2020年は、新型コロナウイルスの蔓延やBLM運動など大きな社会変化が起こった年であったと同時に、地球にとっても歴史的な年であった。人工物の量が、地球上の生物量を遂に上回ってしまったのだ。

イギリスのネイチャー紙によると、地球上の生物の総重量は、約1兆1000億トン。対して、コンクリートやガラス、金属、ペットボトルや衣服など、人間が建造・製造したものの総量は、2020年に約1兆1000億トンを超えた。人工物の総量は今後も増えていく可能性が高く、20年後には3兆トンになるとの予測もある。

そんななか、環境意識が高い国々では、使い捨て文化に対する法改正や対抗運動がスタンダード化しつつある。本記事では、「捨てる文化からの脱却」にまつわる欧州の動向をお伝えする。

フランスが商業廃棄禁止を法制化。リサイクルやアップサイクルをスタンダードに

フランスは2020年2月10日に、在庫や売れ残り品などの商業廃棄の禁止を法制化した。法制化に向けて舵を切ったのは、37歳の仏環境連帯移行副大臣・ブリュヌ・ポワルソン(Brune Poirson)だ。

フランスでは年間、まだ使える新品を含め、10億ユーロ(約1180億円)相当の商品が売れ残りとして廃棄されている。今回の法制化に伴い、余剰商品を廃棄物として処理せず、リサイクルや元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すアップサイクルに取り組む義務が、企業責任として付与された。

また、欧州議会は2020年11月、消費者の「修理する権利」を支持する規則案を採択。これにより、これまではメーカー以外での修理が難しかった、あるいは買い替えを念頭にリサイクルに適した作りがなされていなかったPC、スマートフォン、タブレット、家電などの電子機器の耐久性の強化や、リサイクル適性を念頭に設計することを求める規則案などが提示された。

フランスでは国会で、電化製品に修理のしやすさを示す「リペア指数」を付与することも可決されている。

修理をする権利をボトムアップに担保するリペアカフェ

欧州では、モノが故障したとき、新品を購入するのではなく修理を選ぶと答える人が3分の2を占めるという。

こうした消費者の「修理する権利」を支えるサービスのひとつとして、地元住民が集まって壊れた電化製品を修理する「リペアカフェ」が、フランス・パリなどで人気を博している。

このリペアカフェは、日用品や電子機器が壊れた際に無料で持ち込みができ、熱意のあるボランティアのアドバイスのもと、自分自身で修理することができるイニシアティブだ。ジャーナリストのMartine Postmaが、2009年にアムステルダムでリペアカフェを始めたことをきっかけに、ヨーロッパ全域に運動が広がっている。

店内のツールを使って自転車の修理を自分でできるウィーンの「Bike Kitchen」など、電子機器に限らず、さまざまな分野でボトムアップの修理文化が浸透している。

世界に広がるリペアカフェ運動

ボランティア運営を基盤に、修理ができるスペースやツールの提供、ノウハウの伝授をする動きは、ヨーロッパだけに限らない。

台北・師大地区には、日用品を中心に、さまざまなものを自分たちで修繕できる「古風小白屋」というスペースがある。扇風機やデスクランプなど、何かが壊れたらここに持ってくると、リタイアした地域住民を中心に構成されるボランティアが、ここにある工具を使って修理をしてくれる。

「買って、古くなれば捨てる」という21世紀の大量生産・大量消費型ライフスタイルを批判し、再利用を前提とした持続可能な社会を提案する場所だ。

同じく台湾のスタートアップ「REnato lab」は、企業の廃棄物リサイクルに対するコンサルティングや、企業とコラボレーションをした新素材などの開発を行う。環境問題や循環型社会をテーマにした情報発信も行っており、環境に配慮した活動を拡大したい企業と消費者のギャップを埋める活動を展開している。

国連の調査によると、日本における電気電子機器廃棄物(Eウェイスト)排出量は、アジアで2番目に多く、2016年には2.1トンにのぼったという。メルカリなどの普及で中古品のやりとりが増えているとはいえ、日本では未だに、故障した際は高いお金を払ってプロに修理をしてもらうか、捨てるかの2択以外に、選択肢があまりないのが現実だ。

電気電子機器の処分方法がよく分からず、普通ごみに混ぜて捨てられてしまうなど、正しいリサイクルのプロセスを踏まずに廃棄されてしまうEウェイストも多い。デジカメやゲーム機などの小型家電には、金や銀など、多くの有用金属が含まれている。日本国内で家電製品等に使われている金は、世界の金の埋蔵量の約15%になるとも言われている。

コロナで加速した「使い捨て思考」への逆行。どう脱するか?

日本を含め、世界各地で使い捨て文化が根強い場所はいまだに多い。新型コロナウイルスの蔓延により、使い捨てのマスクや医療衛生製品の使用などが加速化し、結果として2020年はプラスチック廃棄が例年以上に増えたという残念なニュースもある。

日本は、1人あたりが排出する使い捨てプラスチックごみ量が世界で2番目に多い。1人当たりの年間食品廃棄物量は世界で第6位、年間2,550万トンにものぼる。

フランスでは、2016年に既に食品廃棄禁止法が施行されており、スーパーマーケットなどにおける賞味期限切れ食品の廃棄が禁じられている。食品廃棄に関する意識の高いフランスでは、リペアカフェのように、衣料や電子機器の分野でも「捨てる」行為に対する抵抗運動が強い。

今後フランスでは、ポワルソン仏環境連帯移行副大臣による、更なる法改正が期待できそうだ。サステナブルを意識して資材の調達先を決定するエシカルサプライチェーンなど、多くの国で環境に配慮した経済活動への投資が始まっている。

「捨てる文化」を脱却し、線形経済から循環型経済や再生型社会へ移行するためには、日本もリペアカフェなどの事例から柔軟に学んでいく必要があるだろう。

文:杉田真理子
企画・編集:岡徳之(Livit