インド発SNS「Koo」がツイッターの脅威になる可能性、米国一強ソーシャル市場の未来

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New Delhi, India - February 2021 : Koo microblogging app on smartphone, an alternative app to Twitter. Indian version of Twitter, has gained some prominent followers in the recent days

米国一強のソーシャル市場

現在世界のソーシャルメディア市場は周知の通り米国勢が牛耳っている状況だ。

We Are Socialの2021年1月時点のまとめによると、ユーザー数が最も多いのはフェイスブックで、その利用者数は世界27億4,000万人に上る。次いで、YouTube22億9,100万人、WhatsApp20億人、フェイスブック・メッセンジャー13億人、インスタグラム12億2,100万人とトップ5が米国のソーシャルメディアで占められている。

中国のソーシャルメディアがこの状況を変えるかもしれないとの見方もあるようだが、検閲の厳しさから利用を控える人も多く、米国のソーシャルメディアに取って代わることは難しいと思われる。

しばらく米国勢の寡占状態が続く見込みではあるが、中長期で見ると、インドのソーシャルメディアが台頭してくるシナリオも考えられる。若年層が多く人口増が続くインドは、近い将来中国の人口を超えると予想されている。テック人材も豊富で、Eコマース、音楽ストリーミング、映画ストリーミングなどに関しては地元発のスタートアップが市場を席巻している状況だ。

市場リーダーともなると、そのユーザー数は数億人に上る。英語で発信されている場合、世界市場にも打って出ることもでき、米国勢の牙城に食い込むことも不可能ではない。

インド政府 vs ツイッター

今インドでは、そのような未来を予感させる動きが起こっている。

インド政府とツイッターの衝突、それに伴う脱ツイッターの動きとインド発ソーシャルメディア「Koo」へのシフトだ。

このKoo、ツイッターのクローンと称される地元発のソーシャルメディアで、ここ最近インド国内で急速に利用者を増やしている。これまであまり見向きもされなかったソーシャルメディアだが、ツイッターとインド政府の対立激化をきっかけとし、インド保守層を中心に人気が高まっているのだ。

事の発端は、インドで可決された一連の農業改革法にある。この農業改革法に対し、多くのインド農民は反対の意を示し、デモを開始。そのデモを煽るツイートが増えたことで、死傷者が出る暴動に発展。これを受け、インド政府はツイッターに農民デモを煽っているアカウントを削除するよう要求。ツイッターは一度それらのアカウントを削除したものの、数時間には元に戻してしまったのだ。

この対応にモディ政権は、デモを扇動するアカウントを削除しない場合、ツイッター・インド社の社員を逮捕すると警告。これを受け、ツイッターは数百に上るアカウントを永久削除した。

しかしBBCが報じたところでは、「インド法律が定める表現の自由」を理由に、ツイッターは一部のメディア、ジャーナリスト、活動家のアカウントを維持。インド政府はこれを不服とし、国内アプリ「Koo」に目をつけ、脱ツイッターの動きに乗り出したのだ。

インド政府は、ツイッターが米国議会占拠の際は、フェイクニュースアカウントの削除に積極的だったのに対し、インドでは同様の姿勢が見られず「ダブルスタンダード」ではないかと批判の声をあげている。

BBCは2021年2月12日に「The Indian Government’s war with Twitter(インド政府とツイッターの戦争)」というセンセーショナルなタイトルで一連の動きを報じており、世界的に関心を集める出来事となった。

ローカルSNS「Koo」がグローバルSNS「ツイッター」を超える可能性

このツイッター騒動で、インド政府の与党閣僚らはKooにアカウントを開設、それに応じてツイッターで閣僚をフォローしていた人々もKooの利用を開始している。

英語メディアrest of worldが2021年2月18日に、Kooの創業者アプラメヤ・ラダクリシュナ氏の話として伝えたところでは、ローンチされてまだ10カ月しか経っていないKooだが、同時点でユーザー数は300万人に達し、日間アクティブユーザー数は10万から100万人近くに増加したという。

Kooとツイッター、使い方やインターフェイスはほとんど同じであるが、Kooがインド国内で使われている多様な言語に対応しているのが大きな相違点だ。

英語が主流と思われているインドだが、英語を第1言語として話す人は少数。2011年に実施された国民調査によると、第1言語で最も多いのは、ヒンドゥー語(5億2,800万人)であった。またベンガル語(9,700万人)、マラティ語(8,300万人)、テルグ語(8,100万人)、タミル語(6,900万人)など約20の言語が使われている。Kooはそのほとんどの言語に対応しているのだ。

冒頭で紹介したWe Are Socialのまとめでは、ツイッターの利用者は世界3億5,300万人。これに対しKooは現在300万人で、その差は歴然。一見、ツイッターの脅威にはならないように見えるが、Koo人気が高まっている理由とインドの人口動態を鑑みれば、この先、Kooが利用者数でツイッターを凌駕する可能性は否定できない。

Koo人気が短期間で高まったのは、すでにツイッターで多くのフォロワーを有していたインド政権閣僚らが、脱ツイッターの一環でKooにアカウントを開設したことが理由だ。

現在インドはモディ首相率いる保守政党インド人民党が与党となっている。このインド人民党は、党員数が1億人以上おり、中国共産党を上回る世界最大の政党といわれている。党員ではなくとも、人民党を支持する層が多いであろうことは容易に想像できる。このことを鑑みれば、インド保守層だけで、Kooの利用者は数億人になっても不思議ではないのだ。

インド・モディ首相

最近WhatsAppをめぐる騒動で、競合SNSのテレグラムに利用者が大量流出、後者の月間アクティブユーザー数が5億人を越える事態が発生したのは記憶に新しい。

ソーシャルメディア市場における米国勢の優位はいつまで続くのか。Kooを含め競合SNSとの攻防から目が離せない。

文:細谷元(Livit

参考

https://wearesocial-net.s3.amazonaws.com/wp-content/uploads/2021/01/16-Top-Social-Platforms-DataReportal-20210126-Digital-2021-Global-Overview-Report-Slide-93.png

https://www.bbc.com/news/world-asia-india-56037901

https://www.bbc.com/news/world-asia-india-56007451

https://restofworld.org/2021/how-koo-became-a-right-wing-darling-in-india/

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