新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大が続く中、アジアやアフリカなど途上国の脆弱性が浮き彫りになっている。無論、途上国や新興国だけの問題ではなく、我々日本を含む先進国にも影響を及ぼし、世界全体で取り組む共通課題だ。
感染防止には手洗いの効果が実証されているが、UNICEF(国連児童基金)によれば、21億人が安全な水にアクセスできない。また、コロナ禍では新しい社会生活スタイルも必要とされてきている。しかし、こうした困難な状況の中でも、日本企業の技術が感染防止やニューノーマルに寄与する事例が存在する。
本記事では、JICAが実施する「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用し、途上国や新興国の課題解決に取り組む企業や、専門家などのインタビューを交え紹介していく。
ヤシノミ洗剤や手指の消毒剤で知られるサラヤは、ウガンダでアルコール消毒剤を生産し、途上国への手洗いの普及に取り組んでいる。
思考力を育む教育アプリを開発するワンダーラボは、感染症の影響で学校が閉鎖されたカンボジアでオンライン教育プログラムも実施しながら、デジタルを活用した教育の普及を進めている。
新型コロナウイルス感染拡大をどう防ぎ、ともにどう生活していくか。
こうした開発途上国の課題解決に貢献しうる日本企業の技術や取り組みについて、マッキンゼー・アンド・カンパニーやGoogleなどを経て執筆家、IT批評家に転じた尾原和啓氏、JICA 人間開発部保健第一グループ課長の岡田未来氏、サラヤ株式会社 海外事業本部 アフリカビジネス開発室の北條健生氏、ワンダーラボ株式会社 事業開発ディレクターの金成東氏が語った。
日本企業の力とJICAの力を合わせるチャンス
当面、新型コロナウイルス感染症との戦いが継続しそうです。コロナ禍で、日本企業はどのように途上国に貢献しうる可能性があると考えますか。
岡田氏:コロナ禍では、短期的な健康危機だけではなく、長期的な影響として、貧困層の増加、格差の拡大、環境対策よりも経済対策が重視される状況などの恐れがあると思います。SDGs(持続可能な開発目標)では国家だけではなく、企業、大学、市民社会などとの連携やイノベーションの重要性が語られていましたが、2030年に向け、これらを加速することが求められる10年間になると思います。日本企業は技術やアイデア、ノウハウがあり、我々JICAには国内15ヵ所、海外は途上国を中心に約100ヵ所の拠点があります。このJICAのネットワーク、途上国における開発の経験と日本企業の力を合わせる機会だと捉えています。
コロナ禍の課題は多様かつ複雑であり、日本企業への期待は大きいです。例えば途上国には手洗いをする習慣がない国も多く、また水や石鹸が簡単に手に入らない国もあります。また人口密度が高く、設計上も距離を保つことが難しいエリアでは、都市開発の課題にも関係してきます。家庭ごみも含めた一般ごみや医療廃棄物が適切に回収・処理されない国もあります。特に地方ではごみ回収の頻度が少なく、家庭や事業所のごみが山積状態となり、そこから感染リスクが広がるといった状況も見受けられます。さらに新型コロナウィルスによって栄養不足の課題も出てきています。
尾原氏:日本企業は、ディープテック、UX(ユーザーエクスペリエンス)、オペレーション・エクセレンスの三つの面からサポートできると思っています。
先ず、世界に大きな影響を与える課題を解決するための力を秘めている先端的、革新的な技術であるディープテックについて。水が潤沢にない、消毒剤がないということが言われますが、例えば現地の汚水でも飲めるレベルに浄化する技術が出てきています。こうしたケミカル領域で、日本はすごく強い。
日本から現地へ出来上がった水や消毒液を持っていくと、輸送コストが膨大になりますが、ちょっとしたパウダーを持っていって、水の中に入れれば飲める水に浄化できるという技術もある。消毒液は現地にある材料の組み合わせで製造できますから、地産地消を加速する技術が大事です。
二番目がモノやサービスを通じてユーザーが得られる体験や経験。UXの考え方によるアプローチです。手洗いなど、感染を防ぐ生活習慣そのものがないことがあります。
