社会課題に取り組む効果をこう話す。
渡辺氏「よく、提携している企業の経営者の方からお聞きするのは、企業として社会貢献に取り組むと、社員がすごく生き生きする、優秀な社員ほど残ってくれるようになるということです。だから、社員のために社会貢献活動をやるんだと断言されている経営者もいらっしゃいました。ボランティアに積極的に参加される方もすごく優秀な方が多くて、社内でも次世代リーダー候補になるような方ばかり。そのような優秀な社員のモチベーションを維持することにも効果的だと感じていますね」
渡辺氏の発言を受け、「実際に社内外の関係者に良い影響が出ている」と小和田氏と楠田氏も同意。
小和田氏「子ども食堂との連携では、数も多いため、社員に手伝ってもらわなければいけないのですが、皆面倒に思うどころか『いつ手伝えるのか』という声が多数上がってくるようになりました。こういった活動を通して社員のモチベーションも上がり、愛社精神も向上するのだと実感しています。また、取引先など様々なステークホルダーからも当社の取組へお声がけをいただく機会も増え、直接お声がけいただけた営業担当のモチベーション向上にもつながっていますね」
楠田氏「ロレアルの場合も同様です。社員は素晴らしい取組をしている企業に所属しているんだ、ということに誇りを感じて愛社精神が高まりますし、取引先からも褒めていただいて、そこから引き合いが生まれるケースもあります。また、最近の学生は優秀な方ほど社会課題に対する関心が高く、新卒採用の面接でも当社の取組に対して積極的に質問をいただくことが多くなっています。」
今回登壇したライオン、日本ロレアルの取組はいずれも単なる社会貢献活動にとどまらない。SDGsで掲げられた17の目標を前提に、自社事業と関連性の高い社会課題に真摯に向き合い、課題解決と自社事業の成長が連動するよう設計されている。
ここで重要なのは、自社の専門性を活かす点だ。「SDGsに取り組むのであれば、自社だからこそ取り組むべきテーマが何かを見極め、取り組む必要がある。でないと一過性に終わってしまう可能性が高い」と小和田氏は指摘する。
最後に、渡辺氏は「少しでも課題に対してなにかアクションを起こしたいなら、まずは気軽に交流を持ってほしい」と語った。
渡辺氏「ぜひ、私たちが展開する学習会や、子供と触れ合う現場に来てみて欲しいと思います。暗い話が多いように思われるかもしれませんが、現場はとても楽しいんですよ。未来を作るのは子供です。そう考えると、すごく楽しく、やりがいのある活動だと思います」
堀氏も最後に、この社会課題を解決するには、視聴者を含めた一人ひとりのアクションが重要だと力説する。
堀氏「僕も街頭インタビューで世の中を良くするためにはどうすればいいですかと問いかけた際、『経済はこうあるべきだ、政治はこうあるべきだ』という話は出てくるんですが、この状態では世の中は変わらないと思っているんです。なので、10年ぐらい前から、世の中を良くするためにあなたはどう行動しますか?と、そのアイデアを聞いてみると、そこで初めて物事が“自分ごと化”され、『じゃあ僕はこれをする、私はこうする』という意見が出てくるんです。皆さんのアクションを連ねていくことが、子供の貧困対策、そしてSDGsの達成につながっていくはずです」
必要なのは、「自分ごと化」による一人ひとりのアクション
「SDGs」「子供の貧困対策」と聞いても、一般的な社会人からすると自分には直接関係のないテーマだと感じるかもしれない。しかし、これらの問題を解決するには、一人ひとりがどれだけ課題を認識し、アクションを起こせるかが重要となる。
堀氏も指摘している通り、政府だけが支援策を施行しても、NPO法人だけで活動しても、根本的な解決には繋がりにくい。政府・自治体、NPO法人、企業、そして個人が子供の貧困と向き合い、解決に向けたアクションを起こさなければいけないのだ。
未来を担う子供たちに対して自分たちは何ができるのかを考え、一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
「子供の未来応援国民運動」https://kodomohinkon.go.jp/
取材・文:水落 絵理香
写真:西村 克也