グーグルは2021年9月からリモートワークからハイブリッドにシフト
ワクチンの普及が見込まれる2021年、リモートワークを続けるべきか、オフィスワークに戻るべきかに悩む企業が増えてくることが見込まれる。
リモートワークとオフィスワークにはそれぞれ利点と欠点があり、産業・企業・職業ごとにその効果は異なってくる。2020年はリモートワークを強いられた形だが、オフィスワークに戻る機会があるのなら、戻りたいと考える企業は少なくないと思われる。
このリモートワークかオフィスワークかという議論に対し、グーグルは、両者を組み合わせた「ハイブリッド型」が最適であろうという仮説を立て、今年9月から導入する計画だ。
ニューヨーク・タイムズ紙(2020年12月14日)によると、グーグルのサンダー・ピチャイCEOは社内メールで、2021年9月から「flexible workweek」というプログラムを試験運用する旨を発表。現在、多くの社員がリモートワークで働く中、同月から1週間のうち最低3日間をオフィスで、残りをリモートワークにするプログラムという。
同紙が入手したピチャイCEOの社内メールには、「フレキシブルワークモデル」は生産性、コラボレーション、ウェルビーイングを高める可能性があり、その仮説を証明するのが目的だと記載されていた。
グーグルは、2020年3月頃にリモートワークに移行、その後何度かに渡りオフィスに戻る時期を発表したものの、その時期を遅らす決定を下している。当初は2021年1月にオフィスに戻る計画を発表、その後7月に延期、そして今回9月に延期された格好だ。
グーグルは、シリコンバレー企業の中でも率先して働き方改革を行い、先例をつくってきた過去があり、今回のフレキシブルワークモデルがうまくいけば、他の企業に普及する可能性も十分にあると見られている。
また同社は、感染リスクを低減するために、感染事例が少ない場所に新オフィスを開設する計画も進めている。オフィス不動産の専門家の一部は、パンデミック収束後のオフィスは分散型になるだろうと予想しているが、グーグルの動きはそれを体現するものといえる。
リモートワークがウェルビーイングに及ぼす影響
グーグルが「ハイブリッドワーク」がリモートワークよりも、生産性、コラボレーション、ウェルビーイングを高めるであろうという仮説に至った詳細な経緯は不明だが、リモートワークに関するいくつかの調査を見れば、ハイブリッドワークがリモートワークのみ、またはオフィスワークのみよりも優れているかもしれないという視点が得られる。
ウェブアプリ開発企業Bufferによる、世界3500人以上を対象にしたリモートワークに関する調査「The 2020 State of Remote Work」を参考に、グーグルがこの仮説に至った理由を探ってみたい。
同調査の回答者は、47%が米国、次いでカナダ(5.5%)、英国(5.2%)、インド(4.3%)、スペイン(3.2%)、フランス(2.6%)、ドイツ(2.4%)などとなっており、欧米・英語圏の回答者が多い構成となっている。
回答者が考えるリモートワークの利点で最も多かったのが「フレキシブルなスケジュールが組めること」で32%だった。これに「どこでも働ける」(26%)、「通勤をしなくてもよい」(21%)、「家族との時間が増える」(11%)などが挙げられた。
つまり、リモートワークの利点として多くの人が感じているのは「ウェルビーイング」が高まること。オフィスワークのみでは、働く場所を決める裁量がなくなり、通勤も必須、さらに家族との時間が減るため、ウェルビーイングは下がりがちになってしまうことが示されている。
リモートワークが生産性を下げる問題
一方、リモートワークには欠点も多々ある。最も多いのが「コラボレーションとコミュニケーションに関する問題」と「寂しさ」だ。ともに回答者の20%がリモートワークの最大の欠点と回答。次いで「常にオンラインでいなければならない」(18%)、「自宅で気が散る」(12%)、「タイムゾーンの差異」(10%)、「モチベーションの維持」(7%)などがランクイン。
この数字は、リモートワークが生産性にネガティブな影響を与えている可能性を示唆するもの。一般的にリモートワークで集中できるという人も多いが、多くの人が携わるプロジェクトであれば、認識に齟齬ができないように、コラボレーションとコミュニケーションを密に取る必要が出てくる。ビデオ会議と対面でのコミュニケーションは全く異なるもの。コミュニケーションがうまくいかず、全体の生産性が落ちてしまっても不思議ではない。
また1人暮らしであれば、集中できる環境であり、生産性は高まるケースが多いと思われる。しかし同時に「寂しさ」を感じる場合も少なくないだろう。一方で、家族がいれば寂しさを感じることは少ないが、気が散ってしまうことが多く、生産性は下がってしまう。コラボレーションとコミュニケーションに関しては、リモートワークよりオフィスワークに軍配が上がるであろうことは容易に想像がつく。
グーグルに続きハイブリッド型を模索する企業が増えていくことが考えられる一方で、完全にオフィスワークに戻る企業も増えてくるかもしれない。
オフィスワークに戻る可能性のある企業の1つがネットフリックスだ。同社のリード・ヘイスティングCEOはウォール・ストリート・ジャーナルの取材で、人と対面で会えないことは「pure negative(いいことが1つもない)」との見解を示し、オフィスワークの優位性を説いているのだ。
ワクチン普及後の働き方はどうなっていくのか。グーグルのハイブリッドワークがどう機能するのかも含め、今後の動向が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)
参考
https://lp.buffer.com/state-of-remote-work-2020
https://www.wsj.com/articles/netflixs-reed-hastings-deems-remote-work-a-pure-negative-11599487219