途上国や新興国はこういったコロナ禍であっても、現地の人はスマホを持っていることがある。ならば、スマホで教育をしていくことができる。何かをやったらポイントをあげ、3日続けたら例えば日常で使えるインセンティブが得られるなど、ミニゴールを設ける。習慣化を誘発する日本のゲーム的なUXが、こういったシチュエーションに活用できると思います。
「どうぶつの森」は、ゲームを続けているうちに、虫や季節に詳しくなれますが、こうした設計の能力が日本として貢献できるところだと考えています。
三番目はオペレーション・エクセレンス。厳しい環境の中でも、だれもが簡単にできるオペレーションを開発しないと、なかなか定着しない。「カイゼン」という言葉が世界で使われるように、日本は、その場その時にあった効率的なやり方を磨く能力が高いので、オペレーションの整備でも貢献できます。
コロナ禍での新興国の現状と課題とは
サラヤはウガンダなど世界各地で事業を展開されていますが、コロナ禍で、どのような課題が浮かんでいますか。
北條氏:コロナ禍で、家庭向けや、オフィス向けのアルコール消毒剤の需要が爆発的に増え、日本を含めて供給能力が足りなくなりました。SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルであるとか、こういった世界的な感染症の拡大というのがスピードも規模も大きくなっていますから、何が起こっても十分な供給能力を備え続けるのは、なかなか難しい課題ではありますが、生産能力の確保は大きな課題です。
現在は、ウガンダやケニアでも新規参入業者があふれていて、首都ではアルコール消毒剤が山積みになっています。ただ、それが国全体に行き渡っているかというと、実際はそうではありません。
しかし、それは本質的な問題ではなく、本当にアルコール消毒が必要なのは、1時間に20回以上手の衛生が必要な集中治療室のナースといった医療現場の人たちや食品の製造現場などです。アルコールというのは高コストの商品ですし、途上国の地方のコミュニティでは、まだまだアルコールを買える状況ではなく、ビジネスとしても成り立ちません。緊急事態において急に水道を引いたり、井戸を掘ったりはできないので、アルコール消毒剤が注目されていますが、本来は地域コミュニティ向けには、清潔な水と石鹸で手洗いができる環境を作るのが最適解かなと思います。
ワンダーラボはカンボジアでオンライン教育に取り組まれていますが、事業運営に関してどのような課題が浮かんでいますか。
金氏:カンボジアで学校のPCを使って、授業の中で教育アプリ「シンクシンク」を使ってもらっています。コロナ禍でカンボジアでも休校要請が出て、その間授業がストップしてしまったことがもっとも大きな課題でした。
休校要請の間は、ほとんどの子たちが教育にアクセスできず家にいました。一部の私立学校に通っている生徒は、PCやタブレットを持っている家庭が多いので、学校が提供するオンライン授業を受けていました。公立学校の子たちは、そのようなデバイスを持っている子が限られるため、ほぼ教育がストップしてしまった。今年1月から学校が再開しています。
カンボジアではオンライン教育のインフラが普及していませんから、休校になってしまうと教育にアクセスできない。一方で、スマホの普及率は割と高くて、PCやタブレットを持っていない家庭にもいかに教育を普及していくかがもう一つの大きな課題です。
新型コロナウィルスとの戦いには、民間企業の力が必要となる
保健・衛生分野は、政府や医療機関など公的な役割を担う人たちによる援助が中心でしたが、ビジネスだからできることとして、どのよう課題解決が期待できますか。
岡田氏:新型コロナウイルス感染症の治療、早期診断、予防などの分野で、民間企業のサービスや技術が必要とされています。
治療では、途上国の特に地方部では、医師の数が絶対的に足りません。日本の病院のサポートを得て、医師の能力向上などのサービス、アシスト製品、医療機材管理のシステム化などのテクノロジーが求められています。
早期診断では、ICT等を用いた遠隔による医療診断技術やドローンを用いた検体輸送技術があります。ガーナの野口英世記念医学研究所では、アメリカのベンチャー企業(Zipline)がドローンで新型コロナウィルスの検体を運んでいます。
予防では、消毒剤はもちろんのこと、ワクチンのための超低温冷凍庫や健康関連データの情報収集などが挙げられます。また水の浄化システムや栄養の補助剤なども重要ですし、煙を出さずに高温燃焼できる医療廃棄物用焼却炉を日本企業が開発していますが、こうした分野のニーズも高いと考えています。
