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プラスチックゼロ・脱炭素などを掲げ、具体的な気候変動対策を実施する企業が年々増えている。これらの活動の一環で、世界的な企業が森林を購入し、保護する動きが見られる。
目立った実例では、イケアが米国やジョージアに、アップルが米国やコロンビアに一定規模の森林を所有し、より持続可能なビジネスモデルの構築を進めているようだ。
2社の事業内容を深堀りながら、企業が森林を購入・保護するねらいを考察する。
米国・中国・コロンビアの森林を保護するアップル
アップルは、2015年に米国と中国で、2018年にコロンビアで森林保護の事業を開始している。
この事業の最大の狙いは、製品パッケージに使用する紙素材のカーボンフットプリント(製品の原材料調達から廃棄・リサイクルされるまでに排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの)を最大限に削減すること。
使用される紙素材を持続可能な方法で調達すること、再生紙の含有量を増やし、紙をより効率的に使用することにより、その影響をゼロにすることを宣言した。
森林保護を開始するにあたり、同社は共通の使命と林業の専門知識を持つパートナーを探し、環境保全と経済発展を追求する米国の非営利団体「The Conservation Fund」と提携、メイン州とノースカロライナ州の森林を購入した。
湿地帯や高地といった野生生物の保護に最適なコンディションを持つメイン州の森林では、アトランティックサーモン、ハクトウワシ、カナダオオヤマネコといった生物が生息。アップルは人々のレジャーや雇用機会を守る目的で、この貴重な原生林を保護している。
続いて、世界最大の環境保護団体「WWF(World Wide Fund)」と提携し、中国の森林保護活動にも従事。責任を持って管理されたという認証を持つ森林を増やし、これらの森林から木材を中国国内に出荷。この認証ラベルを取得した製品の市場価値を高めようという戦略だ。
これらの活動を開始した2015年には、同社の製品パッケージの99%以上は持続可能な方法で管理された森林から調達された紙素材、あるいはリサイクル素材が活用されていた。
さらに、2019年には20カ国以上にオフィスを持ち環境保護に取り組む組織「Conservation International and Colombian Communities」と提携。コロンビアのカリブ海沿岸のCispatá湾にあるマングローブの森を27,000エーカー(約10,900ヘクタール)購入した。
その目的は、違法な農業、漁業、伐採による劣化と気候変動から森林を保護し、二酸化炭素の発生を抑えること。何世紀にもわたって水面下の土壌の奥深くに炭素を蓄えるマングローブは、劣化や破壊によって、その炭素を大気中に放出し、温室効果ガスの発生源になってしまうのだ。
しかし、適切な方法で修復・保護することで、マングローブは1エーカーあたり陸地の森林の10倍にものぼる炭素量を貯蔵ことができるという。アップルが購入したこのマングローブは、生涯で100万トンの二酸化炭素を貯蔵することが期待されている。
Appleの環境・政策・ソーシャルイニシアティブ担当副社長のLisa Jackson氏は、「1940年代以降、世界のマングローブ林の半分が失われている。コロンビアでのチャレンジは、樹木と土壌の両方に含まれるブルーカーボン(※)クレジットを完全に定量化した世界初のプロジェクトであり、世界のマングローブ生態系において、森林破壊による炭素排出を抑制するモデルとなるだろう」と主張した。
※ブルーカーボン……海洋生態系に隔離・貯蔵された炭素
森林購入で1/3以上の再生木材利用を目指すイケア
スウェーデン発祥、世界最大の家具量販店・イケアも森林保護に積極的な動きを見せている。2030年に向け「イケア フォレスト ポジティブ アジェンダ」を掲げる同社では、森林管理の改善と生物多様性の向上に向けた取り組みをグローバルに展開すると宣言。
イケアの親会社であるIngka Groupは2014年以降、米国、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニアで約613,000エーカー(約248,000ヘクタール)の森林を購入・保護している。米国では、ジョージア州、アラバマ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州、テキサス州の森林を所持する。
さらに2021年1月には、ジョージアのアルタマハ川流域近くの森林を10,840エーカー(約4,400ヘクタール)購入したことを発表。その地では、地元の木材をベースとした経済は引き続きサポートされ、一般向けにもレジャー目的で土地の多くが開放される。
現在、350種以上の植物や野生生物が生息しており、引き続きこれらを保護しながら、長期的に森林の質を向上させたいと話す。
同社もアップル同様に、WWFや国際的な森林管理の認証を行う協議会「FSC(Forest Stewardship Council)」などグローバルパートナーと協力して、森林の保護に務めている。同グループは、一連の森林保護事業の目的として、以下の3つを挙げている。
1. イケアの事業で使用する木材のみならず、責任ある森林管理を世界中の規範とする
2. 森林破壊を止め、再植林によって劣化した景観を回復させる
3. よりスマートな方法で木材を利用するためのイノベーションを推進する
遅くとも2030年までに、木材のサプライチェーン全体で、信頼性の高いグローバルな第三者認証システムによって認証された、より持続可能な供給源からの木材のみを継続的に使用すること。
加えて、イケアで販売するすべての製品を再利用、改修、再製造可能とし、最終的にはリサイクルできる設計にしたい考え。木材製品においては、2030年までに1/3以上を再生木材で製造することが当面の目標だ。
すでに、2020年度末時点でイケア製品に使用されている木材の98%以上がFSC認証を取得済み、あるいはリサイクルされている実績があるが、同社は「継続して98%以上の達成を目指す」と語っている。
世界中の森林管理の規範をつくる活動では、タイやベトナムのWWFと協力し、竹や籐(とう)を生産する小規模農家に対する森林管理の手法改善に取り組んだ。今後はこの事例を生かし、アジアの多くの小規模農家にFSC認証を普及させていくと意気込んでいる。
気候変動の模範企業へ。長期的な経済効果も?
森林伐採の課題は今に始まったことではなく、過去15年間で米国だけでもすでに2,300万エーカー(約931万ヘクタール)の森林が失われ、紙や木材製品の原材料として供給された。
しかし、2015年9月に世界共通の持続可能な開発目標としてSDGsが定められたことが影響してか、2015年前後からイケアやアップルの森林保護活動が本格化している。
両社には、継続的な森林資源の確保とともに、気候変動への具体的なアクションに取り組むことで、SDGs達成度の高い模範企業として企業ブランディングを向上させたいねらいがあるようだ。
この森林購入・保護の活動がもたらす経済的なメリットについては、両社の公式発表や報道では詳しくは触れられていないが、アップルは自社以外の企業にも森林資源を積極的に供給し、その社会的価値を向上させるねらいもあることから、長期的な視点では経済効果も見込んでいるのかもしれない。
日本でも、ソニーによるスマトラ島南部、ブキ・バリサン・セラタン国立公園の森林保全活動の支援、トヨタ紡織株式会社によるインドネシア、ブロモ・テンゲル・セメル国立公園での植林支援のほか、熊本の肥後銀行が阿蘇市にある「阿蘇大観の森」の土地を保有して植樹に取り組むなど、規模は小さいが企業の森林保護活動の動きが見られる。
世界的に見ても気候変動対策は人びとの関心の高いトピックであり、長期的に安定して森林資源を確保するには現実的で地道な変化が求められる。アップル、イケアをはじめとする企業の森林保護の本格化は、世界的にどんな影響を与えるのか。引き続き、各社の動きに注目したい。
サムネイル写真提供:アップル
取材・文:小林香織
企画・編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/