世界初、3D印刷の大型クレイハウス「TECLA」イタリア・ボローニャから生まれるサステナブル建築の未来形

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あらゆる分野で脱炭素が叫ばれる今、建設業界もその例外ではない。建物のセメントから出される温室効果ガスは、世界全体の排出量の約8%。その量は航空業界と比較しても格段に高く、建設業における温室効果ガスの削減努力は必須課題となっている。

そんな中、2021年春にイタリア・ボローニャで粘土を原料としたクレイハウス「TECLA」が誕生するという。TECLAは最新の建設用3Dプリンタで建てられたエコハウス群で、完成したら、世界初の3D印刷クレイハウスコミュニティとなる。

建設資材は粘土、米の藁、もみ殻など。自然素材のエコハウス

Technology and Clay(テクノロジーと粘土)から名づけられたTECLAのプロジェクトは、イタリア人建築家Mario Cucinellaとイタリアの3DプリンタメーカーWASPを中心に進められている。

サステナブル建築の第一人者であるMarioは、これまでもイタリアを中心に、世界中のイノベーティブな建築プロジェクトに携わってきた。今回は、3D印刷という最新技術とコラボした、再生型素材によるカーボンニュートラル建築に挑んでいる。

TECLAの壁には現地で採掘できる粘土や砂を使用。これに米の藁やもみ殻、石灰を混ぜ合わせたものを建築資材にしている。資材は足りなくなったらすぐにその場で調達・作成ができるため、急なプラン変更やアクシデントにも臨機応変に対応できる。

建設には、印刷領域・最大50㎡の大型3Dプリンタ「クレーンWASP」を複数台稼働し、少人数で作業。「印刷」時間は200時間程度と驚くほど短く、時間・マンパワーともに最小限で済む。

自然の換気や断熱壁を備えるTECLAの室内はいつでも適温に保たれ、暖房・冷房は不要。ドーム型の建物には天井窓が設置され、昼は適度な自然光が差し込み、夜は星空が見られる。

「ドロバチ」からアイデアを得たTECLA

TECLAプロジェクトは、将来的な人口増加に対応する、安価で環境にやさしい家を開発したいという想いから始まった。

2017年に発表された国連の報告では、現在の世界人口は76億人だが、2100年には112億人に達する見込み。そして2030年には50億人近くが都市に住んでいると予測する。農村地域の都市化は避けられず、それによる環境破壊も懸念されている。

地球全体が都市化していく中、脱炭素社会を実現することは、各国政府の喫緊の課題である。

住宅の建設には、大掛かりな重機や工場生産による人工的な資材を必要とする。そのため、建設過程では大量の温室効果ガスが排出され、かかるコストも膨大だ。

TECLAは、泥で巣を作る昆虫のドロバチから着想を得たという。“そのへんの土”を使うことで輸送費が抑えられ、環境にも負担をかけない。

2018年、WASPは粘土や天然の半流動素材の流し込みができる、大型建設用3Dプリンタ「クレーンWASP」を開発。Marioとともに、TECLAのプロトタイプとなる小型クレイハウス「Gaia」を制作した。

30㎡で円形戸建てタイプのGaiaは、およそ数週間で完成。外壁の「印刷」は10日で完了し、壁に使用された資材コストはわずか900ユーロ(115,000円)程度であったという。

地元のスタートアップ・専門機関と連携

TECLAやGaiaの制作には、地元のスタートアップや専門機関も大きく関わっている。壁の資材に米の藁やもみ殻を使用するというアイデアは、イタリアのスタートアップ「RiceHouse」から得たものだ。

RiceHouseは2016年に創業された農業・建設分野のテックスタートアップで、コメ生産の過程で排出される自然廃棄物を、グリーン建築資材にアップサイクルすることに取り組んでいる。Gaiaの外壁には緩衝材としてもみ殻が差し込まれており、それが自然な断熱効果を生んでいる。

Marioは自身の建築事務所のほか、サステナブル建築の専門学校School of Sustainability(SOS)を主宰している。SOSは世界のあらゆる地域・気候下におけるケーススタディをもとに、持続可能な建物やコミュニティづくりを研究している。TECLAにはSOSの研究内容が反映されており、ある意味、実験的なプロジェクトとも言える。

粘土の原土の成分を解析し、3Dプリンタ用に高度に最適化した資材を作り上げたのは、イタリアの大手建築資材メーカーMapeiだ。TECLAはさまざまな分野の叡智・技術が集結した、一大チャレンジプロジェクトなのである。

10〜20年後には3D印刷建設が主流に?

3D印刷技術の躍進も大きい。今はまだ3D印刷による住宅建設はマイナーであるが、米国の3D印刷住宅模型会社LGMのCharles Overy代表は「10〜20年後には、3D印刷が建設の主流になる可能性がある」と予測する。

その理由のひとつに、建設業界の労働力不足が挙げられる。ハードな作業が強いられる建設現場は、慢性的な人手不足にある。そのため政府は、少人数で作業が可能な3D印刷への投資を早める可能性があるという。

廃棄物の削減という点も見逃せない。たとえば185㎡の家を新築する場合、およそ3トンの廃棄物が発生し、そのほとんどが埋め立て処分される。一方3Dプリンタは、必要な資材の量を設計時に認識できるため、事前に無駄を省くことが可能だ。また、資材の輸送にかかるコストや二酸化炭素の排出量も抑えられる。

TECLAのように、天然の材料を使った3Dプリントハウスも登場しつつある。ニューヨークの建築会社SHoP Architectsは、2016年にフロリダで行われたデザインイベント「DesignMiami」で、4.5トンの竹の複合材を使った3D印刷パビリオンを展示した。複合材には竹のほか、生分解性のバイオプラスチックを使用しており、新時代の循環型建築を内外にアピールした。

建物の「地産地消」の可能性

話をTECLAに戻そう。TECLAが地球環境にやさしく、健康的な住宅オプションになる可能性はここまで述べた通りだが、地域経済の活性化への期待も高い。

建築資材に地元の土や米の廃材を使うことで、これまで見向きもされなかった資源が価値を持つこととなる。そこに金銭が流れ込むことによって地域経済が潤い、農家支援にもつながる。

その土地で生産された材料で家を建て、住み、最後は土に還る――。すべてのプロセスが地域で完結する、建物の「地産地消」が実現するかもしれない。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

<参考>
A 3D Printed Global Housing Community is being Constructed in Italy for Sustainable Living!
3D Printing: The Sustainable Housing Alternative of the Future?

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