尾原氏:遠隔医療やドローンといったディープテックの大事な概念がディセントラライゼーション(分散化)です。今までは病院には行かなければいけない、水道を作るなら浄水場から家まで水道を引く要がありました。
しかし中央に頼る仕組みでは、新興国ではインフラのコストがもたない。中央でない地方都市でも、それを支える技術が重要になっています。
インドのベンチャーでおもしろい例があります。浄水設備のある巨大タンクを製造しているんですが、町の人たちが月に払える範囲でお金を集める、10年ほど使ってもらう。最初の4年間は赤字ですが、その後は収益を上げることができる。ロングタームで考え、ディセントラライゼーションな技術を提供すれば、ビジネスとして収益化できる仕組みをつくることができるのです。
保健と教育の分野では、社会インフラをある程度提供すれば、最初は儲からなくてもいずれ儲かることが統計上わかってくると、金融商品にもできます。例えば海をきれいにすれば、地元の漁師に援助金を払わなくても、漁獲で生活できるようになり、観光客が戻ってくれば、土地の価値が増す。それなら投資商品にできるという発想です。ブルーボンド債と呼びますが、実際に17億円が集まった例もあります。時間がかかってもテクノロジーでいい状態にできることが分かれば、それを確率論でとらえて金融商品にすることで、そこに資金が集まり、ビジネスの流れが生まれるということが起きています。
サラヤは、途上国での事業を、どのような考えで進めていますか。
北條氏:石鹸、洗剤、消毒剤などの製品を使って予防衛生を仕事にしています。2012年に60周年記念事業で、UNICEFがウガンダで実施していた手洗いのキャンペーンに寄付をしたのが、アフリカとの出会いでした。寄付だけではおもしろくないので、日本で対象製品を用意して、売上の1パーセントを寄付することで、日本の消費者を社会貢献活動につなげる。広報宣伝の一環でスタートしました。
ウガンダと縁ができたので、ロングタームでのコミットメントに変えていく、その為にはビジネスに展開しなければならないと、営業部隊に話が回ってきました。
地域コミュニティ向けの石鹸手洗い教育の延長線上でビジネスになればいいのですが、対象となる地域、コミュニティはまだまだ対価を払える状況ではありません。一方で、優先順位の高い医療衛生分野向けのアルコール消毒であればビジネスになるかもしれないと考え、そこから入っていきました。世界では院内感染で年間に約1,600万人の方が亡くなっているという背景もありました。
2014年にウガンダでごく小規模の工場を立ち上げました。最初の数年は、いつ行ってもワーカーが寝ているような状況でした。立ち上げは困難でしたが、コンゴ民主共和国のエボラ出血熱があった2018年、2019年ごろから採算がとれるようになりました。
多くの分野の企業が苦しんでいる中で、それでも途上国での取り組みを継続している企業があります。継続する意義をどう考えますか。
尾原氏:企業がこういった活動に取り組むには収益につながらないと、なかなか続きませんが、ここ4年ほどで明らかに変わってきています。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資という考え方です。
もともとこうした活動は、CSR(企業の社会的責任)という形で、こうした活動をしていることが企業のPRにつながるという話でした。
しかし、2006年に国連のコフィ・アナン事務総長が、環境に対して責任持った行動を取る企業にできるだけ投資をしようというPRI(責任投資原則)を提唱して流れが変わりました。2017年には、投資会社ブラックロックが、ESGを軸にした運用を強化する方針を表明しました。社会に貢献せず、持続的な環境づくりに貢献しない会社は投資するには値しないという流れが生じています。
収益の確保という点で、特に貧困層が集中するサブサハラ・アフリカや南アジアなどの新興国に進出している企業は苦労しています。
尾原氏:乗り越えるまで、10年がかりの取り組みになります。15年、20年がかりかもしれません。営利企業であれば、あきらめてしまいがちです。しかし、ESGをしっかりやっている企業には10年かかってもいいから実現のための資金が集まる環境も生まれています。
ウガンダで事業を立ち上げる際に、サラヤはどのようにJICAのスキームを活用されましたか。
北條氏:2012年にJICAのBOPビジネス連携促進の制度(現在の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」)を活用して、アルコール消毒剤を日本から持ち込み、教育啓発とセットでやると消費者に使ってもらえるのか、啓発で使用量がどれくらい増え、どのくらいの市場規模が見込めるのかなど、ビジネスの実現可能性に関する調査をしました。
すでに現地法人を設立していましたので、一番時間と費用がかかる市場創造のための活動を、JICAと連携して実施した形です。現地生産を始めてからも、衛生管理や感染症対策という話が出てくるたびに、JICAや現地の保健省と一緒に活動し、うまくブランディングができたと思います。そのおかげで、昨年、ウガンダで欠品した時期にものすごい数の競合他社が現れて、お客さんがどんどん離れていきましたが、在庫が戻ってきたらお客さんも戻ってきました。信頼のあるブランドというポジショニングができたのだと思います。
サラヤの事例は、進出支援事業としても一つの成功事例のように見えます。
岡田:成功のポイントは、大きく三点あると考えます。一つ目は現地コミュニティの巻き込みです。サラヤさんは手指消毒の啓発のためのインストラクターを現地で育成していました。そういった中で、現地医療機関における院内感染予防や手指消毒の理解が進んだと言えると思います。
二点目は、保健省や医療機関などの公共機関を販売先とした事業実施です。民間技術の活用はどうしても民間セクターに流れてしまいやすいのですが、ウガンダの場合は、公的機関である地域の中核病院で使ってもらえるようになっており、公的機関との連携が実現しています。
最後は、エビデンスをしっかり取っていることです。論文の投稿、学会発表も含めて、衛生の徹底と手指の消毒が院内感染対策にどのような効果があるのか、実績をデータとして蓄積し、効果を分かりやすくアピールできています。
子どもたちの思考力と意欲を育むアプリ「シンクシンク」
ワンダーラボのアプリ「シンクシンク」とはどんなアプリですか。
金氏:シンクシンク は主に、子どもたちの思考力を育成するアプリです。弊社では、学力を「思考力」「意欲」「知識・スキル」の三要素の掛け算で捉えています。中でも、学力の土台となる思考力と意欲の二要素からアプローチするアプリとして、シンクシンクを開発しました。土台が育くまれると、その上に知識・スキルが乗ってきた時に、伸び方が大きく変わってくると考えています。
シンクシンクの場合は特に、やらされる勉強ではなく、子ども達が自発的にわくわくしながら取り組めるような工夫を随所に散りばめています。
内容は、平面図形や立体図形、パズルなどで構成しています。「知的なわくわく」を体験することが思考力育成の大きなキーワードになってきます。3分間で次から次へと問題が出てきて、正答率によって問題の難易度が変わっていきます。最初は簡単だと思って取り組んでいても、途中で壁にぶち当たる時が来るんですね。壁にぶつかった時は「どういうことだろう?」「どうしたらいいだろう?」と悩んでも、じっくり考え抜くと「こういうことか!」「こうすればいいのか!」と、3分の中で子ども達にとって様々な気づきが発生するようになっています。そこがもっとも思考力の育成につながるところだと考えています。
対象年齢が4歳から10歳であるため、文字情報を最小限に抑え、ゲームのようなUXで、直感的にルールを理解できるよう設計しています。先生や保護者がこうしなさいとルールを細かく説明しなくても、子ども達が自らルールを読み取れる。それはカンボジアで子どもたちが取り組む際にも、大きな強みになっています。
シンクシンクの活用可能性を調査する「普及・実証・ビジネス化事業」では、どんな取り組みを進めてきましたか。
金氏:第一段階として2018年にJICAの案件化調査を活用し、公立学校5校の約1500名の生徒を対象に、シンクシンクが子どもたちの学力に与える影響を検証しました。
ここでは、学力とIQの他、自己肯定感、意欲といった非認知能力にも統計上有意な効果があるということが検証されました。現在実施中の「アプリ教材「Think!Think!」の活用による初等教育のSTEM学力向上に関わる普及・実証・ビジネス化事業」では、この効果をカンボジアの公教育カリキュラムの中で検証し、普及を目指しています。
具体的には、パイロット校を8校に広げ、対象者を3,000名に増やしてパイロット事業を行っています。カリキュラムにあるPCの授業にツールとしてシンクシンクを組み込む形で実施しているので、学校にとっては追加の時間を捻出することなく、無理なく進められます。もうすぐ2年目が始まるので、その中でアプリの効果を実証し、普及に繋げていきたいと思っています。
新型コロナウイルスの感染拡大により休校となった時期には、教育省のFacebookページや国営テレビを通じて動画を配信することで、公立学校生徒を含む約2万人の子ども達にオンライン授業を視聴してもらうことができました。
非言語コミュニケーションは日本の強みであり財産
教育の市場としての途上国をどう見ますか。
尾原氏:新興国は、環境やインフラが整備されていないので、いきなり最新の環境を作ることができる。日本のように旧来のものをどう変えていくかを考えないでよく、アドバンテージに繋がると言われます。識字率やデバイスの普及、インフラなど問題はあるんですが、必ずデバイスもインフラも安くなると考えています。
新興国ではローカルの言語を使用する国が多いので、言語を使わなくてもゲームのように学べるツールがあると、さらに普及していくと思います。日本はそういった、言語や文化に関係なく、ツールやソフトの開発の技術力はもちろん、アイデアを生み出し、世界へ発信できる力があります。たとえソフトの開発に10億円かかったとしても、ターゲットとする方が1千万人いれば、1人あたりのコストは安くなります。
東南アジアは若い方の人口が増えていますから、対象人数が倍になればコストが半分ということになり、最終的にはユーザーに安く提供できる。黒字になってより多くのユーザーに使ってもらえば、同じ値段で提供しても、どんどん儲けが増えていくと考えられます。
金氏:まだ採算を確保できている状況とは言えませんが、まずは公立学校のカリキュラムに入れていくのが事業の基本線です。その場合、教育省に予算を確保してもらうことが課題となりますが、JICAの事業の中で、しっかりと効果を示し、教育省や学校関係者の皆様にシンクシンク導入の意義を訴えていきたいと思います。
また現在、私立学校にも営業活動を進めています。デバイスおよびインフラも含め、やはり私立の方が整備されているので、そこで採算を確保していくことも検討しようと思っています。さらにカンボジアではスマホが普及してきているので、シンクシンクをダウンロードしてもらい、家庭での利用を促進していくことも志向しています。事業を多角的に展開しながら、カンボジア全土に「知的なわくわく」を行き渡らせたいと思います。
オールジャパンで途上国・新興国進出を支える
北條氏:途上国で活動する中で、だれから対価を頂くかが最も難しいと思います。我々ですと、地域コミュニティ向けの活動はなかなかお金になりませんが、最近いくつか事例が出てきました。規模の大きな国際NGOは、幅広いプロジェクトを組みますが、その中で、手の衛生の部分を外注して頂きました。製品とサービスを提供する対象は難民キャンプの住民ですが、対価は国際NGOから頂きます。こうしたパターンが少しずつ出てきました。単純なビジネススキームだけでなく、幅広いステークホルダーを巻き込む形で、色々な活動を組み合わせながら持続可能な形を見つけられればと思います。
尾原氏:教育は国の基礎です。教育が進むことによって、教育を受けた人たちが後に稼げることが重要だということもあります。職業訓練学校であれば、インカム・シェア・アグリーメント(ISA)という形で、無料で教育を受けてもらい、訓練を受けた人が増えれば後に収益が増えるので、収益の一部を授業料として何年かかけて返していく事業の作り方が出てきています。
JICAが実施する日本企業の途上国でのビジネス展開をサポートする事業は、基礎調査、案件化調査、普及・実証・ビジネス化事業と3種類ありますが、この制度の活用を終えた後、企業を支えていく仕組みはあるのでしょうか。
岡田氏:調査結果を踏まえて、JICAとしてもビジネスに必要なフォローをしていきたいと考えています。JICAは、JETRO(日本貿易振興機構)、中小機構等と連携の協力に関する覚書を交わしていますので、そういった関係組織を紹介できますし、今後の進出についてオールジャパンで支援していければと思っています。また日本企業が現地パートナーと組む形でのB to Bへ向けた取組みについても促進していければと考えています。